かえってきた姫様スターダスト(A・B)感想
姫様スターダストも観劇し、そして今回、少し久しぶりの感じの「かえってきた」シリーズ。姫様スターダストの感想は途中で書く時間なくなり止まってしまったので、ここで改めて書きたい。
今回両チームとも劇場で観劇。双方をミックスした形で書いていこうと思う。
パラレルワールドとスクールカーストという異色の組み合わせ。
スクールカーストについては、教師側も気にしているが、「いじめがあるわけではない。役割分担されていていいこともある」という冒頭。
1軍が一番上かと思うと、さらにその上があり、P3と呼ばれる超勝ち組三人がクラスを仕切っている。スクールカーストを分かりやすく、RAVE塾ではお馴染みの説明シーンで解説。スクールカースト。言葉も意味も分かっているだろうけど、客層はそんな言葉がなかったであろう人たちが多い。
そういう人たちが思う言葉を、勝ち組側が「いじめはない」と否定する。
スクールカーストという言葉はなくても、いつの時代も同じような構図にはなる。そして最下層はいじめられているのではないかと思われる。
昔と大きく違うのは、”人”ではなく”層”であるところだろうか。
それがこの物語でも重要な意味を持ってくる。
勝ち組で自分たちが常に中心。教師すらも自分の思い通りに動かせるくらいに思っているP3。この三人が当然主役として扱われる。
しかし前作を観ている人間からすると、主役はこの3人だけではない。むしろ注目したいのはD3だとすら思ってしまう。
パラレルワールドの概念は、色々な作品で考え方が違う。基本的な部分は「平行世界」としてだが、それ以外はある程度自由が利く概念。
P3とD3が立場が逆転するだけではなく、この作品では大きく立場が変わる。そのため、現行世界では端役の様な立場で、「あれ、今までの出演歴からするとどうした?」と思う人が、平行世界ではメイン級に活躍する。これがこの作品の面白いところで、真逆の役を演じる必要が出てくる。
そんな中、P3とD3だけは、違う役者で演じている。ここがメインが6人といいたいところである。
作中でも、同じような環境なのに、顔が全然違うことになるかという質問をし、環境で顔つきも変わるからあり得るんじゃないかと言う。
同じ環境で勝ち組と負け組が正反対になるというものも実に興味深いが、この6人に関しては環境で顔つきが変わるというのがもっとも大きい。
D3は、家庭環境がP3と大きく違う。大きな苦しみを背負っている。
つまり、大きな苦しみを背負ったからこそ、あの顔になったと言っているようなものである。D3を演じた3人は、その背景を背負った顔を作り上げなければならない。
D3は、クラスの中では最下層だが、三人でいるときは決して悲観的ではない。いじめられているわけではないという認識かもしれない。でもこれが、”層”で複数でなかったら、どうだろうか。あんな風にささやかな笑みを浮かべられるだろうか。
基本的にコメディということもあり、そんなことを思わせないが、この作品で感嘆したシーンがある。
それはAチームの百瀬るうさんの演技だ。
話は少し飛ぶが、D3の内二人が、「学校楽しいのか」「私なら来れない」などと言われる。これはもういじめと同じレベルなのだが、当人たちはそのつもりはない。
そして言われた2人は、もう愛想笑いをするしかない。反論しても何を言われるか分からないし、これからの事を考えたら笑ってごまかすしかない。相手のいうことに対して、”肯定”が一番無難。これがもはやいじめられている側の心理だ。
この様子をD3の一人、それも中心となっている友崎沙耶香は、P3の三人と一緒に、そんな2人の様子を陰で見ている。その時の表情。
二人が心の中で見せているであろう表情を、悔しさと怒り、そしてそれを超える悲しみ。これらをいり交ぜた複雑な表情を作り上げていた。
二人は決して見せることのできない表情。見せてはいけない表情。見せたらそれは無言の反論。
あの時、あの立場で唯一あの表情が許される役だった。それをしっかりと表現していた。
舞台上でもメインではなく、薄暗い中での表情。
配信では残念ながら、カメラもるうさんの表情をとらえていなかった。しかし、あの場面であの表情を作りあげているのに感嘆したし、その瞬間に気が付けて良かったと思った。
元々、百瀬るうさんを知ったのはこのRAVE塾作品だった。
そして他の団体さんでの演技も観たが、RAVE塾では見せないような明暗の使い分けと表現がうまく、印象が変わった。そして今回、そのハードルが上がった中で観たわけだが、また更に好きになってしまった。
他にも気になるところはあったが、それはまた後ほど。
