ロシアの「愛国教育」・教育の軍事化とプーチン崇拝、高校で軍事訓練 ロシアの若者たちにインタビュー
写真 https://rberega.info/archives/129302
1.教育と戦争プロパガンダ
たった数年でこれほどまでに変わるものかと、驚きを禁じ得ないロシアの教育現場。その実態は今、どのようになっているのだろうか。ますます強まるミリタリズムと想像を超えるプーチン崇拝が蔓延し、軍事教育が当たり前のように行われている。
現在、ロシアの学校では、創傷マネキンや銃の模型、そしてかつての軍事ゲーム「ザルニツァ」が再び登場し、以前は戦争を賛美する詩や絵を中心とした「愛国教育」が行われていたが、現在では生徒たちがある程度の戦闘スキルを習得し、軍用品を製作するなどの兵士を支援する活動に重点が置かれている。
また、戦死した兵士を称える「記憶の机」や記念碑が学校に設置され、「特別軍事作戦」に関連した博物館も開かれている。生徒たちはカモフラージュネットを編んだり、塹壕用のロウソクを作ったり、兵士たちに手紙を書いて送るなど、様々な活動に従事している。トゥーラ州では生徒たちが3Dプリンターを使って銃の装填装置を製作している、という事例もある。また、学校内で契約兵の宣伝ポスターが貼られることもあり、クラスノヤルスク地方の学校では「仲間の復讐を!」と書かれたポスターが貼られていた。
さらに、ロシアの500校以上の中等教育学校では、9月1日から無人機操縦の授業が開始され、また、帰還兵が戦場での体験を語る「勇気の授業」も増えている。学校を訪れる帰還兵の中には、元受刑者もいる。中等教育学校だけでなく、幼稚園などにも帰還兵が訪れ、ロストーフ州では、幼稚園にロシア軍によって破壊されたバフムート市の模型がプレゼントされ、10人の子どもたちがユナルミヤ(背少年軍)という愛国組織に招待された。
教育内容も改訂され、歴史の授業では近年の出来事も取り上げられるようになった。特に、2014年以降の歴史がロシア政府に都合の良い形で改変されており、卒業試験には「特別軍事作戦」に関する問題も含まれるようになった。子供たちの将来を心配する教師の中には「歴史教育がプロパガンダに歪められている」と懸念する声も上がっている。
軍事訓練や戦闘技術を学ぶ活動もますます増加しており、学校での戦争に関連する取り組みは一層強化されているように見える。
9月14日、全国の9000校以上から11歳から17歳までの生徒が800人以上集められ、全国規模の軍事愛国ゲーム「ザルニツァ2.0」が行われた。ゲームの指導者としては400人以上の帰還兵が選ばれ、ゲーム内容には、基本的な軍事訓練のほか、サイバー攻撃やドローン攻撃への対応も含まれており、ロシア大統領府第一副長官は、「ザルニツァ」を全国すべての学校に普及させるべきだと述べている。
ソビエト時代のこのゲームは、軍服を着ることもなく完全に「遊び」だったが、今では生徒たちは軍服を着用し、防弾チョッキや他の装備も見られる。現代のザルニツァは完全に軍事化されており、戦術技術や部隊指揮の訓練も行われている。生徒たちは陣地の攻撃や防御を通じて、実際の戦闘スキルを習得することが求められており、遊びの要素はあまりなく、事実上、2つの軍隊による模擬戦闘になっている。
こういった「愛国教育」や学校でのプロパガンダにかかる費用は戦争前に比べて20倍に増えており、学生たちは強制的に「愛国組織」やそういった「愛国」活動に参加させられている場合もあり、拒否するとトラブルになりかねない状況に置かれている。
2.高校で「初等軍事訓練」が再導入
2023年9月1日から、ロシアの高校では「初等軍事訓練」が再導入された。単独の教科として設けられたのではなく、「生活安全基礎」*の授業に含まれる初等軍事訓練という形で導入されており、1990年代初頭に廃止されて以来の復活である。週2回実施されるこの授業は、基礎的な軍事技術と国家防衛に関する基礎知識の習得を目的としており、男子だけでなく女子も必須科目として履修が義務づけられている。健康上の理由がある生徒は訓練への参加を免除されるものの、座学部分は全員必須である。この授業のカリキュラムには、戦闘の基礎、武器の扱い方や射撃訓練、手榴弾の使用法、軍隊の礼式、個人防護具の使用、応急処置の方法といった内容が含まれており、座学と実技を通して徴兵や兵役に備えた基本的な知識と技術を身につけさせることが最終目的である。
