文野麗
非常に苦しい中学時代を終え、高校に入学した琴音は新しい生活を楽しもうとしたが、思うようにいかない日々の中で食べる意欲を失ってしまい、摂食障害に陥る。 —これは自分を奪われた少女たちの、克服と再生の物語— この作品は拙作「Thirteen」の続編となっております。 ※小説家になろう・カクヨム・ノベルアッププラスでも同内容で掲載しています 各話表紙は根本鈴子さんに描いていただきました。
儘ならない日常と、報われない努力と、徒労 この作品は短編集です。それぞれ独立した作品が五編収録されています。全て書下ろしです。 ※小説家になろう・カクヨム・ノベルアッププラスでも同内容で掲載しています
中学二年生の琴音は同級生で従妹の麻理恵から、塾の講師白田と付き合っていることを告げられる。やがて琴音は麻理恵の男女交際に協力するようになる。麻理恵の禁断の恋のゆくえは? そして琴音の本心とは? ※作中道義的に問題がある描写や触法行為が描かれますが、この物語は法律・法令に違反する行為を推奨・容認するものではありません。よくご理解いただいてからお読みくださるようお願いいたします。 ※この作品は小説家になろう・カクヨムにおいて連載し2019年完結した内容に加筆修正を施したものです ※ノベルアッププラスでも同内容で掲載しています 表紙は根本鈴子さんに描いていただきました。
掌編と短編を集めました。一つ一つの作品がそれぞれ独立した短いお話になっています。全て書下ろしですが、「人生最良の日は」は以前作者が書いた「『星と花』に寄せて」の続きになっております。前作を読まなくても分かる内容になっています。 ※小説家になろう・カクヨム・ノベルアッププラスでも同内容で掲載しています
初めまして。文野麗と申します。アマチュア作家としていくつかの投稿サイトに作品を投稿しております。小説・詩・エッセイ合わせて20作品をカクヨムで公開しております。 こちらでは小説を有料公開しようと考えております。他のサイトでは読めないnote限定の素晴らしい作品を書いていきます。どうかご贔屓ください。 またいくつかの他サイトで公開済みの小説をピックアップして無料で公開いたします。 私は作家としての活動の他に語学学習を行っております。ドイツ語と英語を勉強中です。語学学習の進
琴音は頭痛で早朝に目を覚ました。身体中がまるで絞られているかのように痛む。呼吸もしにくく、激しく咳こんでしまう。喉と鼻の粘膜が乾いて痛い。 急な体調の悪さに琴音が二時間くらい苦しんだ頃、 「もう起きなさい」 と母が部屋の前にやってきた。 「起きられない」 「え、何て言ってんの? 聞こえない」 ろれつが回らない上声を出す体力がなくて、琴音ははっきり話せなかった。 「起きられない」 「入るよ」 母は赤い顔をして呼吸に苦しむ娘の様子を見て、異常を悟ったら
※表紙画像がアップロードできないので一旦画像なしで投稿いたします 麻理恵と遊んだ日から五日ほど経った。この日も琴音は昨日までと似たような気分で一日を過ごしていた。バス停から無理をして十数分ほど歩き、学校へ着く。席に座って理解したりしなかったりしながら授業を受ける。体育の授業はもはや定位置となった体育館の端の、マットが重ねて置かれている横に座って見学する。 いつもと何も変わらない、ありふれた一日に思われた。 昼休みは歌羽の必死のお願いを躱して、ゼリーを一口だけ飲んで
琴音が寝る前寝転がってネムのブログを読み返していたら、麻理恵からのメッセージが入った。 ――聞いてよ彼氏できたんだけど―― ――よかったね。この間の人?―― ――そう。付き合うのおっけーもらった。ガチ幸せ―― 麻理恵は続けて送ってくる。 ――身体の関係なしでいいって約束取り付けた。ぷらとでいいって―― ――理解ある人だね―― 過去のことを打ち明けたのかどうかは聞けなかった。仲間内でどれくらい知られているのかも、琴音には分からない。 琴音は別の切り口で
歌羽は初めて自分の過去を語り出した。 私は小学校のときクラスでひどいいじめに遭っていたんだ。 小学校って、女子はグループに分かれるじゃん? グループのメンバーはいつもいつも一緒にいて、何をやるにしても常にその子たちとだけやるみたいな。グループの外は断絶した世界で、行き来ははい。琴音も経験あるでしょ? それでそのグループの中でも人間関係は複雑で、グループを追い出される子もいるし、何人かで抜けて新しいグループを作る子もいる。クラス全体での女子の人間関係はもっと複雑で
ほんの少しだけ意識を変え、医療用の栄養ドリンクを我慢して飲むようにしたところ、悪化する一方だった琴音の体調はある程度の落ち着きを見せた。身体が限界状態を抜け出してから、少し遅れて精神状態も最悪ではなくなった。 寒空の下、ネムの帰りを待つのは心まで冷えるようであるが、歌羽は目の前にいるので、寂しさを埋めるため、もっと話をしたくなった。 「昨日口内炎発見しちゃってさ」 「えー痛いじゃん」 「死ぬ。何もしなくても痛い。痛たた……」 そう言って口を押さえる歌羽を眺めな
