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新型コロナ後遺症の『クラッシュ』について。

先日テレビでコロナ後遺症が取り上げられていたようで、それがツイッターことXで話題になっていました。

ちなみに番組(テレビ朝日・羽鳥慎一モーニングショー)の大体の内容はWEBでも公開されているようです。以下リンク。

重い後遺症の症状である『クラッシュ』等が取りあげられ、感想は『ようやくテレビで取り上げられた』という感じだった一方、『デマ』『クラッシュという新語で恐怖を煽っている』といった内容もSNSでは見られました。

個人的にコロナ後遺症での『クラッシュ』という概念はかなり前から知ってましたが、今回の記事ではそのあたりをまとめます。既にご存知の方は適当に飛ばし読みしてください。


◆論文引用

コロナ後遺症(long COVID)絡みの論文からクラッシュに関する部分を引用します。

Can J Cardiol. 2021 Aug; 37(8): 1260–1262.
Published online 2021 Jun 6. doi: 10.1016/j.cjca.2021.05.011

ロングCOVID-19 循環器医療専門家のための入門書、CCS迅速対応チームを代表して

運動への復帰はCOVID-19からの回復の重要な節目とみなされることが多く、その結果、労作後倦怠感が生じる。この症候群の多くは、「プッシュ&クラッシュ」のサイクルを経験する(補足図S1)。

労作後倦怠感の症状は、筋痛性脳炎や慢性疲労症候群に似ており、通常、誘発後24~72時間後に起こり、数日間続く可能性がある。「プッシュ&クラッシュ」の反対は、ペーシングである。このことは、「プッシュ&クラッシュ」 を予防し、苦痛を軽減し、コントロール感や幸福感を向上 させるペーシングの道へと支援するために、集学的アプロ ーチが早期に関与することの重要性をさらに強調している。

ペーシングには、身体的、感情的、認知的な誘因のレベルに注意を払いながら、その人の包容範囲を見つけること、その包容範囲に適応すること、誘因をコントロールすることを学ぶこと、そして徐々に進行し適応しながら包容範囲を広げていくことが含まれる。

Long COVID-19_ A Primer for Cardiovascular Health Professionals, on Behalf of the CCS Rapid Response Team - PMC.html
www.DeepL.com/Translator(無料版)で翻訳しました。
[2024.07.25 引用]
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8180343

◇◇◇

この論文はオンライン公開が2021年6月とされており、書かれたのが2021年3月だと本文に示されています。

論文にするにしてもそれなりに時間はかかると思いますので、書かれた後遺症の症状と対処法は2020年の実績によるものが多いと考えるのが自然かと思います。

まあつまり、ワクチン接種が始まる前ということです。

3年以上前の論文ですが、現在での対処法と同じようなことが書かれていますね。

◇◇◇

なお、引用部について簡単に説明するなら次のような感じ。

重症のコロナ後遺症では体力の最大値が大きく低下する。そのため、無理をした行動(プッシュ)をすると3日程度行動不能(クラッシュ)に陥る可能性がある。許容限界(自らのPSスコア)を意識して行動することが重要(ペーシング)。
(PS:パフォーマンスステータス)


◆慢性疲労症候群のクラッシュ

『ペーシング』『クラッシュ』は、もともと筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群 (ME/CFS)での用語だと思われ、類似する症状を示すコロナ後遺症でも使われているものだと思います。

たとえば以下は2016年の記事ですが『クラッシュ』が使われています。

News > Medscape Medical News
疲労そのものではなく、労作後の「クラッシュ」がシンドロームを示す
Miriam E. Tucker
November 04, 2016

フロリダ州フォートローダーデール-労作後倦怠感(PEM)現象に焦点を当てた新たな研究が、慢性疲労症候群として知られてきたが、現在では筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)と呼ばれることが多くなっている病気の病因に光を当てつつある。

最近開催された国際慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎協会(IACFSME)の研究・臨床会議で発表された新たな知見を含め、ME/CFSは、脳、自律神経系、エネルギー代謝に影響を及ぼす複雑な神経炎症プロセスから生じ、酸化ストレスやニトロソ化ストレスが関与していることを示唆する証拠が増えている。

慢性疲労症候群という名称が廃止されつつあるのは、多くの患者を完全に、あるいはほとんど寝たきりの状態にしてしまう病態を矮小化していると考えられるからだけでなく、この病気が単に長引く原因不明の疲労によって特徴づけられるという誤解を与えるからでもある。実際には、ME/CFSは複数の異質な症状によって特徴付けられ、PEMはしばしば「クラッシュ」またはすでに存在する症状の著しい悪化として表現され、ほぼ普遍的な経験である。

Postexertion 'Crash,' not Fatigue per se, Marks Syndrome
www.DeepL.com/Translator(無料版)で翻訳しました。
[2024.07.25 引用]
https://www.medscape.com/viewarticle/871482

◆おわりに

個人的に『クラッシュ』は2021年に reddit で目にしたのが初で、コロナ後遺症関連ではよく使われているワードという認識です。医学用語としてはPEMが該当しそうですが。(正式には不明)

とりあえず、今回引用した情報で示すように新語とかデマではありません。

しかし『恐怖を煽る』という点はわからないでもないです。クラッシュの不安を抱えるほどの後遺症患者が全国でどれくらいの割合いるのか、感染者全体での発症リスクは何%程度なのか、そのあたりが具体的に示されていないように私には見えたので。

◇◇◇

ちなみに、クラッシュの事例100%がコロナ後遺症によると私は考えていませんし、ワクチン後遺症の方がツイッターことXで自身の状態をクラッシュだと言っていたのを見た記憶もあります。

まあ、切実な患者さんからしたら原因がどちらか(何か)なんて論争には巻き込まれたくないだろうし、勝手な決めつけで不快な思いをしたくないだろうし、早く回復したいという気持ちが一番だと思います。

私もコロナ関連の情報発信をしているので、そのあたりは気をつけたいところですね。

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