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箱根ワンダー~水たまりは希望を写しているのか

京都音博から早2カ月、我が家の4歳と2歳のくるりキッズたちの進化がとまらない……。


くるりキッズと“佐藤さん”

京都まで行ったことですっかりくるりを身近に感じたのか、子どもたちからライブ動画やらMVやらを見せてほしいと毎日のようにせがまれるように。

土日だけの楽しみにしようと決めて、毎週のようにくるり鑑賞会を一緒に楽しんでいたら、2人ともすっかり“くるりキッズ”になってしまった。

なぜだかわからないけど“佐藤さん激推し”の4歳娘。佐藤さんのサラサラヘアーに憧れ、苦手だったシャンプーとリンスを前より丁寧にがんばるようになった。

太鼓が好きなのか、はたまた風貌が気に入ったのか、謎に“若さん(サポートドラマーの石若駿)推し”の2歳息子。

ラップの芯をベースに見立て、軽やかに弾き語りをする4歳姉と、ラップの芯で必死に床を叩いている2歳弟。(バンド名、クレラップ?)

だいぶ変なきょうだいである。
4歳にしてベースボーカルって渋すぎだろ…

くるりの動画を見ては2人で

「さとうさぁ〜〜ん!(ベース)」
「わかしゃぁ〜〜ん!(サポートドラム)」
「まつもとだいきぃ〜!(サポートギター)」
「のっちぃ〜!(サポートキーボード)」

と合いの手を入れながら大盛り上がり。

松本大樹(サポートメンバー)のギターソロで手を叩いて喜んでいる……。

ねぇねぇ。
歌っているのは岸田さんだよ…?

…とツッコミを入れたくなるぐらい、なぜか佐藤さんとサポートメンバーが大好き。

2人でうるさいぐらいに「さとうさん、さとうさん」言っているのは一体何の現象なのか……。

寝ても覚めても佐藤さんの話をしてるくるりキッズたち。日本全国広しと言えど、他にいるだろうか?

4歳娘は今や
「わかさんのロックンロール!」
「わかさんのしおかぜのアリア!」
「ボボさんのおんせん〜♪」
「あらきさんのえびばでー」
とサポートドラマーでくるりの動画をリクエストするようになり、もはや一端のオタクのよう……。
我が娘ながらポテンシャル高すぎてちょっと将来が心配になる。

そして『温泉』のMVがすっかり気に入ったくるりキッズたち。
(佐藤さん推しだけど、岸田さんが湯船に飛び込むシーンが大のお気に入り♪)

「おふろにはいってかたまでつかって~♪ぜんぶきれいになるのがいい~~~♪」
「はああ~~~あちちのち~~~~~♪」

キャッキャッと2人で楽しそうにお風呂で『温泉』を歌っているぐらいまでは「あはは、かわいいなぁ~」と見ていたのだけれど。

ワンダーフォーゲルという熱狂

ある日、なんだか耳に残るいい歌を歌っているなぁと思ったら、なんと往年の名曲ではないか……。

僕が何千マイルも歩いたら
手のひらから大事なものがこぼれ落ちた
思いでのうた口ずさむ
つながらない想いを土に返した
土に返した

今なんで曖昧な返事を返したの
何故君はいつでもそんなに輝いているの
翼が生えた こんなにも
悩ましい僕らも歩き続ける
歩き続ける

つまらない日々を小さな躰に
すりつけても減りはしない
少し淋しくなるだけ

ハローもグッバイも
サンキューも言わなくなって
こんなにもすれ違って
それぞれに歩いていく

『ワンダーフォーゲル』

しかも完全に諳んじて歌っている……!?

