見出し画像

2024年 47th 学生合気道選手権 part.1


タッチ・オブ・グローリー

日曜日、夜。
連休中日にも関わらず、首都高速下り方面の車道は思いの外、スムーズに流れていく。
愛車、インプレッサ・G4の平均燃費を表示するAVG.メーターには23.5KM/Lという普段では考えられない数字が示されていた。

首都高速を走るのは4年ぶりだったが、細かい分岐や注意すべき合流ポイントなど危険な箇所は相変わらず。
ただ、意外にも忘れていなかった。
体で覚えたことは不思議と忘れないものだ。

ネオンの中へ溶けていく街並みを横目に、ぼくは眼下で繰り広げられた戦いについてあれこれと独り、全くと言っていい程、煮えきらぬ思いを巡らせていた。

このスムーズな道なりの様に、ぼくの心の澱もスッキリ晴れてくれたらと思わずにはいられない。

巨大戦力を有する一団体のヘッドコーチとして出来たこと、出来なかったこと…
結果として、自身が主将を務めた2018年以来の四冠制覇(個人綜合、個人捕技、団体戦、自由型)が出来なかったこと。
綜武道連合会の見習い下っ端として見れば、競技のレベルを高め、学生会の発展を期すこと。
果ては全日本選手権のレベルアップを目標にあれこれと各地とコミュニケーションを図ってきた。

烏滸がましくあれど、誰かがやらねばならぬことだ。
そして、それをやるのは、今も試合の場に身を晒し続けている人間の責任だと思っている。

試合に出たくても、出られない方もいることを忘れてはならない。

その意味で見れば、非常に喜ばしい大会であった。

ところで、"タッチ・オブ・グローリー"とはぼくの好きなフレーズだ。  

どう日本語に置き換えたらいいのだろう。 

なかなか言葉が見つからない。 
そのまま直訳すれば、「栄光に触れること」、もしくは「栄光をつかみ"かけている"」状態を指すのだろうが、それを端的に表すのは難しい。

例えば、こう考えるのはどうだろうか。

誰しも、自分の中に某かの「光」がある。
その明度や中身は人それぞれだ。
人によって違って然るべきだし、2つとして同じものはない、ということがポイントだ。

誰かが、他の誰でもない自分自身のために栄光に触れようとしている。
これまでは爆発力を溜め込んでいたのかもしれないし、何かしら挫折をしていたのかもしれない。

その人が、いま正に「栄光」を掴もうとしている……。
そんな時にふさわしいフレーズなのではないかと、ぼくは思っている。

実は、燦然と光る金メダルや「栄え光る」という熟語にはあまり慎み深さを感じないからだろうか、ぼくはあまり好みではない。

勝ちを誇る位ならば、むしろ、銀メダルのが好み、まである。

ぼくがひねくれているからだろうか。
そこに敗者への慈しみを感じないからかもしれない。

こう書くとあまりに説明的過ぎるので気が引けるが──
そこには心を持った人がおり、いい思いも、悔しい思いも、相手がいて初めて味わえるということだ。

つまり、目の前の人への「礼」を欠いているのではないかと感じる視点が、今大会を観ていたぼくの中にはある。

だが、勝負とは残酷で、そしてシビアだ。

であるからこそ、本気で喜ぶし本気で悔しがる。 その気持ちは痛い程わかる。

勝負の厳しさ、掛け値なしの彼らの本気の姿をこのまま埋もれさすことは、ぼくにはできない。
出来ることならば、余すことなく何かの形で残さなければいけない…。

どちらにせよ、こんなところで立ち止まる訳にはいかない。

ぼくはステアリングを握る手に力を込め、闇夜に向けてペダルを深く踏み込んだ。

組手乱取 1~2回戦

はじめの一歩

入門編となる組手乱取には13人がエントリー。

Aコート1回戦

勝ち上がったのは技の流れに落ち着きを見せた中村選手(立大)、田村選手(立大)だった。特に田村選手は足の痛みにも耐え、苦しい試合だったろうと察する。
技術的には残心の際、手の張りが素晴らしかった。

Bコート1回戦

スムーズな技を見せる鈴木選手(坂戸)、やや身長差に苦労しながらも大きく技を掛けていた上岡選手(立大)、同大の岡本選手が2回戦に進んだ。

Aコート2回戦

格上茶帯の近藤選手(富山)を相手にするも、中村選手はひとつひとつの技に集中したことで減点が少なく、準決勝進出を決めた。
もう一枠は金選手(坂戸)。
同選手は少年部から継続していることもあり組手の流れが非常にスムーズ、且つ一本一本の技…特に小手技の作りが綺麗であった。

