人事労務のマニュアルの作り方【②実践編】
こんにちは。
レジェンダ・コーポレーション株式会社 人事・労務支援事業部のWです。
前回は、人事労務を安定的かつミスなく処理するためのマニュアルでは「業務理解のための概要説明」が重要、そして概要説明のために業務を棚卸しするには、お部屋の整理整頓と同じように
①全部出す
②分ける
③しまう
という考え方で進めるとうまくいくよ、という話をしました。
ここから、前回挙げた「退職手続き業務」を例に、具体的にどう業務を整理するか考えていきます。
①全部出す
退職手続き業務で発生する作業を一旦すべて並列で書き出してみます。
②分ける
書き出した作業内容を見直し、その目的ごとに作業を分けてみると、大きく以下の3種類に分けられそうです。
ここで目的を捉え直すことで、「今までなんとなくやっていたけど、目的に照らし合わせるとこの工程って別にいらなくない?」という部分が見つかることがあります。「よく分からないけど慣例でやっていた」ような工程があれば、この機会に省略してしまいましょう(不安な場合は経過観察期間を置くと良いと思います)。
また、目的を達成すればよいわけですから、作業後のチェック時に重点を置くべきポイントがどこなのかも明確になってきます。端から端まで目を光らせて一切気を抜かずにチェックを行う、というのは人間にとって難しいものですから、「その作業で落としてはいけないポイント」を押さえておきましょう。
③しまう
ここまでくるとある程度業務の目的を把握しやすい状態になっていると思いますが、整理した作業をフロー図の形にするとさらに視覚的に分かりやすくなり、すんなりと全体像がつかめるようになります。
また、その業務における作業を一覧表形式でまとめるのも、全量を把握しやすいです。
その際は、発生する頻度やタイミング、トリガーを軸にまとめていくと、いつ・何を行うのかが明確になり、稼働計画も立てやすくなります。
もし明確なタイミングが決まっていない作業があれば、これを機に「今まではなんとなく様子を見て2~3週目にやっていたが、毎月15日に着手とする」などと決めてしまうことをお勧めします。「いつ対応すべきか」を各担当者の判断に任せると、属人化してしまうためです。
例示のため比較的単純な業務で説明していますが、こうした考えを応用すると業務整理がやりやすくなるのではないでしょうか。そしてこの業務整理ができていると、かなりマニュアル作りがラクになります。
■マニュアルの作り方~概要説明編~
①全部出す→②分ける→③しまうの工程を経て、業務の全体像がフロー図や一覧表の形にまとまり、「何をやる業務なのか」「担当としていつ何をすべきなのか」が一見して分かりやすい状態になっていると思います。
このフロー図や一覧表をマニュアルにそのまま載せることで、「概要説明」に活かせます。
一覧表形式であれば、表をそのまま目次に転用することで、各手順がマニュアル内のどこにあるか見つけやすくなります。
フロー図や一覧表の他にも以下のような要素を明記しておくと、業務理解の助けとなります。
・業務の目的
業務全体としての目的は何なのか(上の例であれば「退職者情報を適切に管理し退職手続を円滑に行う」こと)
・前提となる知識
業務遂行にあたり事前に把握しておくべき法律や社内規程など
・関係者
担当者以外でその業務に関わる部署や外部機関(銀行や保険会社など)と、その役割
■マニュアルの作り方~手順編~
概要説明によって業務の全体像を頭に描くことができ、業務理解が深まっていれば、あとは作業手順さえあれば誰でも同じように作業ができるはずです。
作業手順を作るのにはいくつかコツがあります。
・フォーマットを決めておく
作業手順書は、実際に作業している担当者が書くのが一番確実だと思います。ただ、担当者それぞれがいきなり作り始めると、体裁や粒度がバラバラになってしまいます。
そうならないためには、予め共通フォーマットを決めておく必要があります。
・作業項目
・作業の詳細
・実施者(1次処理者がやるのか、2次チェック者がやるのか)
・備考(その作業が必要となる背景説明等)
などの項目を設けたフォーマットを作っておき、それを利用して各担当者が普段行っている作業の手順を起こしていく、とすると良いかと思います。
また人の入り繰りがあっても、フォーマットが一定であれば見慣れているので理解しやすいというメリットもあります。
・粒度を統一しておく
さあ手順を書き出していこう、としたとき、人によってはその書き出す粒感がかなり異なってくるのではないでしょうか。
例えば、ある人は
「承認済の退職申請をダウンロードし、台帳に貼る」
とざっくり書くところを、別の人は
「社内ワークフロー>退職申請 で、ステータス“承認済”で検索。検索結果をダウンロードし○○フォルダに格納。ダウンロードファイルを開いてA列~X列をコピーし、台帳の最終行○セルを起点に値貼付」
などと詳細に書いたり。
ざっくり過ぎると担当者変更時に後任が困ることになりますが、あまり詳しすぎても冗長になる面があります。どの程度の粒感で書くべきかは、メンバーの業務経験やリテラシーによる部分もあると思いますので、「入社して3カ月程度、社内ワークフローの操作方法はある程度理解している新人が使用しても分かる手順書」などと利用者イメージを共有しておき、そのうえで書き出していくのがよいと思います。
・第三者の意見を聞く
作業手順ができたら、できれば他の人にそれを見ながら実際に作業をしてもらいましょう。一人で手順を書き起こしているときには気付きづらいですが、別の人の視点を通すと「ああ、この表現だと伝わらないのか……」という反省点が見つかります。
第三者から見て分かりづらい表現があればフィードバックしてもらい、修正・改善を繰り返すことで、より「誰が見ても同じように作業できるマニュアル」が完成します。
■マニュアルを作ったあとは・・・
ようやくマニュアルができました。せっかく作ったマニュアルですが、そのまま放置しておくとすぐに使われなくなったり、内容が古くなったりするのが世の常です。
「安定的でミスのない業務を推し進めていくために、マニュアルは必要不可欠」と共通認識を持ち、「文化」として浸透させることが大切です。
・一か所にまとめる
マニュアルをそれぞれの作業フォルダに分散して格納したり、個人のフォルダに置いたりしてしまっては、たとえば担当者が変わったときにその所在が分からず、せっかく労力をかけて作ったマニュアルが活用されないという悲しい事態が起きてしまいます。マニュアルを置く場所に一定のルールを設けることも重要です。
・メンテナンスする
法改正や制度改定により要件が変わった場合、都度メンテナンスしていくことが大切です。
そのためには、定期的に「マニュアルメンテナンスの時間」を設け、見直していくのも有効と思います。
■おわりに
長くなったので、お伝えしたかったことをまとめます。
・人事労務の仕事を安定的にミスなく処理を行うには、マニュアルが有効。
・マニュアルにおいて、作業手順以上に重要なのは「概要説明」。業務の全体像や目的を把握することで正しく理解ができ、ミス防止につながる。
・業務の概要をマニュアル化するには、①全部出す・②分ける・③しまう、というステップを踏むとやりやすい。
・マニュアルに業務がきちんと定義されていることで、皆が同じように理解し、作業できる状態になる。また、稼働計画が立てやすくなりリソース配分も検討しやすい状態になる。
業務の属人化や品質維持に問題意識をお持ちの方は、ぜひここまでの説明を応用して業務を整理し、マニュアルを作ってみてください!