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その危険な美味しさは、身をも滅ぼす!? スウェーデン冬の風物詩、セムラ。
こんにちは。
ようこそおいでくださいました。
Le Monde(ル・モンド)もじりインスタ上で始めた、ニューヨークから食について発信するアカウント「Le Mogu Mogu」のユカです。インスタの小さなキャプションにこまごまと書くのが苦痛になり、それでも文章主体で発信したいと思い、ここにMogu Moguだよりを始めます。
偏食で偏屈なブルックリン在住アラサー会社員の食に関する見聞録ですが、お時間・ご関心があれば拝読いただけたら幸いです。
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突然ですが、セムラ(Semla)というスウェーデンの郷土菓子をご存知でしょうか?
ピンとくる人は少ないと思いますが、大雑把に言えば、日本で一時期流行った(と聞いている)マリトッツォのスウェーデン版といったところでしょうか。シュークリームのような見た目で、カルダモン入りのパンにマジパンとたくさんのホイップクリームが挟まれています。
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私がセムラについて知ったのは数年前。ストックホルムに旅行前、スウェーデン料理について調べていた際にそれについての記事を発見しました。そして現地に赴いたのは9月半ば。短い滞在ではあったものの、私は道中セムラを探していましたが、残念ながらその時は出会うことはできませんでした。
それもそのはず、セムラはイースター前に頂く冬季限定のお菓子なんだそうです。元々はイースター前の断食の前日「Fettisdag(英語ではFat Tuesday、仏語ではMardi Gras/マルディグラ)」にカロリーを貯蓄するために食べられたそうです。現在は1月あたりから2月末くらいにかけてセムラがパン屋さんに出回るといい、スウェーデン以外の北欧の国々にも異なるバージョンのセムラが存在するようです。
実はこのセムラ、時期になるとニューヨークのとあるベーカリーでひっそりと売られています。私の職場からほど近い場所に、数年前スウェーデンからやって来た「ファブリーク(Fabrique Bakery)」というベーカリーがあります。ここではカルダモン・バン(北欧スタイルのシナモンロール)が名物で、シナモンバージョンもあれば、季節によっては鮮やかなオレンジ色のサフラン・バンも登場します。
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こうした花形商品が並ぶショーケースの奥手には、ずっしりとした北欧系のパンが構えています。サンドイッチ用のパン、バゲット、デンマークのライ麦パンなどはサワー種を使っていて、まるで田舎のオーブンで焼いたような素朴な見た目は、石窯で焼いているからだそう。こうした食事用パンはどれをとってもピカイチで、石窯の香ばしさがしっかりとパンの風味に残っているのが特徴的です。
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他にはスパイスの効いたクッキー(写真下)やずっしりサクサクのクロワッサン、パリパリで結晶塩のアクセントがあとをひくクリスプブレッド(北欧版クラッカー)など、パン好き・北欧好きにはたまらないラインナップが充実しています。
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スパイスの風味とぶつ切りのようなユニークな形が特徴
今年の1月も終盤にさしかかったある日、私はセムラを買いにファブリークに赴きました。この日は体感温度マイナス12度の極寒でしたが、ミッションを果たさねばと鼻息も荒いまま入店。
不安混じりで「セムラはありますか?」と聞くと、店員さんから「もちろんあるわよ!セムラを知ってるなんて、あなたスウェーデン人?!」とまさかのクエスチョン。どう見てもアジア人やないかい!とツッコミを入れかけましたが、セムラ目当てに来る人はきっとスウェーデン人しかいないのでしょう。列の前に並んでいた女性がその会話を聞いて「ぜひ私も一つ!」とセムラを買っていきました。
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さて、ワクワクしながら持って帰って来たセムラ。スペシャルなお菓子だからか、かわいい箱に入れて持たせてくれました。
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この立体感、画面越しに伝わるでしょうか?定規で測ったら縦横10cm。
そびえ立つホイップクリームの山はビジュアル的にも破壊力満点。そして見た通りのカロリー爆弾であるのは間違い無いです。
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まず、クリームには全く甘みがなく、さっぱりと食べられます。
その下にはローストアーモンドがごろっと入ったマジパンが詰まっています。砂糖のじゃりっとした食感と、アーモンドの香ばしい風味と食感がアクセントで、甘くないクリームと食べるにはぴったり。
「スパイスの女王」とも称されるカルダモンの粒が入った爽やかな風味のパンは、ブリオッシュのようなリッチな生地ではなく意外にもパサっとしています。この方がマジパンとクリームが良くなじみ、カルダモンの風味も手伝ってパクパクと食べられてしまいます。
フワフワのクリーム、爽やかな風味のパン、そしてリッチで甘いマジパンのハーモニーでぺろっと完食。さすが断食前の食べ物だけあって、この日は朝昼兼用でセムラ一つ、夕食までお腹が持つほど食べ応えがありました。
スカンジナビアの国々といえば世界でもコーヒー消費量トップの国として知られていますが、セムラは冬のコーヒータイムのお供にうってつけでしょう。
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最後になりましたが、ここでタイトルを回収させてください。18世紀にセムラの美味しさに魅了され、なんと本当に身を滅ぼしてしまったのがスウェーデンのアドルフ・フレドリク王。彼は豪勢に飲み食いした後、デザートに好物のセムラをなんと14個も食べて、消化不良で亡くなったといいます。
曰く付きのセムラですが、見かけたらぜひ躊躇せずトライしてみてください。もちろん、食べる数は自己責任でお願いします。
以上、ごちそうさまでした。