休日の朝から4歳娘と2歳息子が「はろーもーぐっばいもーさんきゅーもーいわなくなってえええ~~~~♪」と、ノリノリのアップテンポで熱唱しているではないか……。

待って、2歳児も『ワンダーフォーゲル』を歌えるの!?
舌足らずながらも姉について一生懸命歌っている……。

そして2人で、つながらない想いも、悩ましい僕らも、水たまりは希望も、全部土に返し続けているではないか……。

“つちにかえしたぁ〜〜♪”のとこ好きすぎだろ!
なぜそこだけリフレイン…

ずっと土に返し続けているのが面白過ぎて呑気に笑っていたものの、ひとしきり盛り上がった後の4歳娘の一言に突然、胸を撃ち抜かれる。

「お母さん、何千マイルも歩いたらどうしようもない僕のことをなんで認めるの?」

母、答えに困る……。

「お母さん、水たまりには希望が写るの?」

母、さらに答えに困る……。

私が歌詞の意味を説明するのも何だか野暮な気がして、

「じつはお母さんもわからないんだ。いつか曲を作った岸田さんに聴いてみたいねぇ」

と言葉を選びつつ、慎重に答えてみる。

「ふ〜ん、岸田さんって面白いうた作るねぇ♫」

とニッコリしてまた歌い始める娘。

「やのよーにーつきひはすぎてーぼくがいきたーえたときー♪わたりーどりのようになにーくわぬかおでとおーびつづけるのかーーーい♪」

僕が何千マイルも歩いたら
どうしようもない 僕のことを認めるのかい
愛し合おう誰よりも
水たまりは希望を写している
写している

矢のように月日は過ぎて 僕が息絶えた時
渡り鳥のように何くわぬ顔で
飛び続けるのかい

ハローもグッバイも
サンキューも言わなくなって
こんなにもすれ違って
それぞれに歩いてゆく

『ワンダーフォーゲル』

そしてまた、2人で『ワンダーフォーゲル』のサビを繰り返し熱唱し始める。かなり大きな声で。

「はろーもーぐっばいもーさんきゅーもーいわなくなってえええ~~~~♪こんなにもすれちがってそれぞれにあるいーてーゆくうううう~~~~♪」

いや、お母さんは君たちの感性の鋭さと言葉への興味の深さにビックリよ……。

何よりも、令和の4歳児が24年前の『ワンダーフォーゲル』の歌詞を短期間で完コピしていることに驚きを感じる。

もちろん子どもの耳コピなのでところどころ聴き間違って歌っているけれども、そんなことは問題ではなく。

私なんて24年間も好きで繰り返し聴いてきたはずなのに、サビぐらいしか諳んじて歌えない。

一緒に歌って、とせまがれて、スマホで歌詞を見たり、娘に教えてもらいながら何とかついていくレベル。

そもそもくるりは曲の良さでずっと聴いてきてしまい、歌詞は長年、雰囲気で聴いていて全体像をつかんでいなかったかもしれない……。

4歳児と2歳児をここまで惹きつける歌詞に強力な引力を感じ、改めて岸田繁の詩の才能と若年層の心をも掴む表現の普遍的かつ圧倒的な豊かさに驚かされる。

熱狂と考察の中で出会った箱根ワンダー

そして、『ワンダーフォーゲル』について考察する中で、本当に今更ながらカップリングの『箱根ワンダー~ワンダーフォーゲルRemix~』に出会った……。

あなたは24年間何をしてたの?っていうぐらい、私はくるりについて知らないことだらけだな。

同じようにシングル『ワンダーフォーゲル』の初回限定盤にカップリングされた『ノッチ5555』はカップリング曲を集めたアルバム【僕の住んでいる街】に入っていたおかげで愛聴してきたのに。誰も私に『箱根ワンダー』の素晴らしさについて教えてくれなかったよ…笑。

『ワンダーフォーゲル』の詩を理解する上で、『箱根ワンダー』は重要なキー曲だと感じる。

より岸田繁の詩が浮き上がってくるような、音楽という宇宙の中で、言葉がDNAの二重螺旋構造のようにグルグルグルグル浮遊していくようなイメージが沸いて、非常に興味深かった。

というか、めちゃくちゃ自分好みのRemixでなぜ24年間出会わなかったのか不思議なぐらいだ……。くるりはすべてアルバムで聴いてきたのが、名曲を逃した原因か。

もうこの曲が好きすぎて、今更ながら2000年10月発売の6thシングル『ワンダーフォーゲル』を購入してしまった!

このサブスク全盛期に今更シングルのCDを買っている人なんているのかしら?

初心に返って24年越しの出会いに乾杯!

