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読む、れもんらいふデザイン塾vol.3【軍地彩弓】

この2時間は宝の山だった。大切な言葉がそこらじゅうに散らばっていた。僕が文章を書く人間だから特別にそう感じたのかもしれない。レコーダーに耳を傾けながら、一言一言文字に起こし、それらを整理する中でそうではないことに気付いた。この言葉たちはあらゆる世代の、あらゆる性別の、あらゆる職業の、あらゆる志を胸に抱く者たち全てに応用できる。

「歴史的な大発明は、数年後に〝常識〟へと変わる」

活版印刷だって、車だって、スマートフォンだって。ここに書かれた話も、数年経てば当たり前のことになるのかもしれない。「今」だからこそ、僕には大きな価値があった。それは、このテキストを読んでいるあなたへもきっと同じことが言えるだろう。

ファッションをコアに、「今」を知り、「流行」をつくり、新たな「未来」を描き続けてきた軍地彩弓氏の哲学。たとえ、ここに書かれた言葉が〝常識〟へと変わったとしても、彼女の存在は薄れない。その頃にはまた、新たな「未来」のビジョンを僕たちの頭の中へ描いてくれているはずだから。


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こんにちは、嶋津亮太です。この講義の中で僕が発見した0~10のヒントを書き記しておきます。琴線に触れたポイントは、あなたとは違うかもしれません。それは大した問題ではありません。最大の学びは「読むこと」ではなく、「自分の言葉で言語化すること」です。ぜひ、僕と同じようにあなたも書き出してみてください。そして、読み終えた後、一緒に見比べてみませんか?

結論からまず書いておきます。この講義の全てを「0」に集約させて、そこから軍地さんのお話に入っていきましょう。それでははじまりです。

0.わらしべ人生のヒントは「情けは人の為ならず」の考え方にある


※以下、敬称略


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世の中楽しくしたい一味

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この講義では、軍地彩弓の人生と彼女が仕事の中で手に入れてきたアイデアが語られる。まずは彼女の仕事内容から。それは、一言では収まらない。


軍地
雑誌の編集者です。『Numéro TOKYO』のエディトリアルアドバイザー。編集長や副編集長というポジションではなく、横の方からヌメロでエディトリアルにおける企画提案やキャスティングなどをしています。

株式会社gumi-gumiを経営して5年目。そこではコンサルティングの仕事、店舗のブランディング、新しい業態のネーミングを考案、制服をつくったり、ヴィジュアルをつくったり。



中目黒のスターバックスリザーブロースタリー東京。コミュニティスペースAMUのコンセプト作りや、コンテンツ提案など。Netflixでは2月27日公開の蜷川実花監督作品『Followers』におけるファッション監修。ファッションブランドを雑誌だけでなく、新しいメディアへいかに乗せるかを考案する。大阪梅田に阪急OASISが出したフードコートでは『キッチン&マーケット』のネーミングを。「親しみを込めて〝キチマ〟と呼べるように」と、語感をつくったり、言葉のセンスを提案することも彼女の仕事の領域にある。

その他には、ゲーム会社の企画、家のプロデュース、企業のコンサルティング、企業のクラウドファンディングにおける顧問、ウェブメディアでの原稿の執筆、テレビでのコメンテーター、経産省のアパレル・サプライチェーン研究会では日本のファッションビジネスについて発言する。ボーダーレスの活躍を見せる。



軍地
今は編集者ではない仕事が7割くらい。最近、周りでは肩書があやふやな人が多くて、〝スラッシャー〟と呼ばれています。ポジションによってはクリエイティブディレクターだったり、モノをつくる面ではプロデューサーだったり。私は「世の中を楽しくしたい一味」と呼んでいるのですが、〝戦略的に〟ではなく、〝なんとなく〟そのような人たちとの仕事が増えている印象です。

「女性を見てきた軍地彩弓だからこそ」
「デベロッパー(新規開発者)としての目線で」

コアがあって、そこに意見を求められる。例えばNews Picksのようなゴリゴリのマッチョな男の世界でも「女性側のポジションからお話してください」と。そういう仕事の依頼が増えています。




それぞれを繋ぎ合わせ
課題を解決する力

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「246st MARKET」
WORLDの北青山ビル。大理石の空間。実店舗を持たない若手ブランド15社を集めてポップアップスペースをつくり、プロデュースをした。什器のデザイン・制作は建築家の百枝優。


軍地
私の中でずっと思っていたことがあります。若いデザイナーは一等地で場所を取れない上、SNSでもなかなか伝わらない。モノをつくっても人に見てもらえない。ショーや展示会に足を運ぶ中で、彼ら(彼女ら)たちがクリエイターとして十分な収入を得ていないことを感じていました。

消費者側の想いもあります。ECで販売しているにも関わらず、一等地に次々と建つビルには紋切り型の店舗が並ぶ。消費者のマインドが変わっているのに、モノを売る人たちが20年前と全く同じスキームでプランニングしている。そこに強い疑問を抱いていました。

クリエイターだけでなく、消費者にもそれぞれ共通の悩みがあります。



自分の役割は、新しい才能の人たちに道をつくること

軍地
ここ10年で「企業の時代」から、「個人の時代」へと新しいスキームに突入した。スマホができて、みんなが直接SNSで自分のモノが売れる。企業に入らなくても、自分でプロデュースしたり、作ったり、お店を出すことができる時代になっています。その時代に若手をピックアップするのが自分の仕事だと思いました。


建築家の百枝に伝えたテーマは鴨長明の「方丈庵」。下鴨神社に行った時に方丈庵のレプリカを見た。それを見た瞬間「とても現代的だ」と感じた。四畳半ほどの小さな庵は、現在でいうところのポップアップ型の家。折りたためて、どこへでも持ち運びができる。




軍地
「畳むことができて、組み立てることができて、一時間ほどで設営できるものをつくってください」というオーダーでした。鴨長明は、庵を川べりに運び、組み立てて川を見ながら文章を書いた。森に行きたくなればまたそれを運び、それを組み立てた。モバイルな人生。それってとても今っぽいな、と。次のポップアップの仕事が入った時に什器ごと持ち運ぶことができる仕組みをつくりました。



わらしべ人生

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彼女は自分のこれまでの人生を「わらしべ長者のようだった」と表現した。一人のワラを持った貧乏人が、善意の連鎖によって豊かになっていく物語である。ここからは彼女の「わらしべ人生」を綴りながら、そこに隠された学びの欠片をすくいとっていきたい。人生のプロットタイプの多様性を知ることは、生きる上でのヒントになる。


軍地
私の人生はほとんどがフリーランスでした。今でこそ「フリーランスっていいですね」と言われるようになりましたが、それもここ5年ほどの話です。それまではとても不安な生き方でした。一方で、やりたくないことをして過ごした人生ではありません。それがフリーをしていたことで最も良かったことのような気がします。

そんな私が、どうして「編集者」という肩書なのに、いろいろなことをやっているのか。そのことについてお話しようと思います。そうすれば、みなさんの考え方が「あ、そんなふうでもいいんだ」「こんな考え方もおもしろい」と思ってもらえるかもしれない。

みなさんにお伝えしたいことは「道は一本じゃなかった」ということ。



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「本に囲まれて生きていきたい」

ぼんやりとそう思っていた。子どもの頃から本が好きで、母は彩弓の姿を見失った時はたいてい「本屋にいる」と考え、その推測は実際に当たっていた。仕事帰りの父は本屋に寄り、本を読んで座り込んでいる彩弓の手を引いて帰宅した。それほど本が大好きな女の子だった。

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