見出し画像

マスクの効果29%?ノルウェーの論文レビュー

どうもこんにちは。
マスクオタクです。

ちょっと前に注目されていたマスクの論文があったので今回の記事で取り上げる。ヤフーニュースで関連記事が出ていたやつだ。

タイトルで「マスク論争」に終止符?なんて書いてるが、果たしてどうなのか。


◆論文引用

対象の論文から一部翻訳引用する。以下リンク。
なお本記事中で指定されていない引用部はすべて以下より。2024.08.12時点のもの。www.DeepL.com/Translator(無料版)で翻訳した。

BMJ. 2024; 386: e078918.
Published online 2024 Jul 24. doi: 10.1136/bmj-2023-078918

成人の自己報告呼吸器症状に対する公共空間での手術用フェイスマスク着用の個人防護効果:実用的無作為化優越性試験

概要

目的
公共空間におけるサージカルフェイスマスクの着用と非着用が、自己報告による呼吸器症状に対して及ぼす個人防護効果を14日間にわたって評価すること。

デザイン
実用的無作為化優越性試験。

設定
ノルウェー。

参加者
18歳以上の成人4647人:2371人が介入群に、2276人が対照群に割り付けられた。

介入
介入群の参加者は、14日間にわたって公共の場(例えば、ショッピングセンター、道路、公共交通機関)で手術用フェイスマスクを着用することに割り付けられた(自宅や職場でのマスク着用については言及されなかった)。対照群の参加者は、公共の場では手術用フェイスマスクを着用しないことに割り付けられた。

主要評価項目
主要アウトカムは、呼吸器感染症に一致する自己報告による呼吸器症状であった。副次的アウトカムは、自己報告および登録されたcovid-19感染であった。

結果
2023年2月10日から2023年4月27日の間に、4647例の参加者が無作為化され、そのうち4575例(女性2788例(60.9%)、平均年齢51.0(標準偏差15.0)歳)がintention-to-treat解析に組み入れられた:介入群2313例(50.6%)、対照群2262例(49.4%)。呼吸器感染症に一致する症状を自己報告したイベントは、介入群で163件(8.9%)、対照群で239件(12.2%)であった。限界オッズ比は0.71(95%信頼区間(CI)0.58~0.87;P=0.001)で、フェイスマスク介入に有利であった。絶対リスク差は-3.2%(95%CI -5.2%~-1.3%;P<0.001)であった。自己報告(限界オッズ比1.07、95%CI 0.58~1.98、P=0.82)または登録されたcovid-19感染(介入群ではイベントがなかったため、効果推定値および95%CIは推定不能)については、統計的に有意な効果は認められなかった。

結論
14日間にわたって公共の場で手術用フェイスマスクを着用すると、手術用フェイスマスクを着用しない場合と比較して、呼吸器感染症に一致する症状を自己報告するリスクが低下する。


◆まとめと所感

超簡単にまとめると『4647人の成人を公共の場でのマスク有り/無しで分け14日間観察したところ、マスク有りのほうが自己申告で呼吸器症状を示す割合が3.2%低かった』って感じ。

で、ヤフーの記事では『29%、統計学的にも有意に低下しました。』と書かれている。(あまり影響はないが、29%って数字は微妙に間違ってないだろうか?)

◇◇◇

まず、私の印象としては『このデザインで3.2%の違いは誤差では?』って感じ。

このような研究の良し悪しはどれだけバイアスを排除出来るかにかかっていると言えるが、今回の研究でそれに成功しているかというと怪しいように思う。

特に気になったポイントは以下だ。

  • 行動変容

  • 症状率

  • 研究期間

  • 感染経路

以下、順に説明する。


◆行動変容

マスクの統計においては盲検化出来ないという大きな問題があり、それぞれの群で行動が変わる可能性がある。それは論文中でも以下のように示されている。

グループ割り付けは、参加者の行動にさらなる影響を与えたかもしれない。例えば、対照群の参加者の方が、試験期間中に文化的なイベントやレストランに参加したと報告する割合が高かった。さらに、介入群の参加者の中には、フェイスマスクの着用が公式に義務付けられていないにもかかわらず、着用することに気まずさを感じたと報告した者もいた。この所見は、非参加者が介入群の参加者と社会的距離を置く傾向があったことを示唆している可能性があり、これはフェイスマスク着用の固有の効果とみなすことができる。

