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第一章 時空を駆ける猫

どうも今晩は。
以前のわたしは毛が黒くてふわふわしていて、耳が三角▲。そして良目がビー玉みたいと言われていて、お父とお母とツツジにくぅちゃんと呼ばれていたわ。多分ちゃんって言うのは名前のあとにつける敬称なので正確にはくぅという名前だったの。猫という生き物だったの。

現在のわたしはひとには姿は見えなくて光の粒のような気泡のようなものなの。猫のわたしは外が怖くて仕方なかったわ、お家でお父と少し庭にでるくらいのことでも耳がヒトより良いから音が怖かったの。車という乗り物も大嫌いだった。でも庭での散歩は楽しかったわ。お母の膝の上で眠るのが日課だった。ぬくぬくよ。ツツジとはよく月見をしたわ。その頃よりずっと遠くにひとりで行けるようになった。
光より早く月へも行けるわ!
夜だって恐れなんて無い。
電線つたい赴くまま走ってると以前は話すだけだった鳥や虫と同じように空中飛ぶわたしはクゥ。

ある夜の事、何時ものとおり電線を伝って今日はどこへ行こうかなんて走っていたら向こうから同じような光がものすごく発光して迫ってきた。避ける隙を与えないほど光は強く速くどどどどどって音がしていた。そうしてわたしはそれと衝突してしまった。私の気体は散らばり、ぶつかった光も弾けてしまった。そのときの衝撃のなか覚えているのはぶつかったものの一部の感情と電線がちぎれて、外灯やあたりの家々の灯りみーんな消えたこと。真っ暗闇よ!

その瞬間、幾何学模様のようなそうね、人が目を瞑ったときにみえるようなやつ。それが何重にも連なったものが夜空に出現した。それは夜のなかで不思議な色を発して光ってる。以前の猫だったときの習性でわたしはそれに飛びついたわ。

わたしはちりぢりになったままその中に吸い込まれてゆく。このまま消えてしまうと思った。猫のときの身体と同様にこの気体も無くなるのね。あちこちに冒険するのも終わりか。 最後にお父とお母とツツジがどうしてるか気になったけど、、、
だけど私はまだそこに居てた。散らばった粒子が消えることはなく何故か螺旋状に回転しながら一点に向かいだした。何故わかるかって?その反対側でぶつかった気体も逆方向に筒状に連なり回転しながら一点に落ちてゆくのがはっきり見えていたの。
次第に上からものすごく圧迫されたような感覚にわたしは猫のときの眠る前のようにまぶたを深く閉じた…

凄くいい匂いで目が冷めた。
なんだろう。カツオでもカリカリでもちゅーるでもない。香りが鼻をかすめるとお腹がキュルキュルなった。
急いで起きて走り出そうとして違和感を感じる。身体が重い?動きがス厶ーズにできないし、何より世界はこんなに小さかったかな?少しからだや足でも打った?少しの違和感がなぜなのかはすぐに解った。私って猫のときも頭は良かったのよ。ツツジがよくクゥちゃんは賢いって言ってたもの。

鏡にうつったのは以前の猫の容姿ではなくお父やお母やツツジと同じサイズ。毛は身体には無く頭にだけ。長く赤毛のふわっとした髪型。ぁどうやら人間の容姿になったみたい。
お家のような白い空間に白いふわふわのお布団がひいてある透明のはこから立ち上がる。二足歩行だ。尻尾もない!耳はあるけど三角じゃない!耳を澄ましてみる。
鳥や虫の話声は聞こえない…
外からは機械のような音、人の話こえ、ぶうううんっていう嫌いだった車の走る音、それから朝食ができましたっていう機械のような声が部屋に響いた。好奇心が湧いてきた。
部屋の扉から漏れる光の隙間から外を覗いてみると一人の男性が
「おはよう 目玉焼きができたよ 」なんとも無機質な声だった。
猫のときから人間の男性が大きくて声も低くて怖くて近寄らなかった。お父とツツジは大丈夫だったけど。人間サイズになった今はそんな大きく見えなかった。怖いという感情よりお腹が空いたっていうほうが大きかった。
人間の言葉は10年人間と一緒だったから知ってる。お腹は空いてる。目玉焼きも知ってる。ツツジが食べてもいたし、お母もお昼によく食べてたし、お父も夜ご飯に食べてた。ということは何時でも人間は目玉焼きを食べてるんだ。食べなきゃ!食べたい!って思った。そうだ確か、えっと「いただきますにゃ〜」カリカリをねだるときと同じ声で話す。こうすると人間は下僕とかすのよ。ふふふっ

