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映画備忘録11 『殺人の追憶』
かつての街には「匂い」があったと、昭和の時代を生きた者たちは語る。
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それは一体どんな匂いだろうか? 平成と令和の時代を生きる自分にとって、容易に想像しがたいものである。
また、「味噌が無ければとなりの家に借りる」だとか、「自分の子供をとなりの家に預ける」といった営みが象徴する、街の“共同性”なるものについても、現代の社会を生きる自分にとっては、まるでフィクションのように感じる。
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となりに住んでいる人が何者で、何をしていて、何が好きか? ......今を生きる者の多くがそれを知らない(自分もそのうちの一人)。味噌が無ければコンビニに行けばいい。信頼ベースの社会は、不信ベースかつシステムを頼る社会へと成り代わった。
「自分ができないことは、近くにいる他の誰かがやってくれる」「他の誰かができないことは、近くにいる自分が代わりにやる」。......このように凸と凹が組み合わさることで(企業を通さない関係性の中で)、街の共同性が成り立っていた。そこには承認の糸口もあり、昨今の人々を悩ませる実存的な問題が入り込む余地は殆どなかった。
家族や地域が豊かになると信じられたからこそ、都市化や郊外化が肯定されてきた。しかし、諸機能が社会化・行政化されるにつれて、街から共同性が失われてしまった。
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共同性が失われると、人々が包括されなくなる。そして孤独な人々は承認を求めて、間違い続ける。
しんちゃんよ......。君の選択は正しかったのか? そこは人々の関係性が薄れ、誹謗中傷が溢れ、マウンティングが其処彼処で目につき、ポピュリズム政治が世間を席巻し、カルト宗教や陰謀論が渦巻く未来だぞ。
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......成長する社会を背景に、自分や他人の実存性が見失われる。このモチーフは、『パラサイト』で一躍有名になったポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』にも描かれる。
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......黄金の稲穂が風にそよぎ、子供たちが笑いながら虫を捕まえ、村人たちが一挙に食堂につどうような田舎。
そんな田舎だからこそ、巨大な工事現場が広がり、急激な都市化が進んでいく。
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そこで起きる連続強姦殺人事件。主人公一同は一向に犯人を捕まえることができない。すんでのところで、都市化や社会変革による障害が生じる。成長する社会が、犯人像をうやむやにさせる。
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「お前は一体どこにいるのか?」
そのように問う最後のシーンは、映画の元ネタである華城連続殺人事件の、実際の犯人だけに向けられる。