レンズ談義 その5 貧者の一灯 XR リケノン 50mm F2
レンズ沼は抜け出そうと足掻けば足掻くほど深みに嵌まるものとは知りつつも、何とか足抜けしようと、抜き足、差し足、忍び足、薄明の淡い闇、薄ら靄に目を惑わされ、辿り着いた先には、貧者の一灯!?
「和製ズミクロン」の名に心を奪われた訳ではないと強弁しつつも、実のところ、本家の目を見張る段違い平行棒なお値段、所詮高嶺の花と見て見ぬ振りをしていたが、これが、かの噂の超名玉 CONTAX プラナー 50mm F1.4の製造元の一つ 富岡光学製と知るや、居ても立ってもおられず、送料込みの5千円にて国内オークションで手に入れた XR RIKENON 50mm F2(前期 金属製の鏡胴、最短撮影距離 45cm)、まさしく「貧者のズミクロン」の名に恥じぬ写り。
5群6枚の変形ダブルガウス・タイプで、ズミクロンの6群7枚の空気レンズとは、変形ダブルガウスという共通点はあるものの、レンズ構成などに格段の違いがあり、「和製」と謳うには何やら羊頭狗肉系の香りが立たないわけでもないが、兎にも角にも、隠れた?超安価の逸品である。
例の泡銭も、ミラーレス機の故障(画像の半分以上が白飛びに、使用枚数 5万枚超で異常発生)による買い替えなどの思わぬ出費で、遂に底を打ち、新たなオールドレンズの獲得はあえなく打ち止めとなるべきところ、最後に手にした格安・高性能のこの標準レンズは、沼の深い淵をほのかに照らすか細い灯火となってくれよう。
そう信じて、秋の野に出で、移りゆく季節の最後の華やぎを写し撮る。
さりながら、季節は、惜しげも無く走り去り、間もなく、陰鬱な冬が押しかぶさってくる。
西岸地方に住む者には、長い耐久の日々が始まろうとしている。
タイヤ交換には、まだ少し間はあるが……
参考までに(あくまで私見ですが)
※ ダブル・ガウス型の変遷
ガウス・タイプ(1817年 望遠鏡の対物レンズ 2枚構成)
ダブル・ガウス(A.Clark 1888年 対称型 4枚構成)
プラナー(P.Rudolph 1896年 対称型 4群6枚構成)
オピック(H.W.Lee 1920年 非対称型 4群6枚構成)
スピード・パンクロ(1921年 オピックの改良型)
低照度であっても色再現性が優れている特徴
1930年、35mmフィルム用の製造開始
ズマール(M.Berek 1933年 4群6枚構成)
ズミタール(1939年 5群7枚構成)
ズミクロン(1953年 6群7枚構成 空気レンズ)
ウルトロン(A.W.Tronnier 1950年 5群6枚構成)
凹みウルトロン(1968年 6群7枚構成)
カラー・ウルトロン(E.Glatzel 1974年 6群7枚構成)
※ CONTAX プラナー 50mm F1.4(1975年 6群7枚構成)
標準レンズの最高峰との呼び声も高い、帝王の異名を取る変形ダブル・ガウス型、ツァイスの誇る多層膜 T*コーティング
思えば、勤めをしていた頃は、まだ、それなりに羽振りが良かったということか。
尾羽打ち枯らし、無為徒食の身となった今、つましい生活に安価ながらそれぞれに際立った個性を持つオールドレンズの灯を細々とともす。
浮き世を離れ、まがいものの山中に閑居し、晴れた日は野や街に出で、雨、雪降る日は静かに動画なぞを見てひとり夜を迎える……夢の架け橋