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小さな本工房さんの糸かがり製本

糸かがり製本。

ハードカバーのあじろ綴じを覚えた頃の私には、気になって気になって仕方なかった、未知の製本方法でした。

「自分でゼロから本を作ってみたい。」いつからか思い描いていた理想を実現するため、製本という世界に片足突っ込み、教室を覗いたりネットで調べたりして理解した範囲を自分で試して失敗して、ああ!だからなるほどこうしたほうが良いと言われているのか!と納得しながらずぶずぶとハマっていく沼。

本の開き?
確かに、開きやすいと気持ちがいい!

背の硬さ?
綴じ方によってこんなに開き具合が変わってくるのかぁ。

糸かがり?
糸で綴じるとこんなに開くの?!?!絶対やってみたい!!!


そんな製本沼の最中、ラッキーなことにお声がけ頂き、糸かがり製本を教えていただく機会がありました。

糸かがりの方法はいくつかあるようですが、素人目の私にも、異才を放っているように見える、小さな本工房さんのこだわりの糸かがり製本。

どうやら、かの有名な雑誌の製本特集にも、掲載されていないそうなのです…

そんな小さな本工房さんの製本教室を何度かさせていただいた体験を、記してみようと思います。

糸かがりの方法はいくつかあるようですが、どうやらほとんどの糸かがりでは、紙を糸で綴じた後に、背を糊で固める場合が多いようです。理由はおそらくですが、糸だけでは強度が不十分であったり、紙がガタガタとズレて読みにくいためと思われます。

小さな本工房さんの糸かがり製本では、糊は表紙の紙を厚紙に貼る時のみ。背は糸だけで綴じて、それだけで十分な強度があります。糊で固めないので、180度、いや、360度ほど容易に開きます。

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この、美しさよ…!!!!

これは、映えを狙っているのか?
はじめてこのような本があることを知り、写真を目にしたときには、そう思いました。

しかし、以前書かれていたブログ記事などをいくつか読ませていただいたところ、どうやら、最近始まったものではないらしい。

それも、十何年も前から活動されて、製本仕事もいろいろとされる中で、小さな本工房さん自身が「本を仕立てる」理由を考えに考えた結果、このような形に辿り着いたそうなのです。

小さな本工房さんこだわりの、
「はん・ぶんこ」サイズ。
文庫本の半分、A7サイズです。

小さな本工房さんの本づくりは、通勤電車の中で、韓国語やフランス語を暗記するための、自分のための本を作ったところから始まりました。

そのため、満員の通勤電車の中でも邪魔にならずいつでも持ち歩けて、十分に読める量や大きさの文字を収録できる、「はん・ぶんこ」に落ち着いたそうです。

「はん・ぶんこ」ほどの、通常より小さな本は、もし背の開きが悪いと、とても読みにくいものになってしまいます。

インテリアや雑貨としてなら問題ないのですが、小さな本工房さんの場合は、語学学習用。読みやすく、メモを書きやすいものが必要だったのです。
そういった理由から、背を糊で固めない、糸かがり製本。独学で書物から学んだという方法でさまざまな本を仕立て、製本教室も行っていらっしゃいます。

はじめて小さな本工房さんとお会いした時、本づくりに対する考え方や造本の理由など、いろいろなお話をしました。

私が、最初の本「DENMARK」や「UOUSAO」を作成した後だったかと思います。

私が「なぜ本をつくり続けたいのか」という記事を書き、それに対してコメントをくださったことから、お話する機会へと繋がりました。

小さな本工房さんが本を仕立てるのは、いつでも持ち歩けて、書き込みをするため。どんどん使って、どんどん新しく作れるような、そういう製本方法を編み出しています。
特に、小さな本工房さんが提案する、誰でも作成できる治具は、作業過程において、あるのとないのとでは効率やスムーズさが大違いです。

わたしが本をつくるのは、読んでくれる人に気付いてもらって、大事にしてもらうため。そのため、保存性や強度を考えて作っていました。

何を考えて、何のために本をつくるか。
製本も編集も、つくる人はみんなそれぞれ考えていることが異なるのは当然なのですが、そんな話が出来たことが本当に面白かったです。

さて、実際の製本教室の様子を、言葉に表せる範囲で、お伝えしましょう。


小さな本工房さんの製本教室では、必ず中身の印刷されている紙を本文として使用します。編集、印刷は小さな本工房さんが自宅でされてきたもので、毎回、その印刷や編集の整然とした綺麗さに驚きます。

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本をつくる際には、ページを間違えないように注意しなければいけない、という最も重要なこと。そういう、本づくりの基本の考え方を、随時、言葉と実物をもって教えてくださいます。

ページを合わせるための、面付けは、既に小さな本工房さんが済ませておいてくださっていますが、これも大変な工程です。

また、A4の紙を無駄なく使用して、ゴミを出さない形で製本を終える。これも小さな本工房さんのこだわりです。
紙を綺麗に折って、綺麗に綴じれば、化粧断ちをしなくても全く気になりません。それほどに出来上がりが美しい製本方法です。

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用意された紙を折っていきます。

小さな本工房さんの糸かがり製本では、ある程度背中の厚さがあると、糸が模様のようになる様子が見えるので、100頁程度は用意されています。

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小さな本工房さんが考案した治具。紙を切る、折る、穴を開ける。単純な作業のひと手間ひと手間の負担が減り、製本作業がぐっと快適なものになります。

教室では、用意された材料を組み立て使用します。実際に使ってみると分かる、治具の重要性。仕組みさえ理解できれば、自分でも簡単に作成することができ、「はん・ぶんこ」サイズでなくても応用することができます。

紙を折って、糸を通す穴を開けます。
糸を蝋引きして、針を通せば、糸かがりの準備完了。

糸をできるだけ継がないで、1本の糸で表紙から本文から裏表紙まで一気に綴じるのが、小さな本工房さん流。

初心者は太めの糸を使うことが多いですが、わたしは太めの糸のほうが、背の糸が編まれている様子がよく分かるので、好きです。
小さな本工房さんが用意してくださる、草木染めの糸の色が緩やかに変化する様子も分かります。

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糸かがり最中の写真は、ほとんどありません。なぜなら手を離せないので。

先日は、初めて、リボンを使った支持体ありの綴じ方を教わりました。

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リボンの上で、糸がクロスしています。

支持体無く、糸を一本で綴じる時とは、全然違う流れで針を動かしました。

実際のかがり方は、なかなか文字では伝えられないので、是非、直接製本教室で教えてもらってください。

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小さな本工房さんの糸かがりをやっていると、「編んでいる」という実感があります。

製本しているというよりは、編み物をしている感覚になってくる。

どちらも、モノを作っているという点では、同じです。

紙を切ったり折ったり、糸を通したり編んだり。

地味な作業の繰り返しなのですが、必ず終わりがあって、手を動かしてさえいれば完成する。

出来上がるとそれだけで、満足感が得られる。

すごく地味なんですが、たぶんそれが好きなんですよね。


たくさん作るのは大変だけれども、大切な数冊をつくる際に、小さな本工房さんに教えていただいた糸かがりをやってみようと思っています。

量産するのは難しいけど、一冊一冊に愛着を持てる。自分の手を動かして出来上がる楽しさは、そこにあるのかなと最近は思っています。

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