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2025年も聴いている

今朝、通勤電車の中で涙が堪えきれなくなり俯いて静かに泣いた。
マイケル・ジャクソンの“You Are Not Alone”を聴いていた。

私はマイケル・ジャクソンのファンだ。彼の死後に公開された『THIS IS IT』(映画)を観て幼いながらに虜になってしまった。まだ年齢が1桁だった頃の話である。

それまで洋楽というものに全く興味はなく、好んで聴いていたのは名探偵コナンの映画主題歌アルバムくらいだった。この映画もマイケル好きの母に連れられて、暇だからと軽い気持ちで観たのだ。

劇場を出たあと「よかったでしょ?」と尋ねてくる母に対して、半ば放心状態で「うん、あの……白い衣装のカッコ良かった」と間抜けな感想を述べたような気がする。何しろこんなに一瞬にして心を奪われた経験がなかったため、あまり記憶も定かではない。

”白い衣装の”Smooth Criminal(THIS IS ITバージョン)。この姿に撃ち抜かれたのである。

それからの私のハマりようはすごかった。
私は一度熱を上げると凄まじい勢いで突っ込んでいく質なのだ。

まず『THIS IS IT』のBlu-Rayを誕生日かクリスマスプレゼントの前借りとして母にせがみ、予約を受け付けている店に片っ端から電話を掛けさせた。
当時は大人気で予約が殺到しており、結構な数を断られたらしい。もはや手に入るまいと諦めかける母に私は泣いて縋りつき、何件目かでようやく予約することができた。

次に『THIS IS IT』のCDを買いに行った。これが人生で初めて自腹で購入したCDになった。
小学生の私はウォークマンなど洒落たプレイヤーは持っていなかったので、そこそこの大きさのCDラジカセを持ち歩いて聴いていた。
時にはベランダにラジカセを持ち出し、わざわざ延長コードをのばして”Black or White”など聴きながら田舎の風景を眺めていた。思えばとんでもないご近所迷惑だが、幼い私は「ご近所さんもみんなこの素晴らしい音楽を聴いてマイケルファンになればいいのさ」と音漏れ布教を画策していた阿呆策士だったのだ。

風呂場でも毎日のようにマイケルの歌を歌った。よく響くので”Earth Song”などはたいへん歌い甲斐があった。
通っていた英会話教室の先生には「将来”Smooth Criminal”を歌えるように頑張ります」と高らかに宣言し、ムーンウォークの真似事を臆面もなくご披露していた。先生は笑顔を若干引き攣らせていたがそんなのはお構いなしだった。
放送されていたマイケルの追悼番組や特集などは全て録画して繰り返し見た。マイケルに興味のない姉や父は「見たいテレビが見れない」と文句を垂れていたが、幸い母が同じマイケルファンとしてチャンネル権を握っていたため、私は合法的にマイケル浸りの日々を過ごすことができた。

ある日友達の家にマイケルのCDがあると聞き、早速遊びに行って見せてもらった。私があんまり「いいなぁいいなぁ」と漏らすので、友達はそのCDをダビングして私の誕生日にプレゼントしてくれた。なんと有り難い友達であろうか。私は泣いて感謝した。

ちなみにその友達は「私はマイケルよりQUEENの方が好きだから」と言い、バーイセコ♪バーイセコ♪と”Bicycle Race”を口ずさんでいた。
私は「それQUEENの曲だったんだ〜」と無知ぶりを晒しつつ、内心”マイケルは環境破壊を嘆き世界に訴えかける歌を作っているのに、それよりもただの自転車の歌にときめくとは……”と大変失礼な感想を抱いていた。

こうして私は周囲に迷惑をかけまくりつつも誰にも止められることなく、立派に盲目的ファンとして成長した。今でもマイケルが好きだ。

今朝聴いていた“You Are Not Alone”は、私の中ではマイケルを追悼する気持ちで聴く曲になっている。
この曲を聴きながらマイケルのことを思うと、マイケルの純粋で美しい心が、柔らかい輪郭で、あたたかな眩い光と共に私たちファンの心の傍に来て寄り添ってくれるような、泣き出してしまうほど切ない気持ちになる。
実際、仕事の休憩時間にも聴いて、突っ伏して寝ているふりをしながら涙ぐんでいた。

これは年齢が2桁に上がってからの現象だが、マイケルが好きというと楽曲などの話より先に「ああ、なんか裁判とかやってたよね」と言われることが結構ある。
小学生の頃にも、マイケルのパフォーマンスの特徴的な部分を誇張して取り上げる男子に揶揄われることはあった。しかしそれとは違う。哀しいかな、年齢が上がると”揶揄い”よりも先に”偏見”が現れるようになったのである。

マイケルについて知っていく中で、彼が経験した虐待や差別、事件や裁判、偏向報道など、暗い話題もたくさん目にした。そしてそれらと闘って、心身共に疲弊していった姿も同時に知った。
どうか彼が安らかに眠れるように、今後彼を見る目が差別や偏見の眼差しでないようにと願い続けている。

そう願いながら、「You are not alone」を口にすると、ますます涙が止まらなくなってしまうのだ。
貴方に出逢えてよかったと心の底から思っている。

宿泊先のホテルに詰めかけた大勢のファンに向けて窓からメッセージを送るマイケル

一世を風靡した映画『ボヘミアン・ラプソディ』の製作陣が、次はマイケルの映画を作るらしいという噂を何年か前に耳にしていた。
しかしそれ以来全く何の情報も入ってこなかったので、あれは嘘だったのではと疑い、まったく見切り発車で発言して期待させるんじゃないよ、とまで思っていたのだが、なんと今年公開されるらしい。ちゃんと現実だったのだ。
今のところ毎日劇場に通う予定だ。

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