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【読了】『旅人 ある物理学者の回想』湯川秀樹 

ノーベル賞を受賞した日本人はどんな子供だったのか

湯川秀樹先生、といえば日本人で初めてノーベル賞を受賞されたすごい人!というイメージです。
子供の頃、先生の伝記を読んだ記憶はあり、とにかくとても優秀で日本の誇りであるとずっと思ってきました。

これは、そんな湯川先生が書かれた、ご自身の子供時代から青年期のことについての本です。
先生のお父様は学者で、かなり裕福で恵まれた家庭環境にあったようです。
京都の大きな邸宅に住み、たくさんの本(お父様の蔵書など)に囲まれ、知的な刺激が身近にあって、学ぶことは自然に身についたんでしょう。

漢籍の素読

当時、おそらく普通に行われていたことでしょうが、先生も5〜6歳になると、お祖父様に漢籍の素読を指南されることになりました。毎晩30分から1時間の漢籍の素読!今、自分の子供にこのような教育をする家庭はあまりないでしょう。

しかし私の場合は、意味も分らずに入って行った漢籍が、大きな収穫をもたらしている。その後、大人の書物をよみ出す時に、文字に対する抵抗は全くなかった。
漢字に慣れていたからであろう。慣れるということは怖ろしいことだ。ただ、祖父の声につれて復唱するだけで、知らずしらず漢字に親しみ、その後の読書を容易にしてくれたのは事実である。

『旅人 ある物理学者の回想』湯川秀樹著(角川ソフィア文庫)

意味も分からずに、がポイントですね。さらに量をこなすことによる慣れ。
漢籍の素読には、このような効果が期待できるんですね。
昔の人はこうやって知識や教養の土台を築いていたのでしょう。

ものごとに熱中する性質

湯川先生は、小さい頃のご自分のm性質についても触れています。

けれども物事に熱中する性質は、小さい時から強かったようだ。  積み木を与えられると、一人でいつまでも遊んでいた。植込みや灯籠のある庭に面して、日当りのいい縁側があった。その縁側で、何十という木片を積んだり重ねた。家が生れた。門が作られた。

『旅人 ある物理学者の回想』湯川秀樹著(角川ソフィア文庫)

与えられた小さな世界の中だけで生きることを、当然と思っていた。こういう状態は、子供の心の中に、逆に豊かな空想力やロマンチックな気質を植えつけることもあるらしい。

『旅人 ある物理学者の回想』湯川秀樹著(角川ソフィア文庫)

今で言うと、レゴプロックで夢中になって何かを作っている子どもみたいです。こだわりが強いタイプなんでしょうか。
作業が緻密で手先が器用な様子が伺えます。
辛抱強く自分の世界を作り上げる性格が、後の研究に対する態度に繋がっていったんだと思います。

読書家

湯川先生は、よく本を読む子どもでした。文字通り、貪るようにです。
坪内逍遥、尾崎紅葉、夏目漱石、鈴木三重吉など著名作家をはじめ、里見八犬伝、三国志、水滸伝、近松や西鶴、グリム、アンデルセンなどの外国文学の翻訳もの、少年雑誌、などまぁ、よくもこんなにと思うほどの読書量なのです。

少年の意欲は、それが固定されていないだけに、何ものに対しても敏感なのだ。間近くあるものは、なんでも自分のものにしてしまいたい。吸収するだけのもののを、吸収する。それが次第に整理されて、その人の向うべき方向に、次第にまとまって来る。

『旅人 ある物理学者の回想』湯川秀樹著(角川ソフィア文庫)

読んだものをスポンジのようにどんどん吸収していく様が見えるようです。
高校、大学と進むにつれて、英語やドイツ語の原書、哲学書などさらに本の世界が広がります。

大学での研究生活に入られてからの、ご専門の物理学関連の記述はちょっと私の目が滑りましたが、何を研究していくのか、色々と悩まれたことも初めて知りました。

私は、湯川秀樹先生がどんな本を読んでこられたのかに興味があって読みはじめたのですが、先生がご自身の人生を振り返り、自分の言葉で語ってくださるお話は大変興味深いものでした。
その秀でた知識の土台には、子どものころ読んだたくさんの本があることを知りました。
何かに「夢中」になることは、自分を作っていくことなんだと教えていただきました。

この本は、どなたが読んでもどこかしら惹かれる箇所に出会えると思います。
特に子育て中のお父様お母様、学生、教育関係の方におすすめです。

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