今更『ウイルスはマスク表面で7日間感染力を維持する』について確認する。
前回の記事で『接触感染のリスクはあまり気にしないでいい(私見)』といったことを書きました。
そして、書き終わって今回のタイトルのような言説があったことを思い出しました。コロナ初期に流布され、感染対策の指針になったものかと記憶しています。
今の私の認識だと疑わしいので内容を確認してみました。
◆『マスク表面には触らない!』
日本の当時の記事が見つかりましたので以下に引用します。
◆論文引用
実際の論文は以下です。
重要箇所を引用しますが、日本の記事と概ね同じ内容なので飛ばしてOKです。
https://www.thelancet.com/journals/lanmic/article/PIIS2666-5247(20)30003-3/fulltext
◆所感
論文に目を通して思ったのは『随分と短くて雑だな』ということ。
そして、気になるのは『5μLのウイルス培養液滴』。
体積で換算すると直径2.52mmの球体になると思いますが大きいですね。
差異を確認したくてサイズを大きくしたのかもしれないですが、これはあまり現実的ではないでしょう。
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また、各素材の細かな情報がありません。
各素材はそれぞれに多くの種類があり特性が異なるほどのバリエーションがあります。(『布』も化学繊維ならプラスチックでしょう。)
マスクについても不明です。
最低限、ASTMの規格に適合したサージカルマスクなのかどうかは重要だと思います。
◆考察
不明点が多い前提でこの結果を解釈するなら『モノ・材質による違い』というよりは『表面性状による違い』のように思えます。
つまり、どれだけ液体を弾くのか。
液体を弾く物ほどウイルスが長持ちする。
ウイルスの不活化を考えたとき、ウイルスが露出されることが重要だと思います。その点で『紙』と『マスク』で大きな違いが出ているのは理解出来ます。
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撥水加工のされてない紙の場合、液体は短時間で大きな面積に広がり蒸発します。
それに対してマスクは液体を弾きます。
粗い不織布とはいえ液滴との接触面積が少なく、分子間力(表面張力)により液滴の形状を維持しやすい。
(マスクではありませんがトップ画像のような感じ)
液滴は蒸発が進み外側から塩化ナトリウム結晶に包まれるでしょう。
結果、蒸発の進行が遅れるうえ、ウイルスは外部の影響を受けにくくなります。
『表1』の結果(順位)を見ても、そのようなメカニズムが推測出来そうです。
◇◇◇
以上の仮説が正しいとして現実的にはどうなのか。
直径2.52mm以上の飛沫は起こり得ると思いますが、それを仮定したとして、それがそのままマスク表面に付着するわけではありません。
もちろん大部分が落下します。
マスクに衝突するとしても大きな飛沫は重いため弾かれ落下するでしょう。
まあ、完全に球体というわけでもないでしょうし、くしゃみの時たまに出てくる最悪のやつ(痰)は粘性が高く潰れて付着するように思えるので、そのようなものはそれなりに影響力がある気もします。
マスク有無に限らず大きな飛沫類を排出しないように注意したいですね。
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ちなみに、『感染力を維持』したとしてそれが発症に至るほどの量なのかは言及されていません。
個人的には『会話や咳により生じどこかに付着した飛沫を触って粘膜に取り込む量』よりも『エアロゾルとして吸う量』のほうが圧倒的に多いと思えます。
◆おわりに
論文自体の結論として『ウイルスはマスク表面で7日間感染力を維持する』は正しいです。
しかし、実際のマスク運用や接触感染リスクを考えるにあたり、その結論をそのまま適用するのは現実的ではないと思えます。
手洗いは普通にしたほうが良いと考えますが、対物の清拭等に時間をかけている方は力の入れどころを見直してみても良いかもしれません。
ということで、最新の知見(現実に即した研究結果)によるアップデートと周知を公的機関に期待したいところです。