RAVE塾作品は、AとBで割と印象が変わる作品もしばしば。
今回はD3がよりコメディ寄り、漫画寄りという感じだったのがAチーム。前作の姫様スターダストは、Aチームしか観なかったので、そのイメージがついている。そのため、Bチームを観た時は少し控えめにすら見えた。
しかし決定的に違うのは、これもたまにあるが、Aにはいない登場人物が出ること。
今回のBチームでは、ディメンションパトローラーのララがそれに当たる。
ララがいることで、時空を超えた理由が、作中のようにやや物理的に説明される。それはそれで、それなりに説得力のあるもので、かつ、そこにララの境遇まで描き、もう一つの物語を描く。このララとのやりとりが入っても時間はほぼ変わらず。ただ、この物語の先には少し展開が変わってくるように感じた。
修復されるように動いていることが事実として明かされたBチーム。それが明かされない、ただの不思議な現象として、またララがいないことで、使命的なものとして時空を超えたとしての理由が強調されるAチーム。結末はD3の三人(+ララ)が時空を超えるが、片や修復作業がされている、更にララは「抗ってみよう」と覚悟を決めていることからも、Bチームはもう戻れないかもしれない。そんな事が考えられた。
一方で、「見学に来た」という両チーム共通のセリフも、ララの決意のセリフが組み合わさることで、ララがもしかして意図的にこっちに連れてきたのではないか、だからD3の三人は戻れるのではないかとも考えてしまう。
その後の展開は描かれていないし、表情もそこまで物語ってはいないが、非常にこの後が気になる終わり方だった。
そしてAチームは、やはり少しコミカルに感じる。ふざけた部分がコミカルだからこそ、前述したような百瀬るうさんの表情がより引き立つ。とぼけた後に頭(額)のあたりに手を添えるのも、普通ならなかなかやらない仕草。あれこそ漫画寄りで、「そういうことをやる人たち」という印象がつく。
笑わせ、そして可愛く、愛らしくすら思えるのに、スクールカーストの中ではそんな印象は持たれることはない。そして控えめ、でも存在を消すわけにはいかない。それがあの愛想笑いと影での苦しい表情に繋がる。
百瀬るうさんの登場シーン。なぞなぞに「おにぎり」と答える時や、真面目な展開から「よぉ~」と鼓を叩く真似をするシーン
この序盤で見せる笑顔、そして話の続きを聞かせてほしいと言われた時の一休さんと古畑任三郎を混ぜたような仕草、突然ラジオ体操のようなポーズ。これらが特徴的で、いわゆる一昔前のオタクの様な感じに見える。あのD3だからこそ、その中心だからこそ、誇張された役を作り上げたと思った。
実際、「学校楽しくないでしょ」といじめられるシーンも、Bチームの二人は愛想笑いではなかった。愛想笑いの笑顔すらなかった。これだけで、D3の印象は大きく変わる。だからこそ、その中心にいる友崎の人物像も少し変わって当然だと思った。
どちらもP3は、最初は順風満帆な自らの人生を背負っている。それが、もう一人の自分、もしかしたら自分もこうなっていたかもしれないというもう一つの人生を背負うことになる。
一つの役で2つの人生を背負うことになるそれは、人格をも変えてもおかしくない。事実、3人とも価値観は変わる。変化していくという言葉の方が適切だ。
それぞれ6人とも、心の変化が起きていくのが一つ重要なところだが、百瀬るうさんの場合、それが笑顔に現れていたように思う。
笑い方が変わっていく。笑う場面が変わっていく。
最初のオタクのような笑い方。そしてクライメイトたちといるときは笑顔を見せなかった。それが、P3といるときは笑顔を見せ、その笑顔も少しずつ変化する。
カナブンが死ぬところに意義を唱えるところで、ようやくクラスメイトたちの前で笑顔を見せる。最初のそれは、愛想笑いかもしれないが、そこから少しずつ、クラスメイトたちの中でも笑顔を見せ始める。
元々はクラスの中心で明るかった友崎というものがある。今のD3の友崎のキャラは自らが作り上げたもう一人の自分だとしたら、少しずつ元に戻れているのかもしれない。
その中でも、小道具の話をした時は、あの考える古畑一休のポーズをとるなど、その時点ではまだ完全に戻れていない。まだ殻を壊せていない。そんな変化を見せる。
これも、AチームのD3だからこそ、という風に感じた。
それでも両チームとも、少しずつP3と話す時に敬語がなくなってくる。距離が縮んできて、そしてP3は元の世界での”歩み寄り”でその変化を見せる。
あっさりと殺されてしまうカナブンの気持ちが分かったからこその変化。