カウンセラーの女性は、いつも通り白衣姿で病院の待合室に現れた。琴音は珍しく笑顔を見せ、挨拶をする。二人で専用のカウンセリングルームへ向かう。 事務室のような殺風景な入り口を入ると、大きな木製のテーブルが奥に見える。席に着くと、灰色の背が高い収納棚がテーブルの奥の正面にあり、カウンセラーはその手前に座る。いつもの定位置だ。 収納棚の中には手芸用のセットや作品が入った箱がいくつも入っている。琴音がこの先生と作った作品を入れている青いアルミ製の箱も含まれていた。 部屋
琴音は書道教室で、この頃更に細くなり静脈が透けて見える右腕を動かしながら、半紙に向かっていた。課題である「光景」の文字を書こうとしていた。だが何枚書いても思うような出来にならない。それどころか、どういうわけか、書けば書くほどまともな文字にさえならなくなっていく。 琴音は焦っていた。なんだろう、どうしてこんなに文字が汚いんだろう。この現象が現れるのは初めてのことではなかった。 書道教室に入ってから途中までは少しずつ級が上がっていったが、この頃は全く上がらない。琴音自身
琴音が中学生の頃、部活では楽器ごとのパート別に練習する時間があった。 この日は秋だった。三年生は琴音と豊子の二人で、他に二年生と一年生の部員が二人ずつ、全員で六人のパートメンバーがいた。一日一日、みるみるうちに日が短くなっていって、トランペットパートが練習している部屋の外は薄暗かった。明かりは白色灯のはずなのに部屋の中はどこか赤味を帯びていた。暖房が音を立てながら暖かい空気を巡らせていた。 トランペットパートは冷暖房が直接快適な温度に保ってくれる教室の一室を練習場所
【悲報】拙作「絶体絶命」のタイトルをずっと間違えた漢字で表示しておりました。今日判明しました。申し訳ありません。 ショックと恥ずかしさでいっぱいです。とほほ。 https://note.com/lei_fumi_zb8/n/nca84c8efb473
琴音は少しだけよそゆきの格好をして、母に連れられ、麻理恵と麻理恵の両親が住んでいる、藤沢の家と呼ばれている家へ行った。 広いダイニングで、麻理恵は琴音を迎えた。上下灰色のスエットなんて着ている。琴音は最初驚いた。 「久しぶり、琴音。旅行のとき以来じゃね?」 麻理恵の嬉しそうな様子は、本心からのものに見えた。 「そうだね。麻理恵、久しぶり。元気だった?」 「元気。最近学校超楽しくなってきたし」 琴音は麻理恵の風貌をさりげなく観察した。麻理恵の髪の毛は明るい茶
どうしてこのつらいときに限ってネムは私の傍にいてくれないのだろう。琴音は夜中にベッドの中でネムのブログを読み返しながら、考えた。なんで入院なんてしてしまうんだろう。ひどい。私はこんなにつらいのに。 無駄だと分かっていながら、何度も琴音はページを更新した。今、新しい記事が現れるはずなんてないと理解しているが、やめられなかった。 私はどれほどネムを必要としていたのだろう。琴音は痛いほど実感した。ネムと話ができないせいで。心の拠り所がない。 家族との不和も歌羽からの叱
中学二年のとき、麻理恵の家出騒ぎと破局、人工中絶手術に琴音は多大なるショックを受けた。麻理恵が彼氏の家に行くことを勧めてしまったのは琴音自身であることから、一連の出来事の責任の一端は自分にあるように感じられて強烈な罪悪感に苛まれるようになった。 琴音は精神的に激しい苦痛を覚えたのち、糸が切れたかのように極端な無気力状態に陥り、外からの情報や働きかけが飲み込めなくなった。ひたすらずっと呆然としていた。 同時に過呼吸の発作が頻発するようになり、授業を受けたり部活をこなす
歌羽は不機嫌そうに、唇をすぼめて琴音と目を合わせずにくぐもった声で言った。 「でも琴音には直接関係ないじゃんそれ」 「そんなことないよ。私たちは共犯者みたいなものだったし、麻理恵が可哀想な思いをしたのは気の毒でならないし……」 「琴音が痛い思いをしたわけじゃないでしょう?」 歌羽の直接的な言い方が気にくわなくて、琴音は返事をためらった。もう少し婉曲的な言い方がないものだろうか。 「そんなんでさ、ご飯食べんの拒み続けて倒れるなんて、間違ってるよ。そのいとこは気の毒
過呼吸の発作は治まったが、摂食障害のせいで危ない状態に陥ったのは間違いないので、琴音は入院することになった。かかりつけの精神科のある病院へ転院し、最低限の体力を回復させるため一週間くらい点滴治療を受けた。 入院中にカウンセリングも受けた。カウンセラーは若い女性の先生だった。何度か話すうちに、琴音は中学時代のことをぽつりぽつりと話すようになった。毒と呼べるほど有害な記憶は、身体の中にあるだけで自分を蝕むが、話すことで口を伝って外に出すときも、気道や喉、口に害をなすように感
夏休みは終わり、学校に行く日々が戻ってきた。あっという間に一ヶ月が過ぎ、十月の文化祭が開催されていた。琴音は学校の名前がついたお祭りの初日、歌羽とともにクラスや各部活の出し物を回っていた。 「午後一で吹奏楽部の演奏あるんだ。聞きに行こうよ」 と歌羽が学食で、昼食のうどんを食べながら提案した。 「吹奏楽部?」 琴音はその響きだけで嫌な気持ちになった。こちらは手元に何もない。相変わらず何も食べていないのだ。 「吹奏楽、かっこいいじゃん。私結構好きなんだ。体力ないか