Bコート2回戦

鈴木選手(坂戸)が危なげなく準決勝進出を決めた。鈴木選手も少年部上がりの選手ではあるが、技の完成度は既に初段級。
初動、作り、掛け……どれを取っても美しいと感じるものがあった。
準決勝、残る一枠は山川選手(富山)であった。
こちらは立大岡本選手との争いとなったが、両者共に技がやや小ぶりな印象を受けた。

女子打込乱取 1~3回戦

離隔から勝負は始まる

女子打込には20名のエントリー。
こちらは昨年よりも熱を帯び、大、大、大熱戦となった。本当に。

Aコート1回戦

勝ち上がったのは山川選手(富山)、右胴打の冴える玉川選手(立大)、伊藤選手(北大)、近藤選手(富山)※相手欠場のため 

Bコート1回戦

こちらは舩木選手(北大)が目の醒めるような左胴打を見せてくれた。
鎌形選手(立大)、曽我野選手(立大)、醍醐選手(立大)と立大トリオが勝ち上がり2回戦へ進む。
今まで怖がっていた打込乱取で、粘って1分20秒試合が出来るようになったことに彼女らの大きな一歩を感じ、一人静かに喜びを噛み締める。

Aコート2回戦

さぁ、真打ちの登場である。

昨年の覇者、立大主将の五十嵐選手が鮮やかな返面打で会場をどよめかせてくれた。
主将として、独りの勝負師として貫禄すら感じる立ち姿。
練習の際にふっと見せる弱気。
そのコントラストに少し立ち眩みを覚える。

"絶っっっ対に勝つ"

彼女がこの大会に懸けた心意気は、この後も遺憾なく発揮されることになる。

Bコート2回戦

こちらはまさしく、戦場。
Aコートが静かな立ち上がりを見せていた分、余計に激しさの際立つ戦いとなった。

特に石井選手(立大)×舩木選手(北大)は、手に汗握る展開となった。
両者共に素早いステップに連続打、決まり手がないまま試合中盤、石井選手の二連撃目の右面がヒット!先制。
が、舩木選手も負けてはいない。下から掬うような独特な左胴打で応酬。
両者技あり、判定となったが先制打の多かった石井選手に軍配。
ヒリヒリする、素晴らしい勝負だった。

その後、3回戦は富山大の吉越選手が相手となった。右面フェイントを織り混ぜながら近間で左胴。やや高かったが、当たり良く、いい音だった。

──これは試合を観ながら感じたことだが、本大会の石井選手は本当に輝いていた。
持てる力をパワフルに発揮するその姿に三年半の集大成を感じて止まず、本当に成長したなと舌を巻いた。
試合の内容もそうだが、試合に臨む姿勢、準備……三年前の彼女はもっと控えめだった様に思う。大会半年前から断続的に行ってきたウエイト・トレーニング、打込の技術、自由型の受身……彼女が非常に辛抱強く、粘り強く鍛練を重ねてきたことは、ここに記しておきたい。

Bコートもう一人の目玉。それは富山大の竹内主将である。ここまで強烈な打を誇るとは……
瞬く間に立大女子を次々に破っていく。
気迫でねじ伏せるその姿には鬼気迫るものがあった。

捕技乱取 1~2回戦

手首を極め、投げ飛ばす。

捕技乱取はここ10年では恐らく最多、30名のエントリーとなった。

Aコート1回戦~2回戦

受、捌、崩、作、掛、残心

苦しい戦いを強いられながらも円状に技を大きく掛けることで活路を拓いてきた大野選手(立大)、初動の柔らかさ、全体の動きに滑らかさが際立つ星崎選手(立大)、2回戦スタートの五十嵐選手が勝ち上がった。  

抑極技。運用の違いが目についた。

Bコート1回戦~2回戦

スムーズな掛けとキレのある技を披露した藤島選手(立大)、変則技を武器に戦う柏木選手(立大)の2人、
※この2人は立大でも副将を務める
他、柔らかい技で安定感のある塙選手(立大)、いつも通り、落ち着きを見せる吉見選手(坂戸)が勝ち上がった。

全体的な印象として、ゆっくりでも型そのものを表現している人が評価されている様に感じた。

結果が出なかったからすべて悪いということはなく、個々、技の中に少しずつ進歩を感じることが出来た。

ぼくは、それで十分お釣りがくると思っている。

綜合乱取 1~2回戦 

綜合乱取は15名のエントリーとなった。
かつて、ぼくもこの山を登りきった。
もちろん、上手くいったことだけではない。
途中で滑落したこともある。
今年は果たして誰が"山"を登りきるのだろう。

───────────────────
Aコート1回戦

初戦から試合は大きく動く。
今大会を通じてキレッキレの柏木選手だ。
対戦相手の唐澤選手も剣道上がりで打ちが速いが、それ以上のスピードで面打を浴びせ、脚を抱えて得意の潜り技(足取逆内刈)で先制!
主審は「腕当」と判定していたが明らかに右脚が内側から掛かっていた。
柏木選手はこの大会、まるで猫のようであった。
闘争心を昂らせながら素早い動きを繰り広げ、大会を沸かすことになる。