さらに、戦闘訓練も行われ、塹壕の掘り方や兵士の位置確保に必要な設備の使用もカリキュラムに含まれており、授業形式も、座学と実技、実習に加えて現役軍人や帰還兵との対話、軍事基地や艦船の見学、軍事戦術ゲームやスポーツ競技などが組み込まれており、実践的な内容がかなり多い。
*生活安全基礎 本来は生活や防犯、防災、交通、健康、国防や非常事態への備えなど、安全に関する知識を学ぶ科目。現在、科目名が「安全と国防基礎」に変更されている。
3.断ればトラブルに発展することも…
スヴェルドロフスク州に住むロシア人女性、リシツィナ・ヤナは息子の軍事訓練への参加を拒否し、「ロシア軍の信用落とす行為」で起訴され罰金を科された。
リシツィナ・ヤナの次男イヴァン(16歳)は現在高校に通っており、リシツィナは、卒業したら徴兵されるのではないかと心配している。イヴァンが10年生(高校1年)になった時、学校の保護者会で初めて初等軍事訓練の導入が発表された。学校側は「ただ走ったり、簡単な訓練を受けるだけ」と説明しているが、リシツィナは武器の扱いも含まれると知っており、この訓練に参加することで、将来、兵役の代わりとなる代替役務が認められないのではないかと懸念している。武器を扱った経験のある者は申請ができなくなるというのが理由だという。
リシツィナ・ヤナとその家族は学校の軍事訓練に参加しないことを決め、リシツィナは学校関係者やスヴェルドロフスク州教育省に対して、息子のために軍事訓練を除外した個別学習計画を作成するよう求めた。しかし、学校側は全く対応せず、軍事訓練の時期が近づいてきた。
リシツィナ・ヤナは人権団体「兵士の母たち」に助けを求め、検察やスヴェルドロフスク州人権擁護官にも訴えた。しかしその結果、彼女は学校関係者や軍関係者から圧力を受け、「イヴァンを家族から引き離す、施設に送る」との脅しもあったという。
軍関係者との話し合いの過程で、軍関係者側はウクライナでの戦争に言及し、リシツィナに対して「息子に国を守る意思がない」と批判した。リシツィナは、そもそも2022年より前はロシアを敵から守る必要なんてなかったと返してしまい、ロシア軍の信用失墜に関する罪で告発されることとなった。その結果、リシツィナ・ヤナには3万ルーブルの罰金が科された。
4.幼稚園の子供達も洗脳対象へ
プーチン大統領は、教育コンテストのファイナリストの女性教師一人から提案された、5歳児を対象としたプロパガンダ授業の導入に賛同し、「基本的な価値観」は「非常に幼い年齢」から子供たちに教えるべきだと主張した。
その後、プーチンは、学校での旗揚げや国歌斉唱、「大事なお話」*という授業が「成果を上げている」と評価し、この取り組みは幼稚園にも導入することとなった。さらに、5歳という年齢が「愛国教育」に適しているとし、「5歳児の中には、すでに『兵士になりたい』と言う子もいる」と述べた。
* 「大事なお話」 愛国教育の一環で2022年以降に導入された授業。毎週、全学年を対象に行われ、内容としては、ロシアの歴史や文化だけでなく、いわゆる「伝統的価値観」やロシアが始めた「特別軍事作戦」・ウクライナ侵攻についても触れられており、国家の象徴に敬意を払う、国旗への忠誠を示すなどの儀式も行われることがある。
5.勢いを増すプーチン崇拝
ロシア全土の学校や幼稚園の子どもたちは、プーチンの誕生日を祝うように強制させられており、インタネット上にロシアの小学校で2年生の生徒たちが膝をつき、「プーチン」という名前の形に並ばされた写真もあげられている。
また、他の学校ではプーチン大統領の名言が書かれたパネルが設置され、ニャガニ市の第3学校では、「ロシアの偉大な人物」をテーマにした授業が行われた。授業の最後にはプーチンに関する知識を試すテストも行われたという。
さらに、クラスノダール地方にある第39学校でもプーチン大統領に関する特別授業が実施され、生徒たちは「リーダー」「家族」「力」と書かれたポスターを手に持ち、プーチンの大きな写真の前で記念撮影をした。その写真には「プーチンがいるからロシアがある。お誕生日おめでとう、ウラジーミル・ウラジーミロヴィッチ」と書かれていた。
6.ロシアの若者たちから聞いた体験談
(ロシア在住の10代、20代何人かにインタビューをしましたが、プライバシー保護と安全のため名前や住んでいる地域、学校名などの個人情報は伏せてあります。ご了承ください。)