振り向いた男性は一瞬怪訝な顔をした。そして気味悪い笑顔で笑いだした。
「生き返って猫になったのかい?アハハハハ」
馬鹿にしたような笑い方だわ。でもどこか自虐的なように口元が弓を描いてる。下弦の月みたいね。月見は飽きるほどしてたから。

目玉焼きはやく食べたい。あとわたしは猫のクゥよ。宜しく。心の中でつぶやいて机の前にキチンとすわった。あんがいとそう困難もなく座れていると思うわ。おおきな真っ白いテーブルにソファが硬い椅子の上に猫座りで待つ。

ロボットのような白いやつが目玉焼きを運んできた。なにあれ!生き物じゃないわ。でも喋ってる。「お待たせしました。本日のメニュー1目玉焼きとクロワッサン野菜スープ ヨーグルトでごさいます。」ロボットにも顔がある。「美味しそうにゃ!」とっさに言ってしまった。すると男性は呆れたように「何時までフリを続けるんだい?ちゃんと椅子に座って?怒ってるんだね?」
そういうその人のほうが怒った目をしていた。口元は三日月のまま。ちょっと毛を逆立て威嚇してみる。部屋を見渡すと、この真っ白い部屋に不釣り合いなおおきな薄茶色のパイプオルガンがある。オレンジ、ミドリ、モモイロ、ミズイロ、キンイロのパイプはとても綺麗。確か音が出るんだ。知ってる。
それはさておき!
並べられた豪華な朝ごはんは色とりどり目玉焼きの隣には緑の野菜と赤いトマトピンクのお肉の焼いたやつ野菜スープはとろとろしててちゅーるに似てるかも?クロワッサンは香ばしい匂い。フォークとスプーンが置いてある。使い方は知ってる。ツツジが食事するのをキャットタワーの上から毎日眺めていたもの。お箸だって使える。まずは毛づくろいで整えてからあっ人間は毛で覆わてないのか。
じゃあさっそく実際にフォークを手に取り目玉焼きをさして食べる。あっ中の黄色がお皿に落ちる!一口でいけるかな。パクリ
「ううまいにゃー!!!」
このとろけ感はちゅーるより上かもしれない。腹が減っては威嚇もできない〜
さて次はと朝ごはんに夢中になってたら男性は声を大きくした。
「いい加減にしないか。マリー怒ってるんだね。君が死ぬ前の日の事忘れてるはずだけど。僕が憎くなったんだね…それでも猫のふりなんて…目もそれコンタクトレンズかい?まさか博士が?」

???この人間の女はマリーという名前なのか。わたしと同じ光の気体だったから肉体は無いはず…生き返ったと言ってたから息を吹き返す前にわたしと衝突した?などと食事をしながら考える。モグモグ。クロワッサンはサクサクだな。このままこの女の振りはごめんだ。面倒になったわたしは言葉矢継ぎに言った。

「マリーは赤いビスケットのお菓子の名前ね。本当にわたしは猫のクゥよ。くぅって名前。手違いでこの人間の中に入ってしまったみたい。何故言葉がすらすら出てくるかは人間と長く暮らしてたのもあるけど、多分この人間の脳が記憶してるのかも?」
「どうしてか全然何も解らないの。わたしはこの冬猫のときね。家族のもとから死んで消えてしまったの。それから毎晩外で大冒険してたらこの人間にぶつかって気がついたらここに居たわ。」
「わたしは猫のクゥ!あとコンタクトじゃない。わたしの目はこんなエメラルドなの。証明になる?調べてもらえばわかるはずよ。博士に」博士ってなに?

