#516 「品川労基署長事件」東京地裁(再掲)
2020年7月22日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第516号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【品川労基署長(以下、S労基署長)事件・東京地裁判決】(2019年8月19日)
▽ <主な争点>
違法行為の強要や上司の暴言等を理由とする業務災害など
1.事件の概要は?
本件は、Xがその勤務先であったA社において、上司からサービス残業や独占禁止法に違反する違法行為を強要されたり、パワーハラスメントを受けたりしたこと等によって精神障害を発病したとして、S労基署長に対して2回にわたり労災保険法の規定による休業補償給付の請求をしたところ、同労基署長がいずれの請求についても休業補償給付を支給しない旨の各処分をしたことから、当該各処分が違法である旨を主張して、その取消しを求めたもの。
2.前提事実および事件の経過は?
<A社およびXについて>
★ A社は、防振、免震、制振、防音の装置等の設計および施工等を目的とする会社である。
★ Xは、平成24年4月、A社との間で労働契約を締結し、東京営業所土木グループにおいて、主にトンネル・シールド工事等から発生する騒音を防ぐ防音ハウスや防音壁の見積り等の営業業務を担当していた者である。
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<Xの本件疾病による休職、自然退職等について>
▼ Xは25年10月、クリニックを受診し、抑うつ状態・適応障害(以下「本件疾病」という)と診断された。
▼ Xは同年10月18日以降、連続して休暇を取得するようになり、26年1月31日から休職し、同年7月30日、休職期間満了によりA社を自然退職した。
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<本件不支給処分、本件訴えに至る経緯等について>
[本件不支給処分1]
▼ Xは26年11月、上司からサービス残業や独占禁止法に違反する違法行為を強要されたり、パワーハラスメントを受けたりしたこと等によって抑うつ状態・適応障害を発病し休業に至ったものであるとして、S労基署長に対し、労災保険法の規定による休業補償給付の請求をした(対象期間は25年10月18日~26年11月7日)。
▼ S労基署長は、Xは25年9月頃に本件疾病を発病したとの判断を前提とし、Xの精神障害について、「発病前おおむね6ヵ月の間に客観的に当該精神障害を発病させるおそれのある業務による強い心理的負荷があったとは認められず、労働基準法施行規則別表1の2第9号に定める『人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害又はこれに付随する疾患』とは認められない」として、27年5月、上記請求に係る休業補償給付を支給しない旨の処分(以下「本件不支給処分1」という)をした。
▼ Xは同年7月、東京労働者災害補償保険審査官に対し、本件不支給処分1について労災保険法第38条第1項の規定に基づく審査請求をしたところ、同審査官は28年3月、当該審査請求を棄却する旨の決定をした。
▼ Xは同年5月、労働保険審査会に対し、同項の規定に基づく再審査請求をしたところ、同審査会は29年2月、当該再審査請求を棄却する旨の裁決をした。
[本件不支給処分2]
▼ Xは業務上の事由により抑うつ状態を発病し、休業するに至ったとして、28年11月、S労基署長に対し、労災保険法の規定による休業補償給付の請求をした(対象期間は26年11月8日~27年3月22日)。
▼ 同年11月、同労基署長は上記と同様の理由により上記請求に係る休業補償給付を支給しない旨の処分(以下「本件不支給処分2」という)をした。
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