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マスク着用のデメリット『フォーゲン効果』を再考する。
私が以前に記事で取り上げたマスク関連の論文で『フォーゲン効果』があります。(以下、『フェーゲン効果』とする。)
この記事はウェブ検索で上位に出てくるためか、長い事細々と読まれ続けています。
とはいえ、もう1年以上前の記事です。
最新の認識とは変わっている部分もありそうなので、再考してみたいと思います。
なお、今回の記事でもあまり結論は変わらず『理論として可能性はゼロじゃないけど、たいして影響無いんでは?』という感じです。
長いのであまり興味の無い方は『◆おわりに』まで飛ばしてOKな内容です。
◆レビュー記事紹介
実際の論文を読んだ方なら『雑な仮説だな』とわかると思いますが、そのあたりを説明(批判)した海外の記事が以下です。ツイッターで紹介されていました。
要点を翻訳引用します。
若干長いので面倒な人は飛ばしてください。
https://www.mcgill.ca/oss/article/critical-thinking/fogen-effect-masks-big-methodological-issue
フェーゲン効果は方法論的に大きな問題をはらんでいる
ドイツ人医師はマスク着用がCOVID-19を悪化させると考えているが、彼の論文は不当な結論に飛びついている。
Jonathan Jarry M.Sc. | 21 Jul 2022
Office for Science and Society
McGill University
生態学的誤謬
フェーゲン博士が行ったのは、カンザス州に住む人々に関する別の研究のデータを使うことだった。
2020年8月1日から10月15日までの期間、カンザス州のどの郡にマスク着用義務があり、どの郡にマスク着用義務がないかを調べた。この分析にいくつかの修正を加えた後(詳細は後述)、彼は、COVID-19による死亡者が少ないと予想されるマスク着用義務のある郡では、COVIDと診断された人がマスク着用義務のない郡よりも実際に多く死亡していると発表した。
私はこの論文を、当オフィスに所属する疫学修士号を持つ心臓専門医のクリストファー・ラボス博士に提出した。彼が注目したのは、フェーゲンの分析が疫学でよく知られた問題である生態学的誤謬に陥っているという事実だった。
生態学的誤謬の最も有名な例は、2012年に『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』誌に掲載された、国全体のチョコレート消費量とその国から輩出されたノーベル賞受賞者の数を比較したメモであろう。このグラフはメディアで広く報道されたが、直線であった。チョコレートの消費量が多い国ほど、ノーベル賞受賞者が多いのである。著者のフランツ・メッサーリというニューヨークの医師は、フラバノールには加齢による脳の老化を遅らせる効果があり、チョコレートにはそのフラバノールが豊富に含まれているため、素晴らしい科学者たちは脳を活性化させる効果の恩恵を受けているのではないか、という仮説を立てた。メッサーリ氏は後に、この仮説は実際のデータに基づいたものではあるが、「科学の誤り」を示すジョークであったと認めた。
カンザス州のある郡の人々にマスク着用が義務づけられたからといって、そこでCOVIDで死亡した人々がマスクを着用していたかどうか、どのくらいの頻度でマスクを着用していたか、マスクを正しく着用していたか、あるいはあごを保護することのほうが重要だと感じていたかどうかはわからない。マスクが病気の重さを引き起こしたと結論づけるのは、相関関係を因果関係と取り違えるだけでなく、県全体のルールが必ずしも個人の行動を教えてくれると思い込むことで、生態学的誤謬を犯すことになる。
[2023.08.02 引用]
www.DeepL.com/Translator(無料版)で翻訳しました。
https://www.mcgill.ca/oss/article/critical-thinking/fogen-effect-masks-big-methodological-issue