それにしてもここは何処?
「ここは見たこと無いところよ。わたしたちがぶつかって散らばった場所は日本だったわ」窓の外をじっと見てみる。

この高いビルは何連にもなってる。同じような高い建物もあるし、街はとても整備されてて自然もあるけど、、、住んでたところとはなんか違う。整いすぎてておかしい。
あれ?そういえば電線がない…冒険する目印だったのに。でも人間の体じゃもう無理ね。

「マリー君が猫になったの博士の入れ知恵かな?はぁ。前の記憶僕との記憶、もしかして全く無いの…?そしてここは日本だよ?東京。東京の空中都市第2区だよ」

男性の問にわたしは考えた。
東京?あっ日本の東の方だにゃー
お父がよく出張に行ってたし、ツツジもたまに行ってた。それにしてもえらく都会的?なんか違う国のように見える。テレビで見てたときはさほど私の家の外と違うように見えなかった。それに空中都市?空中に都市なんてはじめて耳にする…

「おい!マリー!!」
男性がびっくりする大声を出した。大きな音は嫌いにゃ。身体がかってに反応してフォークを人間に投げつけた。これは正当防衛というやつよ。
「君のその目…太陽に反射したらまるで猫みたいに細くなって…猫…そうだね、クゥ?と言ったかな?君が猫だって言う証明を言ってくれはいか」焦りを隠せない様子で男性は言う。

その目にもう最初の怒りはなくなんだか今度は悲しそう。あれ?マリーじゃないのが解って悲しいのね…マリーはここに暮らしてるならこのひとは家族なはずだ。でも最初確かにマリー本人と思ってたときこの人怒ってた。あっ喧嘩してるのかも。人間同士は良く喧嘩する生き物だ。しかし猫同士もケンカはする、ようはあれだ同じ穴のムジナってやつ。ふーヨーグルトのなかの果物これはバナナだ。こんな甘かったのか。これも人間毎日食べてるにゃ。
「マリーとあなたは似てないけど娘さん?猫の証明と言われても、、、猫のとき好きだったのはネズミのおもちゃで遊ぶこと、爪とぎは至福だったなーカリカリフードにお父にカツオブシを混ぜてもらうのが楽しみだった。あとは寒いときはお母の布団の中に潜り込むと暖かかった。暑い日は涼しい2階でカーテンの影で眠るのが静かで良かった。あっツツジもたまに帰ってきたら布団に潜り込んでやったにゃ!猫は人間の匂いが嫌いだけど撫でてもらうのは気持ち良いから好きだったにゃ。ベランダで日光浴にゴロゴロ転がるのも好きだったにゃ。月見もよくしてたから皆既月食も見たにゃ。あればすごかった。赤くなってそれからだんだん消えていってーその後ツツジがおかしなことを言い出して呆れてしまったにゃ。星が動いたとか言い出したにゃははは」
凄く寒い冬だったにゃ。猫のときのことをいうと語尾がにゃって鳴ってしまってる。

なんとも言えない表情で男性は頭を抱えた。「今の君が猫のクゥだとしてどうしてどうやって人間に入れる?今の科学でも不可能だよ?マリーが博士に頼んだのか…?」
考え込むように独り言をいうそいつに
「ちょっと待つニャ!!ぶつかってきたのはマリーの方だよ。こっちもいきなり人間になって興奮してる。いや、混乱してるにゃ。お前私の質問を無視してるよ」ギロり。太陽が眩しくて目を細めた。

男性はじっと私の目を見た。
信じられないという表情をしている。「その目ケモノみたいなその目はマリーじゃない。それにマリーは皆既月食を見たことはない…知らないことを話すなんてしないはずだ。それからマリーは僕の恋人だ。」

とにかく博士に連絡だ。落ち着くんだ。はぁこっちも混乱してるって。マリーを見るとヨーグルトのお皿を舐めている。赤ちゃんみたいに。もしくは猫みたいに。くそっ!

そのときテレビのようなモニターに博士の着信がきた。

第二章に続く…

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