感染リスクはリスク環境に滞在した時間が長いほど高くなるはずだが、上記を見る限りノーマスク集団のほうが高リスクだったと言えるだろう。

『マスク着用による最も多く報告された副作用は、他人からの不快なコメントだった。』とあり、マスク着用群のほうが研究の脱落者が多いことからも推測できるが、マスク着用により人と関わる時間(感染リスク)が減っていた可能性は高い。日本だったら影響少なそうだが。

ただし、感染対策意識が高い者がノーマスクになった場合も同様の影響があるかもしれない(リスク回避行動が増える)。


◆症状率

個々の研究期間は14日間で、有症状率は全体の10%以上だ。

この割合、高すぎじゃないだろうか?

たとえば新型コロナで雑に考えてみた場合、ひとつの感染波を3か月、感染率を多めに見積もって全体の15%としても、14日間の有症状率は2%程度である。(7日間有症状と仮定して)

まあ、感染症はコロナだけではなく、むしろ研究期間はインフルエンザの流行期だったようだし、その他もあっただろうがなんとなく有症状率が高いような気がする。案外こんなもんかもしれないが。

◇◇◇

そもそも『自己申告による呼吸器症状』の精度は重要だが、そこの細かい説明は以下になるか。

主要アウトカムは、呼吸器感染症に一致する自己申告による呼吸器症状であった。このアウトカムは、参加者が風邪またはcovid-19の症状を経験したこと、発熱と1つの呼吸器症状(鼻づまり、鼻水、のどの痛み、咳、くしゃみ、呼吸が荒い)を経験したこと、または1つの呼吸器症状と少なくとも2つの他の症状(体の痛み、筋肉痛、疲労、食欲低下、胃痛、頭痛、嗅覚障害)を経験したことに肯定的な回答をすることを要求する複合結果である。

判断が難しいが、呼吸器症状が感染症起因で無かった可能性はあるだろう。

研究期間中のノルウェーは寒くマスクは防寒として機能するため、そのような効果が表れた可能性はある。それでもマスクの効果とはいえるが。


◆研究期間

研究期間は『2023年2月10日から2023年4月27日の間』とされているが、長すぎるように思う。

以下の図はノルウェーでの受診者におけるILI(インフルエンザ様疾患)の割合を示すものだが、該当期間中の差が結構ある。
(ざっくり6週目から17週目が該当)

IInfluenza Virological and Epidemiological season report prepared for the WHO Consultation on the Composition of Influenza Virus Vaccines for the Southern Hemisphere 2024
[2024.08.13 引用]
https://fhi.brage.unit.no/fhi-xmlui/bitstream/handle/11250/3101057/Hungnes_2023_Infl.pdf

◇◇◇

『2023年2月10日から2023年4月27日の間』の『14日間』が個々の観察期間とされているが、このどの期間かでリスクはかなり変わるだろう。そこに妥当な調整が行われたのかは謎だ。

また、流行は地域差があるはずで、それも考えると参加者個々で環境のリスクを揃えることは困難だっただろう。


◆感染経路

感染経路の推定は重要だろうが、今回では行われていないように思う。

たとえば、家庭内感染(もしくは、ノーマスク時の感染)が強く疑われる場合、マスクの効果とは無関係だ。

感染経路は推定であれ統計分析として必要な要素だろう。


◆おわりに

以上、ざっくりと怪しい点を挙げたが、とりあえずこのような統計分析は難しいということがわかる。

ガチプロじゃないと評価が難しいが、重要な交絡因子が適切に調整されていたかというと怪しく、個人的に3.2%の差は誤差レベルじゃないかと思える。

今回の研究はこれまでのデンマークやバングラディシュのRCTに比べれば質が上だと言えそうだが、それでも『マスク論争に終止符』と言えるほどのものではない印象だ。

◇◇◇

ちなみに、研究チームは以下の記事『マスク常用者はコロナ感染率が40%も高まる』の論文と同じっぽい。

上記に比べれば今回は異なる結果になっているので、そのあたりの言及が欲しかったところ。

今後の研究に期待したい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?