◇◇◇
まあつまり、このような統計の比較分析においては『マスク義務以外の影響をどこまで考慮したのか』が重要になります。しかし非常に雑。
例えば、以下の論文では大気汚染物質とコロナ入院との関連性に触れています。
以下の論文では社会経済的格差による感染リスクの違いが示唆されています。
地域で比較するのであれば上記の影響は考慮されるべき要素になってくると思うんですけどね。私が知らない要素は他にもあるでしょうし。
そもそも義務化の有無の違いだと遵守率は不明なので、マスクを着けていたことが影響しているのかどうか不明です。
◆メカニズムとしての理論と解釈
さて。
統計分析の問題はともかくとして、そのメカニズム的な理論は『なんとなくあり得そうなもの』ではありました。
その簡単な理論(引用部)と現在の私の解釈を以下に整理します。
◇◇◇
1.自らの吐き出した飛沫を、より細かいリスクの高い微粒子として再吸引する可能性がある。(肺胞まで届きやすくなる。)
2.再吸引によりノーマスクの場合と比較し、全体の吸引ウイルス量が増える。
上記については『吐き出した飛沫、エアロゾルがマスク内に留まり、影響を及ぼし続ける』という前提が元になっているかと思います。
しかし、一般的な不織布マスクの運用状況を見る限り、隙間無く着用している人は極めて少ないです。
(一般的なマスク着用者の漏れ率は80%以上でしょう。)
漏れ率を考えるなら、普通にマスクの内側の空気は入れ替わっていると推測出来るでしょう。
もちろん、マスクの死腔が延長された分、自らの吐き出したエアロゾルを再吸引する量は多少増えるとは思います。(そのような意味で、ノーマスクでもフェーゲン効果のようなものは生じています。)
しかし、屋内など空気の流れが少ない場所ではノーマスクでも再吸引のリスクはゼロではありません。
そして、マスク着用が空間中のエアロゾル濃度を下げることを考慮すれば、環境条件によっては『マスクを着けたほうが再吸引のリスクが低下する』という可能性も考えられるのではないでしょうか。
なお、個人的に気になるのは『内側に付着した飛沫が乾き分離され飛沫核化するのか?』というところです。
しかし、N95マスクと不織布マスクの比較結果を考えるなら、そのようなリスクは非常に軽微であるという推測は可能かと思います。
もし上記のリスクが高いなら、より強い影響を受けるN95のほうが発症率や症状が悪くなるはず。しかし逆の結果です。(以下参照)
◇◇◇
3.吐き出し時、マスク(濾過フィルター)を介すことで、より細かいリスクの高い微粒子として排出される可能性がある。
上記はウレタンマスクに見られるような『飛沫を分割して排出する効果』が不織布マスクでも働くという前提かと思います。
理論としては『マスクの網目が飛沫で埋まっていてそこに圧力が加わることで細かく分割される』といったものかと思います。
しかし、普通に考えればその状況が現実的ではないことがわかります。
不織布マスクの漏れ率は高いため、そのような圧力は加わりません。
その点は論文でも言及されておりN95等気密性が高いマスクで影響が強いとされています。
しかし、これも考えてみればわかるのですが、N95マスクであれ空気は流れやすいところを流れます。飛沫で埋まっていない箇所を優先して流れるということです。
フェーゲン効果が最も働くのは『マスクの網目がすべて飛沫で埋まっており空気に逃げ場が無い状態』ですが、そうなる前に息苦しくなり窒息するでしょう。
ちなみに、フリース素材のネックゲーターを除きそのような現象(飛沫、エアロゾルが増える)が起こっていないことは観察されています。(以下参照)
◆おわりに
ということで、論文があるからと言って結論を安易に信用しないようにしましょう、という感じ。
そして、リンクと結論だけで何かを強く主張するような人には注意したいところですね。
◇◇◇
ちなみに、もし自分自身が感染している場合は、ノーマスクで換気か空気清浄機を活用して療養するのがベストな気がします。
もちろん、家庭内感染を防ぐために共用空間では一時的にマスクを着用したほうが良いでしょう。
マスクはTPOで有効活用したいものですね。