#552 「Z社事件」名古屋地裁
2021年12月15日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第552号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【Z社事件・名古屋地裁中間判決】(2021年1月14日)
▽ <主な争点>
在職中の競業行為等が自由競争の範囲を逸脱するかなど
1.事件の概要は?
本件は、Z社が、同社の幹部従業員であったXが在職中に別会社(Y社)を設立し、平成31年2月1日には主要な取引先3社をしてZ社との契約関係を終了させると同時に部下従業員とともに一斉に同社に退職届を提出した上で、Y社で競業行為に及んだことは労働契約上の誠実義務違反という債務不履行または不法行為に該当すると主張して、Xに対し、損害賠償として、当該取引先3社との取引から得られたはずの逸失利益9億円およびこれに対する遅延損害金の支払を求めたもの。
2.前提事実および事件の経過は?
<Z社およびXについて>
★ Z社は、Q社の海外事業部を前身として設立された、宇宙・航空関連機器および電子・通信機器の輸出入・販売ならびに各種産業機械・周辺機器の販売等を営む会社であり、米国の軍需メーカーと提携して、その軍事システムや装備品を防衛省や軍需企業に納入することを主な事業内容としている。
★ Xは、平成22年11月にQ社との間で労働契約を締結し、Z社の設立に伴って、31年2月当時同社の名古屋支店長として稼働していた者である。また、Xは同社の株主(22%)でもあった。なお、名古屋支店にはXのほかに従業員としてEおよびFが稼働していた。
★ 名古屋支店は29年当時、Z社全体の売上の約75%を占める14億5000万円を売り上げていた。
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<Z社がXに対し、損害賠償請求する前の経緯等について>
▼ XはZ社在職中である30年12月、名古屋市内を本店所在地とするY社を設立して、その代表取締役に就任した。同社の目的は宇宙・航空関連機器の販売、販売代理および輸出入貿易業務ならびに貿易に関するコンサルティングなどであり、Z社の目的と重複していた。
▼ Xは同月、警察署に対し、Z社のA社長、B専務およびC常務の3名を電磁的公正証書原本不実記録および不実電磁的公正証書原本供用罪(刑法157条、158条)で刑事告発した。
★ 刑事告発に係る被疑事実の要旨は、A社長がB専務およびC常務と共謀の上、同年9月、Z社の株式譲渡には取締役会の承認が必要であるとする定款変更の株主総会決議があった旨の虚偽の株式会社変更登記申請書等を登記官吏に対して提出し、商業登記簿ファイルにその旨の不実の記録をさせた上、法務局にこれを備え付けさせて公正証書の原本としての用に供した、というものである(以下「本件被疑事実」という)。
▼ Z社を日本における独占的販売代理店として名古屋支店と取引のあった米国の軍需メーカーには、FA社、EW社およびAP社(以下「提携先3社」という)があったところ、31年2月1日、3社はいずれもA社長に対し、契約解除通知をメールで送付した。
▼ 同日、Xとその部下であるEおよびFはいずれもA社長に対し、同月15日まで有給休暇を取得した上で、同日付で退職する旨の退職届をメールで送付した。
▼ 東京支店の従業員が同日夜に名古屋支店に赴くと、Xに貸与したパソコンがなく、机の中も空になっていたが、Xは同月18日、Z社に対し、データが削除されて復旧不可能に初期化された貸与パソコン、社用車のカギおよび貸与Wi-fi端末等を送付した。
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