水たまりは希望を写しているのか

『箱根ワンダー』を夜な夜なヘッドフォンで没入ループ再生しながら聴き続けた結果、水たまりには希望が写るんじゃないかと私は確信した。

娘よ。この間はうまく答えられなくてごめん。

あなたがこれからの人生の中で、どうしようもない自分に悩み苦しんだとき、お母さんは何千マイルでも一緒に歩きたいと思う。

もうその頃には思春期真っ盛りで、きっと隣を歩かせてはもらえないだろうけれど、せめて心だけは一緒に伴走していたい。

人生は思いもよらないことが起きて時に心がかき乱されるけれど、明けない夜も止まない雨もないはずだから。

雨上がりの水たまりを覗いてみたら、希望が写っているかもしれないよ。

水たまりに希望が写ったとき、あなたはきっと自分の中の弱さや不安と決別して、次なる一歩を踏み出しているはずだから。

お母さんは『ワンダーフォーゲル』をそんな人生の応援歌なんじゃないかと思ったよ。

矢のように月日は過ぎてお母さんが息絶えた時
君たち2人が渡り鳥のように何食わぬ顔で
飛び続けて欲しいと強く思った。

つまり、これは24年前の私のうたであり、これからを生きる君たちのうたなんだなと。

なぜそんなに君たち2人が熱狂しているのか、ほんの少しだけ腑に落ちたような気がした。

絶望の果てに見つけた希望のうた

『ワンダーフォーゲル』は爽やかで前向きなサウンドとは裏腹に、岸田繁が淡々と歌うメロディーには届かない思いや君への切なさを感じて、ずっとどこか青春の儚さを憂う“悲しいうた”だと思い込んでいた。

それが、歌詞の意味もわからない2歳と4歳の心をこんなにも熱狂させるぐらいパワーを持った、未来への“希望のうた”であることを、この歳になって初めて気づけたような気がする。

子どもたちの熱狂に背中を押されて名曲と再び向き合うことで、岸田繁は若かりし頃から一貫して「絶望の果てに見つけた希望のうた」を歌い続けてくれているのだなと改めて気づかされた。

『箱根ワンダー』との出会いが『ワンダーフォーゲル』への思いをより一層強くしてくれた。

本当に長年のくるりファンが聞いたら今更何言ってんだこいつ!という感じですが……“私的くるりBEST5”に入るぐらい『箱根ワンダー』が好きになりました。

と思っていたら、『ワールズエンド・スーパーノヴァ』のシングルのカップリングにも『ワンダーフォーゲル~remixed by TSUTCHIE』が……。

今一度、1stからシングルも全部チェックしないとダメかもしれない。

もうくるり、奥深すぎ。
Remixだけで1枚アルバムが欲しいぐらい、くるりのRemixは素晴らしいなぁ。

『ワンダーフォーゲル』という名曲の知らなかった奥深さが、Remixによってさらに浮き上がってきて、時代を超えて今更ながら感動です。

この素晴らしさにもう一度気づけたのは、くるりに熱狂する我が家の小さなオタクたちのおかげ。

さすがにまだちょっと早いかもしれないけれど、『ワンダーフォーゲル』が大好きなくるりキッズたちにもRemixなるものを聴かせてあげたい。

いつか大人になった娘が改めて『ワンダーフォーゲル』を聴いたとき、一体どんな感想を持つのか。「水たまりは希望を写しているのか」の問いの答えをじっくり聞いてみたいものです。

くるりキッズと“岸田さん”

今夜も一緒にお風呂に浸かりながら、ふと4歳の娘に聞いてみた。

「ねぇ、どうして『ワンダーフォーゲル』がそんなに好きなの?」

娘は何を当たり前のことを聞いてくるんだというような顔で答える。

「え〜だって岸田さんが楽しそうにうたっているから!」

シンプルな答えに物凄く納得。
そうだよね。
子どもたちといつも一緒に見ている結成25周年公演の『ワンダーフォーゲル』の岸田繁は、とても楽しそうに伸びやかに歌っている。

そこには小さな胸にも伝わるぐらい、音楽への愛と希望があふれているのかもしれない。

「楽しそうに歌っているから好き」

娘のシンプルな賛辞が何だかとてもいいなと思う。

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