青春18きっぷで大阪を旅行した話
はじめに
皆様は「青春18きっぷ」という切符をご存知でしょうか。これはJRが発行する特別なきっぷで、同社全ての普通列車が5日間分乗り放題になるものです。私は毎シーズン(春夏冬)このきっぷを買い求め、ダラダラと酒を飲みながら途中下車の旅行をすることを密かな楽しみとしています。今回もこの大好きなきっぷで旅行をする2泊3日の話を紹介したいと思います。
以下旅行記となりますが、他の旅行記同様に淡々と体験したことが並べてあります。緩い旅行の感じが伝われば幸いです。
2024/3/23 (土) 都内から姫路、大阪
早朝、都内から静岡までを青春18きっぷで移動し、
と、早々に新幹線に乗り換えます。残念ながら青春18きっぷの旅行はここまでとなります。18きっぷの素敵な体験を期待されている方はここでウィンドウを閉じていただき構いません。ありがとうございました。
静岡で普通列車を諦めた主な理由はその混雑ぶりです。私は普段都内の過酷な通勤ラッシュがある路線で通勤しています。休日までこのような電車に揉まれる性癖はありません。Yを横切る二本の横線、¥で解決していくスタイルが40代です。さよなら、私の青春。
14:20 姫路
静岡・名古屋間は新幹線で移動、近鉄特急へと乗り換え大阪へ、そこからは再び普通列車で姫路へと進路をとります。姫路駅ホームにある名物「たこ焼きが浮いている蕎麦」を食べるためです。言葉での説明は難しいため、写真を他の方のSNS投稿から引用します。
文字にすると非常に奇妙な印象を受けますが、実際の写真も奇妙です。明石焼きに源流がありそうですが、明石焼きよりもたこ焼き感が強いと表現しましょうか、「たこ焼きが浮いている蕎麦」と表現するほかない食べ物です。
と、私は欲求に駆られ電車を乗り継ぎ姫路へとやってきたのです。ただ、残念なことにホームにある立ち食い蕎麦店を訪れると食券機には「売切れ」の文字。仕方ありません、二つ目の目的地がある大阪方面へ戻ることにします。姫路滞在時間10分。
15:40 須磨海浜公園
二つ目の目的地は、JR須磨海浜公園駅から数分の場所にある自由港書店です。自分の同人誌を独立系書店に売り歩いていた際「素敵な書店ですよ」と複数の書店関係者の方からお薦めされていたのですが、なかなか訪れる機会に恵まれませんでした。
淡い緑青色タイルが貼られたレトロな建物の一階に、自由港書店はあります。間口は一般住宅の廊下ほど、数メートル奥に進むと四畳半ほどのフロアが見え、ゆったりとした本棚には、ZINE、それから一般書籍が分け隔てなく並んでいます。選書も私好みで、近所にあればきっと毎週通っていたでしょう。書店では池田彩乃のレポート『観光記』を購入します。本を包んでくださった紙袋はお店のイメージカラーである鮮やかな水色でした。
書店へ向かう最中、スマートフォンのマップには水色の海がすぐそばに表示されていました。店主に「ここから海は近いですか」と伺うと、数分の距離ですよと案内を受けます。せっかくですので、歩道橋を渡り雨の須磨海岸を歩くことにします。
霧雨が海に落垂する音が聞こえるほどに静かな海岸線を歩くと、防水性のあるアウターを着て走る若人や、傘を差すほどでもないとそれを閉じたまま歩く人、犬を散歩する老人とすれ違います。皆、雨の休日を楽しんでいるようでした。
17:00 元町
夕方からはSNSで知り合った方と神戸元町駅で落ち合うことになっていました。彼を待つ少し間、木村紺『神戸在住』にあった高架下の商店街を散策しますが、再開発計画のためかシャッターが目立ちました。少し残念。
彼とは元町駅前ある餃子の有名店「赤萬」の裏手側、もといこちらが表通りではありますが、「ひょうたん」という餃子屋で瓶ビールと一緒に餃子を味噌タレで食べます。焼きたての餃子に瓶ビール、至福という言葉がぴったりの味でした。食後にはそこから少し歩いたところにある、ニューミュンヘンという由緒あるビヤホールで大きなジョッキを注文します。ビールは正しく管理された、端正なサッポロでした。