クレバーな戦いを見せる

ルカ選手は、賢い男だ。
自分が「勝つ」為に何をすべきか、常に考えた上で行動をしている。もっと言えば、"無駄なこと"をしない。エネルギーを注ぐ場所をしっかりと定められる男だ。 

※この際の無駄、とはルールに沿った上で不要なものを指す。

そんな彼の戦術は、まさに理詰め。離れ際や返面等で効率よくポイントを稼いでいた。

Aコートはまさしく粒ぞろい。

潜込技に入る瞬間

昨年のファイナリスト、大久保選手(北星)が立大藤島選手を鍛えてきた投げ2本で下すと、尉遅選手(立大)が阿部選手(川越)を抱え上げての逆内刈でお見事一本!華麗な立技を見せてくれた。

聞いたところ、大久保選手は昨年、同大会での敗北を喫してから積極的に投技、そして右胴打を稽古してきたという。
環境も良かったのだろう。
北大の中に混じって稽古を続け、道内試合で成果を発揮する、というプロセスを経て道外に飛び出してきた。
立大の春合宿に出稽古しに来た際には藤島選手から痛いレバー打ちをお見舞いされている。
その事もあり近間から試合を組み立てたことが功を奏したように思う。

また技術的な話で恐縮だが、尉遅選手には足を抱え上げた際に、左足が前に出ず刈足の右足が伸びきってしまうというウィーク・ポイントがあった。
本番では、打稽古で繰り返してきた左足の引き付けが自然と出たのだろう。
素晴らしい体幹バランスを見せてくれた。
そして彼もまた、トレーニング・ルームの住人である。

Aコート2回戦

間合に緊張感が漲る

こちらは柏木選手×ルカ選手、大久保選手×尉遅選手の組み合わせとなった。
柏木選手の猛攻をいなすかの様に打を決めたルカ選手、体の力で勝る尉遅選手をタイミングを合わせて投に入った大久保選手が準決勝進出を決めた。

Bコート1回戦~2回戦

重心の位置が、命取りになる

こちらは波乱の展開となった。前中選手(北大)の小内刈が冴え渡り、エルハナフィ選手(板橋)、昨年の覇者、立大猪俣選手を下す大健闘を見せてくれた。
前中選手は体は小さくとも、潜り込んでからの粘り強さには驚いた。意地を見せ、食い下がる猪俣選手を一周ケンケン……と回って刈り切った技。見事であった。

昨年3位の恩田選手(坂戸)は、個人的に「そろそろ勝ってもらわないと困る」選手だ。
落ち着き払った右胴、面打は要所要所で放たれる。
余力たっぷりのまま準決勝進出を決めた。

団体戦 1回戦

  1. 立教A vs 北大・北星合同

ぼくは、学生選手権のいちばんの見所は団体戦だと思っている。

理由は幾つかあるが、"5人で1個の勝ちを獲りにいく" コンセプトに選手も、観る側も没入出来るからかもしれない。

手前味噌で大変恐縮だが、ぼくは選手として団体戦は2回、優勝を経験している。
3年間で先鋒、中堅、大将と綜合乱取の選手として経験し得るすべてのポジションを務め、それぞれのポジションの役目も体で覚えてきた。

まず、先鋒の役目は「チームに勢いをもたらすこと」「素早く勝つこと」「万一の代表戦に備える」この3点だ。
先鋒がスピーディーな試合を展開することで緊張気味の残る4人に勇気をもたらすことが出来る。またタイで第6戦にもつれこんだ際には直前の戦いで体力的に厳しいであろう大将に代わり代表戦に臨めるよう、腹積もりをしておく必要がある。他チームに比べ地力が無ければ、チーム1の実力者がその任に就くのがふさわしいと、ぼくは考えている。

その目線で見れば、立大Aチームの先鋒柏木選手はMVP級、大車輪の活躍だった様に思う。

1.先鋒戦
個人戦同様打ちが冴え、中盤縺れた場面から腕を巻き込んだ外巻投、そのまま寝固技へ、と打・投・極を網羅した正に理想的な"綜合乱取"を見せてくれた。
「困ったら潜る」とは本人談。イケイケなだけではなく、困った時の武器を持っている選手はここぞの場面でいぶし銀な活躍をしてくれるものだ。手放しで賞賛したい。

立大 1─0 北大、北星

2.次峰戦 
大野選手と三田選手の一戦。体格差があり投げの崩れが心配であったが、落ち着いて、大きく投げていた。また手の返しや崩しといった技を構成する要素、要素に稽古の積み重ねを感じさせた。中でも持廻技の作りが素晴らしく、
下級生の模範になるような試合運びだったと思う。
勝負は、極めの減点が決定打。