先ほど書いた「学校楽しくないあなたたちが」といじめられるシーンも、逆にD3がP3に問う場面もあった。腹の探り合いをして、政治家の様で、ごちゃごちゃ考えて大変じゃないかというシーン。これは大人にもそのまま適用される言葉だった。いや、大人にこそ投げかけたのではないかと思う。それでも楽しいというP3。自分たちは一番上だからと。それは上まで行けば楽しいという逆説にもとれ、それが切ない。じゃあ、一番上でない場合はどうか。
大人の場合は、楽しいという感情は後回しにされるが高校生であれば、それが優先されても当然良い。だが彼女たちは周りに気を配って今の地位を築き上げた。もう一人の自分たちには、自分たちができたのだ、きっとできると勇気づけたかっただろう。だが、どこかで、一番上ではない人たちの事も頭をよぎったからこそ、変化が生じてきたのだろう。
ここまで百瀬るうさんの演技を中心に変化を書いてきたが、Bチームは機微を穿つのが上手い人たちがそろっていたという印象。
同じシーンでも見せる表情が違う、向ける視線が違う、逆に視線を反らすことなので、Aチームとは違うP3・D3が完成されていた。
ここまで印象が変わるものかと思ったほどだ。
﨑野萌さんは安定した演技。RAVE塾では、あまり一人の人生を掘り下げるということはないが、彼女の真骨頂はその人を自分の中に落とし込み、さらに自分として表現すること。
2つの人生を背負い、その狭間の変化をしっかりと表現する。それも、日常の人間らしく見えないような部分で表現するからこそ、そういう場面を見かけると嬉しくなる。
そして彼女が話すセリフは、勢いとテンポをもたらす場面も多く、RAVE塾にはもはや欠かせない役割になっている。
今回はもう一人の自分を見守る視線も、温かいものがあった。
特に藤井菜央さん演じる役が語るとき、その姿を見守る視線は温かく、富樫の根の優しさが出ている。この二人を同じ人物の役にキャスティングするというのも絶妙だと思ったが、この二人のやりとりのテンポの良さは観ていて安心するし楽しい。しかも親友を演じる機会はあっても、同じ役を演じて、同じ作品で登場して会話というのは、この作品でないとありえない。非常に貴重な場面に出逢えたのかもしれない。
この物語の要素として、D3の苦しさを引き立てるのに必要な要素がもう一つ。それがP3の傲慢さ。この3人は、嫌な奴という印象を与えれば与えるほど、D3が受けている仕打ちが鏡に反射したかのように返ってくる。
高貴なお嬢様というところが一番イメージしやすいかもしれない。
人には先入観や思い込み、イメージがある。そして今回、P3のPは、プリンセスと来ている。どうしてそうなったのか、入学してからどういう経緯でなったのかを掘り下げてもらうのも面白そうだ。逆にD3がどうしてそうなってしまったのか掘り下げてもらうのも面白そうだ。AとBで、一つの世界観のパラレルワールドを描くというのも面白そうだ。
話が逸れたが、A・B通じて、高貴な感じに直結する印象を持ったのは、結城クロエさんと﨑野萌さん、漆畑瑠奈さん。そのまま貴族的な服を着ても似合いそうな感じ。
だが、そんな印象ではない他の人たちはというと、可愛い感じなのに、けっこうえげつない要求をする、無垢な子供の非情さのような怖さがある。
中島明子さんは色々な作品で観てきたが、あまりこういう役を観た記憶がない。どちらかというと、ひたむきに頑張るような役が印象に近い。
中島さん含め、そのギャップが面白く、そしてこれら6人が絶妙に組み合わさって出来ているチームだからこそ面白い。
中島明子さんや榎本遥奈さんは、劇団東俳の自主公演でも観ているが、本当に毎回見るたびにそのしっかりとした演技でどんどん気になる存在になっている。D3を演じた榎本さんも、P3の中島さんも少し印象と違って驚いたが、それも一瞬ですぐに馴染んでいった。まだ榎本さんには会ったことないけど、素の姿の彼女と直接話してみたいと思った。
そして機微を穿つのが必要なのは、D3も同じ。
今だけ、この高校生活だけ耐えればいいんだと漏らすが、その考えがいじめられてる人たちと同じ感覚ということに気が付いていたのだろうか。そしてそれが出来なくなった時、一線を超えた時、自分たちでも感情のコントロールが利かないことに。
P3が言った「今そんな考えの人間が、ここを出たら一気に変えられるわけない」という言葉。まさにそう考えていた。
人生、どこかで仕切り直したいと思うことはある。環境が変わるタイミングはまさにその時だが、そこで変えられる人は、底までたどりついていない程度ではないだろうか。本当に心に傷を負ってしまったものは、いくら変えようと思ってもそうはいかない。
傷が深すぎると、そもそも変えようとは思わないし、思えない。彼女たちは自分たちの想像以上に傷を負っているのだろう。だからこそ「耐える」という認識になってしまう。