1.10代大学生A
2年前、高校でロシア兵に送る手紙を書かされました。一応「匿名」ということにはなっていましたが、実際のところ本当に匿名かどうかはわかりません。しかも、手紙を書かないという選択肢はなかったんです。軍に食料品などを送るという支援活動も行われていましたが、こちらは任意でした。
また、学校では「大事なお話」という授業も行われていて、「私たちの国は素晴らしい」といった内容がメインでした。
今は大学生なのですが、大学1年生の時、「ロシア国家体制の基盤」という科目がありました。主に歴史についての内容なのですが、現代の話題には触れませんでした。意外と面白かったです。
現在は2年生になり、「ロシアの歴史」という新しい必須科目が追加されましたが、内容はほぼ同じです。かなりの時間を取られる上に、出席しないと成績に影響するため、欠席もできません。
大学ではデザインを学んでいるのですが、学生プロジェクトのテーマ選びなどは、先生方から「一部のテーマに触れると逮捕される可能性があるから気をつけて」といった指導を受けています。
2.高等専修学校*の女子学生B
「特別軍事作戦」が始まったときは高等専修学校1年生でした。
何と言うか、色々と先生によるんです。「生活安全基礎」を教えていた先生たちは軍国主義寄りの人が多く、授業があるたびに「伝統的な価値観」を押し付けてきて、西洋の「衰退」について語っていました。国歌を歌わされることもありました(笑)。
一方で、戦争に全く触れない先生もいて、どちらかというとそのような先生が多かったです。しかし、学校では軍に送る支援物資の収集が時々行われたり、国旗を持って写真を撮らされる、といったこともありました。
良かった点としては、「大事なお話」という授業や、旗揚げなどの行事がなかったことです。また、歴史の授業では結局、2010年以降のロシアについては触れられませんでした。
最終学年になると、地元の火薬工場から「祖国に貢献するために働かないか」という勧誘がありました。私たちの専攻は一応観光なんですけどね…(笑)
他の学生たちはと言うと、私のクラスには熱心な愛国者はいませんでしたが、反戦の声を上げる人もほとんどいませんでした。この話題はタブーのようなもので、仮に議論があったとしても、仲の良いグループの中だけで話されていたと思います。
3.高等専修学校の男子学生C
僕は地元の高等専修学校に通う2年生です。他の学校同様、生活安全基礎という授業があるのですが、そこの年配の先生がよく戦争の話をします。この先生は、「軍隊に行かない男は男ではない」という考えを持っていて、男性なら銃などの扱いに詳しく、分解したり組み立てたりでき、軍隊のすべての部隊や兵器の種類について知らなければならない、と、いつも主張しているのです。
1年生のときは、授業でずっとこの鉄の塊(銃)を分解・組み立てしながら、先生のくだらない話を聞かされていました。その先生とは何かと揉めることも多く、どうも僕のことをあまり気に入っていないようで、わざと僕を困らせることもありました。そのため、この授業は休みがちになってしまいました。戦争や軍隊の話を聞くのがとても嫌で、授業のたびに気分が落ち込み、ロシアを離れてすべてを忘れたいと思うようになりました。
この授業は本当にトラブルが多く、成績を付けてもらうために学務課に何度も相談しました。そうしないと単位を落としてしまうからです。1年生の終わり頃には、全員が訓練に参加させられ、7日間兵士のような生活をすることになりましたが、僕は高血圧のため参加を免れることができました。心も体も、拒否していました。
また、ある日、この学校の卒業生である帰還兵が来て、僕達は彼の体験話を聞かされました。僕はその話を聞きたくなかったので、教室を出て授業が終わるまで戻りませんでした。それ以上のことは覚えていませんが、本当に鬱気分になってしまうのでその類の話はできるだけ聞かないようにしていました。
4.20代社会人女性D
先生たちは、授業で戦争について話すように強制されているわけではないと思います。ただ、先生たちはテレビで見たものについて語りたくなる時もあり、それで時々戦争の話題に触れることもありました。
私が通っていた専門学校で生活安全基礎を教えていた先生は、「ウクライナは最初から独立国家ではなかったし、借金のせいでもうすぐ分割されるだろう」と言っていましたし、歴史の先生は、ナワリヌイに対して否定的で、私たちにその意見を押し付けようといつもナワリヌイのことを悪く言っていました。