三田選手に限らず、北大の選手の袖捕手刀当、突の捌はかなり減点対象であった。

立大 2─0 北大、北星

3.中堅戦
立大が大手を掛けた中堅戦。北大が意地を見せる。ルカ選手が不用意に逆抱に入った刹那、唐澤選手(北大)が返下返腕挫で先行。その後も引きをしっかりと行って距離を取る唐澤選手をルカ選手は捉えきれない。

北大、北星合同チームの反攻開始である。

立大 2─1 北大、北星

4.副将戦
副将戦は星崎選手と北大主将の松田選手の戦いとなった。松田選手は捕や打の反応、捌は素晴らしかったが、個人戦の抑極技で外腕捻抑極を掛ける等、技の運用の違いが顕著だったこともあり突発的なケガが不安ではあった。
何とか引き分けに持ち込み、大将戦で雌雄を決する展開となった。

立大 2─1─1 北大、北星

5.大将戦

立大は尉遅選手、北大、北星チームは大久保選手を大将に据え、勝負が始まった。
大将はここぞ!という時にチームの命運を預けられる人物がふさわしい。その意味からすれば適任な2人の対決は尉遅選手が面打で先制、個人戦の雪辱を果たす結果となり立大の決勝進出が決まった。

立大A⭕ 3─1─1 北大、北星合同チーム

 2.立教B vs 埼玉学生連合

1.先鋒戦
藤島選手と鈴木選手の打ちを得意とする両者の対決は決定打を欠く展開となった。
お互いに打ちの挙動がバレ、お互いに先手が取れていない。

立大B 0─0─1 坂戸

2.次峰戦 
石井選手と阿部選手の対戦。危なげもなく石井選手が勝ち上がる。このチームは綜合メンバーに不安材料があることもあり、次峰、副将で2つ勝ちを拾うことが勝ちへの絶対条件であった。

立大B 1─0─1 坂戸

3.中堅戦

2年生の桝井選手と村井選手の対戦。大将戦で恩田選手が控えていることを踏まえると、是が非でも勝ちに行きたい1戦。両者ともに打、投の決定打に欠き、投げの2歩目が出ていない。

立大B 1─0─2 坂戸

4.副将戦
飄々とした捕技を武器にした吉見選手と、闘争心を落ち着かせるように技を繰り出す五十嵐選手の対戦。五十嵐選手も腰投を控えるなどクレバーな試合運びを見せるも結果は引き分け。

決技の作りが最大要因であった。

立大B 1─0─3 坂戸

5.大将戦

大将戦は昨年の個人戦準決勝の再戦となったが、結果はこの一年間の差を如実に現すものとなった。内容は、改めて書くまでもないだろう。
恩田選手が余力を十分残し、勝敗は代表戦にもつれこんだ。

立大B 1─1─3 坂戸

6.代表決定戦
代表戦は先鋒藤島選手、大将恩田選手の一騎討ち。代表戦までの間、立大Bの中で誰が出るのか話し合っているのだろうか…、やや時間があったのが気になった。

ここでぼくが抱いたのは、"代表戦まで考えてチーム作りをしていたのかどうか"に対する疑問である。

試合は恩田選手が先行、その後藤島選手が一本胴を返すも恩田選手が捕りに掛かり、引きは不十分、姿勢も後傾であった。

その事が何を示すのか。

結論を言えば、"打に反応されている" ということだ。
捕への反応のタイミングがややずれているだけであって、1回見れば対応出来ない恩田選手ではない。
次は、ばっちり合わせて腕当後刈へ。
すぐに形を崩して分かれを誘う一年前の姿はない。
前のめりに攻めた、素晴らしい技であった。

藤島選手は大会を通じて、投技へ全くと言っていい程反応出来ていなかった。

立大B❌ 1─2─3 坂戸⭕

決勝は立大A-坂戸、
3位決定戦は立大B-北大、北星合同チームとなった。

"みんな負けず嫌いだった"

1回戦の団体戦を同時並行で観ていて、ひとつ気付いたことがある。
それは驚くほどの応援の熱だ。
自チームの選手の一挙手一投足に反射し、反応し、一喜一憂する。

さとり世代?

とんでもない。
彼らの中のいったい誰が、何を悟っているというのだろう。
まるで、この日の儚さを惜しむかの様な熱狂。
それを観ていて、ぼく自身がその熱を欲していたことに気が付いた。

勝負に熱くなれる瞬間が、ここには間違いなくある。

ならば、熱くなれるだけ、熱くなればいい。

勝負は依然として続く。

より高く、より厳しいレベルへ──

会場は自由型徒手演武の準備に取りかかるべく忙しい。
選手たちは続々とAコートに集結していた。
(part.2に続く)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?