それでも耐えられるのは、三人だから。そこには確実に友達の存在が大きい。
この友情は、P3よりも繋がりが強く感じた。小学二年生みたいなクイズを出し合っていも、お天気コーナーごっこしていても、それで楽しめるのは三人だから。
両チームとも、D3は友情の美しさが奇麗に表現されていたと思う。
その輪の中に少しでも入りたいと思ってしまった者は、彼女たちが苦しんでいる姿に自分たちも苦しくなったはずだ。それだけ感情移入できる演技だったと思う。
Aチームはコミカルなシーンが多く、そうしているのは百瀬るうさんの演技で書いてきたが、だからこそ最大限に活きたのが、「もう一つの世界ではあなたたちがいないの」と言われた瞬間の表情。あの瞬間の表情、それは、それまではシリアスなシーンでも、どこかその雰囲気を嫌がってごまかすような言動だったのが、あの瞬間はそれがなく、グッと引き込まれる。
「え?」という短いセリフとあの表情。そして少し笑いを招き、そこから展開するもう一つの自分たちの家族の話。ここでまた涙を誘う。
ラストシーン。「見学に来たのー」という時の声のトーンと笑顔が、この作中で一番のものになる。この瞬間が、友崎が大きく変わった、そして会いたかった人に会えた嬉しさの表現を凝縮したものだと感じ、さらに、もう一人の自分とハグするシーンも、るうさんだけ飛びついていて、更に表現を強める。
今回、A・B それぞれで色々な形で変化も表現されていたが、特に表現が顕著で気になったのが百瀬るうさんだった。
Bチームは正直、全員が安定しすぎて何を書こうと思ったくらいだった。さきほどのラストシーンでも、入って来た時に榎本遥奈さんが自然と違うクラスメイトたちに目をやったりと、よく人を観察されているという感じで、一人一人の完成度が高くて驚く。
RAVE塾作品常連も多いので、このメンバーなら、もっと予想の斜め上を行くような作品でも面白いと改めて思った。
それこそ、今までにない役、例えば﨑野萌さんや中島明子さんが教師役で、Aチームの様な舞台経験の少ない人たちを生徒役で・・とか。過去作品、かえってきたシリーズも多いが、それらの作品で成長した生徒たちが、教師としてかえってくる続編があっても面白そうだし、それらをまたしっかりと作り上げてくれそうな今回のBチームメンバー。
またこのメンバーでかえってきてほしいと思う。
RAVE塾は毎回観に行くたびに、その魅力にとりつかれてしまう。
コロナ最盛期に生まれ、そして何度も苦しい時期を乗り越えたからこそかもしれない。
物語では人を蹴落としたり、うまくごまかしたりしようとするが、配信で観られる特典映像を観ると本当にチームとして楽しそうで羨ましくなる。
この雰囲気があるからこそ、友情を描くものも、より強く良さが出ているのかもしれない。
コロナ中の配信公演もあり、今では配信も当然のように行われている。今回、なかなか発表がなかったので、やめてしまったのかと思ったが観られて本当に良かった。
RAVE塾と言えば配信というイメージが定着してきたので続けてほしい。特典映像も本当に楽しいが、なかなか観ない人には伝わらなくてもったいない気がする。
そんな特典映像でもまた応援したくなる人が出てくるから不思議だ。
今回、他に気になった人といえば、加藤美琴さん。特典会で初対面したがせ、名前は知っていて、以前、他の舞台の感想でも反応をもらった覚えがある。だからこそ、名前を覚えていた。今回、Bチームは2回劇場で観たが、2回目の前に美琴さんがいることに気が付き、注目して観たら、やはり印象に残る演技をする。このRAVE塾の作品の雰囲気に合っている。
まだまだこれから楽しみだが、RAVE塾での一癖ある役を演じる時が楽しみ。これだけの素晴らしいメンバーに囲まれているのだから、きっと良い役者に育つのではないかと思う。
今回、特典会で初めて会ったが、その人柄も良く、もっと話したかったとすら思った。
鈴原優美さんもRAVE塾で観られて良かった。過去、何度も彼女の出演されている作品を見ていたけど、生徒役というのも少し意外で驚いた。それでもやはり場数を踏んでいるだけあって安心感があった。次はぜひ、盟友・﨑野萌さんとRAVE塾での共演が観たい。
次は12月というのが配信でも言われていた。
12月・・時期によっては劇場に行けないかもしれない。そういう時にこそ、配信はありがたい。通販もありがたい。しかし通販ではなかった折りたたみ傘とか割と使いやすく、通販であったらもう一本買っておこうかと思ったくらい。今後のグッズ展開にも期待したい。
ひとまず12月まで、情報解禁を待つことにしようと思う。