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夢で住む町の隣町

隣町は三年峠くらいの大きさをした
山の斜面にある町で、
上半分にいくつかの会社の建物
ふもとに住宅群がある。

上半分だけ年中小雨が降っていて
小雨と住宅群の間には一直線に温泉長屋がある。

会社員たちは朝、温泉においてある傘をさして
会社に行って夕方まで働く
マジックアワーになったら仕事をやめて
こんどは傘をささずに帰る

温泉長屋につくころには
いい具合に濡れて身体が冷えるので
みんな温泉に入り、ほかほかで家に帰る。

傘が会社においたままなので
早朝にみんなの傘を温泉に持って帰る「傘運び」
という職業がある。
たいへんな仕事だけど
肉体労働のあと、長屋いちの大浴場を
一人占めして入る朝風呂は傘運びの特権だ。

温泉長屋から住宅群側にはめったに雨は降らない
ひとびとの肌は毎日の温泉のおかげで
つやつやだ。

家に帰って山を見ると、
露天風呂の湯気の奥にしのしのとふりつづく小雨が見える。

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