そういえば途中、何年も前に神戸空港から東京へ帰る際に、出発ギリギリまで当時の同僚とベロベロに飲んだ「皆様食堂」が三ノ宮駅高架下で営業しているのを見つけます。次回に機会があれば入ろうと心に決めます。
他愛もない話を、それから再び会う約束を彼と交わし解散し、宿泊地である神戸のホテルへと向かいます。元町、またいろいろと散策してみたい。
ホテルへの道すがら柳筋という風俗街を抜けるのですが、客引きが「お兄さんどうですか」と盛んに声を掛けてきます。随分と昔のススキノのようで少し懐かしさを覚えます。春は買わずに大安亭市場でたこ焼きと缶ビールを何缶か買いホテルへと戻ります。テレビをつけると関西電気保安協会のCMが流れ「関西にいるのだな」という実感が湧きます。一日目はこれで終了です。
2024/3/24 (日) 終日大阪
若干の宿酔いがありましたので、アスピリン何錠かをベッド横にあった温いビールで流し込みます。シャワーを浴びて本日の目的地である万博記念公園を目指す準備を始めます。
準備の途中、注意散漫となっていたためか部屋をインキーするという失態を犯し、(直前まで半裸でしたので危うくコメディでよく見るお約束を自分でするところでした)朝食会場ではトースターの内側にパンを落とすという失態を犯します。(ホテルの方と一緒にトースターをひっくり返してパンを取り出す)大丈夫、不運はここまでです。
10:00 万博記念公園
雨。国立民族学博物館(以下、民博と表記)の最寄駅「万博記念公園」でSNSで随分と長くお付き合い頂いている方と待合せます。
駅を降り彼女と合流後、「太陽の塔」を遠景に認めます。「使わない機能だろうな」と思っていたスマートフォンの光学ズーム機能がこんなところで役立ちます。光学ズーム、いいじゃないか。
10:20 SAKURA EXPO
公園内では桜の開花に併せたフードフェス、SAKURA EXPOが行われていました。入場料は500円で生ビールが一杯無料で飲めるようです。目的地ではありませんでしたが入らない理由は見当たりません。入場料を支払い桜色のストラップを巻いてもらいます。
桜は開花前、冷たい小雨が降るコンディションで見渡す限り入場者は見えません。ビールをサーブしてくださった男性に「雨で人が少ないですね、今日は何人目ですか」と伺うと「あなた方が一組目ですよ」とやや失笑気味で返されます。光栄です。桜は咲かずとも、小雨が降ろうとも、朝から外で飲むビールは100%正しいのです。午前中からの飲むビールは非課税、もしくは保険適用を願いたいところです。
ところで神戸から乗り継いできた「阪急神戸高速線」というのは随分と気品が感じられました。チョコレート色の上品な車体塗装、シートはカリモクソファのような濃いモスグリーン、車内には広告が少なく乗っている方々もどこかしら上品でした。私の隣に座られたご婦人は、エルメスオレンジ(または阪神タイガース色なのかもしれませんが)の鮮やかなコートをお召しになり、穢れた杉玉のような髭面の私はいささか緊張しながら下車駅までを過ごすことになります。普段都内の過酷な混雑に鍛え抜かれた私にとっては異世界を感じさせるものでした。
10:40 国立民族学博物館
これは私の主張ではありますが、贔屓の博物館・美術館は年間パスポートを購入し常設展に通うことこそが、都市生活者に与えられたささやかな贅沢であると常々感じています。もし、この博物館が近所にあれば、間違いなく年間パスポートを買い求め、通い詰めていたでしょう。よかった、ただ良かった。
民族学博物館では以前から気になっていたマーシャル諸島周辺の人々が利用していた海図(竹に似たしなやかな植物素材を編み、周辺の海流を表現してある)を目にすることができました。島の位置関係だけではなく、海流を地図に記すことは現在の海図にもあるコンセプトで感銘を受けます。
私は以前から海上交通に興味があり、船舶の免許を取得したり、貨物船で太平洋を渡る体験をしました。また六分儀とよばれる道具で簡単な測位ができる程度には地図、とりわけ海図への興味があります。古代の人々がどのように自分の場所を測位したのか、どのような船で大洋を渡ったのか、こうした展示されているのがこの博物館だったのです。
