ジャズとアイリッシュセッションの比較
前回と前々回はジャズのセッションとアイリッシュのセッションについて取り上げて書いてみました。
ということで今回は、筆者が自らの偏見を交えつつジャズとアイリッシュのセッション文化の共通点と相違点を3つずつ紹介したいと思います。
ジャズとアイリッシュの共通点
1 みんなが楽器を持って集まる
そもそもセッションという言葉はどういう意味なのでしょう。
だいぶざっくりしていますが、上の定義が表しているように、みんなが適宜楽器を持ちよってバーやパブに集まるという点ではジャズもアイリッシュも共通しています。持ってくる楽器は異なれど、やはりみんなそれぞれ楽器へのこだわりはとても強いです。もちろんジャズの場合ピアノやドラムを持ち運ぶ人はいませんが… ただ、ピアノにも、Nordという持ち運びできるキーボードもありますし、ドラマーもスティックやシンバルなどを持って行くこともありますよね。
2 夜の音楽としての側面
ジャズもアイリッシュのセッションも昼の間働いた後の娯楽として発展してきた歴史があります。それぞれジャズも元々は仕事での不満を音楽にぶつけたり、労働の後の余暇を楽しむためのもので、アイリッシュは、一般の人々の間で受け継がれた伝統音楽なので皆が仕事を終えた後に演奏をするようになるところに起源があるのです。だからこそ、ジャズもアイリッシュもみんなが集まることができる夜に労働の癒しとして音楽を楽しみながら、お酒を飲んだりする文化が根付いているのですね。アイリッシュの方が酒豪が多い気はしますが。(笑)
3 暗黙の了解
個人的にはこれが一番大きな共通点だと思うのですが、ジャズにもアイリッシュにもかなり暗黙の了解が多いです。例えばジャズ初心者がいきなりジャズバーに行くと、よくわからないタイミングで拍手が起こっていると思うかもしれませんし、アイリッシュの場合はいきなり演者がハッと声をあげて驚くかもしれません。それぞれソロ終わりのタイミングで拍手することだったり、曲の移行の際の合図を送っているなどという前提知識がなければ状況を理解するのに時間がかかります。そういった意味でも暗黙の了解とされるものは両者とも結構あるように思います。ただ、だからといって敷居が高いと思い込まず、柔軟に色々勉強していくと面白いです。
ジャズとアイリッシュの相違点
1 演奏のハードル
ジャズとアイリッシュの大きな違いとしてまず挙げられるのは、演奏できるようになるまでのハードルです。ジャズの場合、曲のメロディーとコードを覚えなければいけない上に、それに沿って良いソロを瞬時に捻り出さなければいけません。これには理論云々に加え長年の経験により熟練した技術が求められます。一方、アイリッシュは極論を言えば、伴奏楽器以外は、小さい音であればメロディーを覚えてさえいれば弾いても怒られはしないでしょう。もちろん曲の記憶数やアイリッシュ特有のグルーヴ感や装飾は熟練した技術が求められるわけですが、初心者のセッション参加へのハードルはぐんと下がります。
2 金銭面の違い
一般的にジャズの敷居の高さの一つにミュージックチャージやメニューの値段の高さがあると思います。有名なミュージシャンともなるとミュージックチャージが5000円、1万円とどんどん高くなります。もちろんジャズでもセッションバーなどの場合はこちらがお金を払ってジャムセッションに参加するので、その限りではないのですが、それでもセッション参加だけでも2000円ぐらい取られる上に何か頼んでいるとすぐお金が飛んでいきます。一方でアイリッシュの場合、どちらかと言うとパブで演奏する人がお金を払う側なので、演者側もお客さん側もフードやドリンク代だけで事済みます。だからアイリッシュの方が安く済むと言えば済むのかもしれません。(お酒をたくさん飲む方は別として)
3 商業性の有無
時代を振り返ればジャズ音楽の歴史の発展は常に商業と関わりがありました。産業革命により労働者たちが余暇を手にした事で手軽にエンターテイメントを楽しめる大衆音楽に人気が出ました。そこからさまざまな発展を遂げるジャズですが、根本的にはエンターテイメントに完全に従事するプロフェッショナルという概念が定着しています。
一方でアイリッシュはイギリスの長年の統治により、細々とその伝統が繋がれて再興されている歴史があるので、商業性はあまりありません。だから、あまりプロとアマの歴然とした差がなく、バンドスタイルなどでなければ、大体のセッションにおいてはある程度の実力があればみんなが参加できます。むしろ、パブの観点からすると演奏者たちが店に定期的に集まってお金を落としてくれるのですから商業性アリかもしれませんが(笑)
まとめ
ということで今回はジャズとアイリッシュのセッション文化を比較しながら3つずつ共通点と相違点について書いてみました。念のため、これはあくまでも筆者の偏見でしかないので鵜呑みなさらず!好評であれば次回は、ジャズとアイリッシュそれぞれの暗黙の了解について解説していきたいと思っています。それでは次の記事で!