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恩師と一緒そして区役所で過ごす休日
これから高校時代の恩師と昼食をご一緒する事が出来る。恩師からのお誘いである。待ち合わせの時間迄、あと八分の所で鍵を閉めて外に出た。
私が、家の前を右折して、更にまた右折して二秒経つと、恩師のお姿が目に飛び込んで来た。今までと変わりは無く、接し易く温もりが伝わる笑顔で迎えて下さった。お互いに挨拶が済むと、恩師は御土産を下さり、家に置いて来る様に仰った。
中身は何か、恐らく菓子だろうなと思いながら、急足で家に戻り御土産を置いた。
恩師と私は地下鉄を一駅乗り、中華料理店に入った。店は恩師にお任せという事である。
「真治君そっちは、仕事で変わり無いかい?」
席に着いてから私にこう尋ねられた。
「少し前にトラブルに出会しましたが、今は特に問題は無いです。 配置が変わったお陰で。」
「そうかい。それなら良かったよ。私の方は漸く仕事関係の本の原稿作りが済んだんだ。
慢性的に腰と膝が痛くて、だけど歩かないと、益々悪化するんだ。」
恩師は、さも辛そうな表情を浮かべながら仰った。
恩師と私が出会ったのは、十八年前の四月。恩師は非常勤講師として毎週木曜日に、私が通う高校にご指導されにお見えになった。
恩師と私には、共通の関心事、興味、趣味、価値観を超越した、何か強く深く結び付くものが宿っているのかもしれない…! 波長が合うという言い方では、浅くて軽いだろう。
実は、趣味の話をして盛り上がった事は無い、関心事で一致した事も無い…。
ただ、確かなのは、私の様子を恩師は絶えず気にかけて、見守って下さる事である。
「真治君、以前より沢山食べる様になったね。健康的で私は安心したよ。」
私達が入ったのはバイキングの店で、私はチャーハン、唐揚げ、餃子、焼そば、麻婆豆腐を食していた。
「最近力仕事をする部署に回されているから、食欲が高まったかもしれないです。」
恩師の嬉しそうな表情で、こちらも微笑で返したくなった。この様にちょっとした会話でも楽しめる事も、現在まで十八年関係が続いた秘密かもしれないだろう。
「お腹一杯になったね。そろそろ店を出ようか。」
「はい。先生有難う御座いました。ご馳走様です。」
外は陽光の眩しく光る晴天であるが、身体にぶつかって来る寒い風が絶えずに吹いていた。それでも、恩師と二人でいれるから、忘れる事が出来た。
「私は、このバス停から帰るから。今度は違う店で食事しようね。またね。」
「はい。今日は有難う御座いました。これからも宜しくお願いします。」
私は、地下鉄の駅まで、何度も振り返っては恩師に向かって手を振り、恩師も私に返して下さった。
恩師との昼食の後、私は帰らずいつもの様に、高い所から外を眺める為に、地下鉄を使った。また、昼間なのに家に戻るのは勿体無い気がした。
私の足を向けた練馬区役所は、ホテルと間違えそうな外観や体型で聳え立ち、窓硝子が鏡の様に、向かいの白い高層マンションを映し出していた。
二十階の展望ロビーから見渡した景色は、他の高所からの眺めと同じ様に、建物や樹木や車や人が、ぎっしりと犇いている有様だが、太陽が西寄りになった夕暮れが近い街並みは、私に過ぎ去った時を偲ばせる想いを湧かせて来る…。
あまり前向きでないかもしれないが、これはこれで落ち着いて、ゆっくり出来ると思う。明日から空が真っ暗な時に起きて仕事だから、今の内に緩り長閑に過ごしたいと思う。 完