ナワリヌイに関しては、大規模デモがあった日は突然、知らせることもなく試験が行われて、その試験は私達をデモに参加させないように仕込まれたものだったんだと思います。事前のお知らせがなかったので準備もできず、多くの学生が赤点になってしまいました。かなり前の話ですが。
また、契約兵についてなのですが、私の彼氏が運転免許を取るために入隊事務所で講習を受けに行ったときのことを話したいと思います。彼が兵役に行く前の話ですが、学習契約を結ぶ際、危険地域に送られる可能性については何の説明もありませんでした。それが最近になって、講習を受けている最中にモスクワから来た人たちが突然現れ、「12月に命令が出るから、君たちはクルスクやベルゴロドに送られることになる。もちろん給料は出ない。でも契約兵になれば、ハリコフ(ハリキウのロシア語読み)辺りに行ってお金を稼ぐこともできる」と言ったそうです。兵役でクルスクやベルゴロドに送られる、というのは契約兵を集めるための嘘だった、と思いたいです。なぜついこの間まで高校生だった人たちがそんなところ(前線)に行かなければならないのでしょうか…
さらに、入隊事務所とはいえただの運転講習のはずが、武器の扱い講座も必須で追加された、というのもありました。(この運転講習は有料ですが、普通の自動車学校よりかなり安いので彼氏さんは節約しようと思ってそこを選んだそうです)
学校の話に戻りますが、私自身はもう卒業してしまったので、今学校で何が起きているのかはあまり詳しくないです。ただ、最近はミズリナ信者の子どもが増えているように感じます。*
*ロシアでは、中学卒業後、専門学校や専修学校に入学し3、4年で卒業するという制度が存在しますが、ここではわかりやすいように高等専修学校と呼ばせていただきました
*エカテリーナ・ミズリナ インターネット検閲やロシア国内のインターネット上でのコンテンツの規制を目的とした「セーフ・インターネット・リーグ」の活動で知られている女性。特にLGBTQ関連の規制を支持しており、EUからは制裁対象とされている。プーチン支持派の若者の間では、気に入らないコンテンツや政府批判を見かけたら直接ミズリナに伝えるという形の密告が流行っている、とも聞く。
7.参考資料URL
https://www.severreal.org/a/net-nauki-kultury-i-sporta-est-tolko-voyna-spetsialnaya-voennaya-operatsiya-v-shkolah/33140684.html
https://holod.media/2024/10/03/propaganda-s-detsada/
https://holod.media/2024/10/08/postavili-na-koleni/
https://meduza.io/feature/2024/10/15/yana-lisitsyna-otkazalas-otpravit-syna-shkolnika-na-voennye-sbory-i-poluchila-shtraf-po-statie-o-diskreditatsii-armii?utm_source=twitter&utm_medium=main
https://storage.googleapis.com/kldscp/theins.ru/news/275440
https://theins.ru/news/275483?
https://www.moscowtimes.ru/2024/08/06/putin-potreboval-usilit-voennuyu-propagandu-vshkolah-iprivlech-kvospitaniyu-bolshe-geroev-svo-a138744
https://www.moscowtimes.ru/2024/10/01/snachala-voini-rashodi-napropagandu-vshkolah-idetsadah-uvelichili-v20-raz-a143651
https://lenta.ru/articles/2024/03/06/nachalnaya-voennaya-podgotovka/