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一山幾らのロックバンド
2025年1月、ステージでギターを鳴らし唄を歌う山田亮一を7年振りに観た。紆余曲折あったヒーローは、すっかり元気そうに見えてじんと来た。
昨年夏の逮捕騒動のほとぼりは驚くほど迅速に冷めて、一度は頓挫しかけた新バンド「山田亮一とアフターソウル」は再び動き出した。新宿LOFTに来たのは思い起こせば、2017年のバズマザーズワンマン公演以来だった。
出来たての新曲を携えて登場したぴかぴかのアフターソウル。山田亮一が4人で舞台に立っている姿は、正直まだ見慣れない。私はスリーピースで鳴らし狂う彼らが大好きだったけれど、ギターボーカルが一人で全部を背負い込まないように、歌い続けるために彼が自問して選んだ道なのだった。その覚悟を思うと、変わらなさをつい望む気持ちは手前勝手だなと省みる。
「アパルトの中の恋人たち」のイントロで、1秒目から熱狂で幕を切ったステージ。続く演目はアフターソウルの新曲に、これから出るアルバムに入る未発表曲、そしてセットリストの約半分はハヌマーンの楽曲たちだった。山田亮一がハヌマーンを、バンドで高らかに鳴らしている世界線。これは夢か?とあの空間に居る誰もが、目の前の光景の信じがたさをほんのり分かちあっていたように思う。
ライブ中盤、昭和アイドル歌謡風な節回しの新曲を披露する前、彼はおちゃらけながらこんなことを話した。「この曲は、山田亮一先生が、あのハヌマーンの山田亮一大先生が、僕をプロデュースしてくださった曲です」。
山田亮一はついに吹っ切れた、と思った。栄光にすがるのではなく、素直に頼っている。過去の自分が現在の自分を圧倒的なパワーで持ち上げてくれる境地。余計な力を抜いておとなしくそれに身を預ける境地。プロデュース業というのは実績の元にしか成り立たない仕事だ。かつての俺は悪いけど人違いさ、と振り返らない意地をガソリンに変えていたあの頃から、他でもない自分が作り上げてきた輝かしいポートフォリオを、自他ともに認めるソングライティングの才能を、胸張って堂々と活用するフェーズへ。2012年のハヌマーン解散から気づけば干支も一周して、それができるようになるだけの時間が流れた。そして忘れてならないのは、これはバズマザーズというキャリアを間に挟むことで初めて成立する座組みということだ。
酸いも甘いも知り中年になった彼は、一山幾らのロックバンドの世界に戻ってきた。ただし、もう瓦礫に埋もれる石ころではないという圧倒的自負を携えて。泥臭く舞台に立ち続けたバズマザーズの7年間、その時間と活動を経て初めて、ハヌマーン時代の実績と適切な距離をもって、今ようやく真正面から向き合えているのではないか。聴衆が夢見たハヌマーンのベストヒットを、惜しげも無く時間の限り放出していく山田亮一とアフターソウル。7年前の自分に話しても信じてもらえないであろうセットリストを全身に染み込ませながら、ぼんやりそんなことを考えていた。
山田亮一の音楽に惚れ込んだファンの青い春が、再び動き出した。引き延ばしてきたせいで水色どころか透き通りかけていた。もうすぐ新譜が出る、まだ見ぬ曲に会えるという近い未来の約束は、静かに、強かに、私たちの足元を明るく照らす。
まだ生々しくて触れないのかもしれないバズマザーズの楽曲達も、現在地までの空白を埋める誇らしい足跡として、認めて手札に加える境地。これもまた、もう少しの時間が解きほぐしてくれると良いなと思う。バズマザーズのこともみんな、あなたが思うよりもずっと大好きだったんだよと、前途洋々な彼の背中に一方的に話しかけておきたい。
一山幾らのロックバンドに紛れて
紡ぎ出す言葉はノイズにさえ成り得ない
コレより非道いのが
俺の心血に爛れたロックンロールさ
↓「元ハヌマーンの山田亮一逮捕」の絶望に突き動かされて書き殴った一通目の手紙