また、これは完全な想定外の出会いでしたが、ヤップ島の石のお金も展示されていました。随分前に出会った「南の島の巨大な石のお金の話」という記事を読んで以来「本物はどのようなもだろうか」と出会えることを待ち侘びていたものでした。多くの写真では黒く燻んだ色で「なぜこれを命をかけ運ぼうと思ったのか」という点が、今ひとつイメージすることが出来なかったためです。目の前に示されたそれは石灰岩の模様が美しく、確かに貨幣たる価値を感じる面持ちでした。
足早に回ったつもりでしたが、午前中の二時間半で1/3も回れていないことに気づき彼女と大笑いします。オタクが博物館を訪れると大抵このような惨事に発展します。
昼食は館内にあるレストランでデミグラスソースのオムライスを食べ、麦芽を発酵させた由緒ある、古代エジプト人も飲んでいたという箕面ビールを何本か飲みます。博物館には博物館のコンテクストに沿った飲み物があります。ビールです。
食事中「今まで訪れた特に印象的な博物館はありますか」と尋ねられましたのでカリフォルニア科学アカデミーを紹介します。館内に熱帯雨林の自然環境が模されており、湿潤な環境に蝶などを含む生物が生体展示されているためです。(望みは薄いでしょうが)円安が落ち着く機会があれば、また訪れたい場所の一つです。
午後も2時間近くフロアに費やしますが当然2/3を回れるはずもなく「次回改めてこの会を開こう」ということになり解散となります。自分とは異なる視点を持った識者と回る博物館はなんと楽しいことでしょう。
17:00 大阪、或いは梅田
夕方からは大阪駅、梅田駅と色々と呼び名があるようですが、そのエリアで同僚と待ち合わせます。同僚に誘われるがまま、迷宮のような地下通路を抜け新梅田食道街にある松葉総本店へと辿り着きます。串カツを食べるためです。
吸った煙草は床に捨てる今時珍しいお店で、皆それぞれに煙草を吸い串カツを楽しんでいました。消防法的にも受動喫煙防止法にもおおよそ受け入れ難い営業形態ではありますが、嫌であれば入店しなければ良いのです。我々には選択の自由があります。(他方、煙草の不始末で焼け死ぬことはご遠慮願いたいという本音もあります)
お開きの時間が近づきますが、同僚が「ヤダヤダ、自宅近くで飲み直したいの!」と駄々をこねたため仕方なく彼の最寄駅へと向かいます。福島、大阪にある福島。今ひとつピンとこない地名ではありますがそこで飲み直します。「伊丹まではタクシー代は出しますから!」と提案されますが「その金があるなら飲もう」と飲続け、結果同僚は呂律が怪しくなります。大丈夫、彼は徒歩で帰って眠るだけです。
終電近くに伊丹空港横にあるホテル最寄駅に辿り着き、霧雨の中ホテルまでは10分足らずの道を歩きます。空気は湿っており、排気ガスや少し薬品のような匂い、水辺の匂い、遠くの匂いまでよく鼻に届きます。雨は好きではありませんが、こうした複雑な匂いが届くのは嫌いになれません。
幹線道路沿いの牛丼チェーンで牛丼を買いホテルチェックインします。テレビをつけると、昨日と同じように関西電気保安協会のCMが流れています。着替えもせずそのままベッドへと倒れ込みます。0:30就寝。
2024/3/25 (月) 伊丹から東京
7:30伊丹からの飛行機に乗るため5:30に起床します。まだ少しアルコールが残っていましたので宿酔にアスピリンを何錠か飲み、ホテルからのシャトルで空港に向かい無事に出国ゲートを抜けます。
7:00 伊丹空港
視界は悪く雨が降っていましたが、風はなく飛行機はそれほど揺れませんでした。月曜早朝便はスーツを着た人々が着席していました。構わずこちらは缶ビールをカシャコリと飲み始めようかとも思いましたが、さすがに大人気ないなと思いとどまります。(考えてみれば午後から仕事でした)
9:00手前に羽田到着し、乗り換え駅でいつものコロッケそばを食べます。
私はまた、東京に戻ってきました。