見出し画像

#564 「エコシステム事件」東京地裁(再掲)

2022年6月8日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第564号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【エコシステム(以下、E社)事件・東京地裁判決】(2021年8月3日)

▽ <主な争点>
健康保険等の資格喪失処分取消し、過去の法律関係の確認の利益など

1.事件の概要は?

本件は、E社との間の雇用契約に基づき就労していたXが同社に対し、配転命令が無効であるとして、配転命令前の勤務形態による雇用契約上の地位を有していたことの確認を求めるとともに、E社がXの傷病手当金の申請手続に協力せず、また、被保険者資格の得失を適正に届け出なかったことが不法行為を構成するとして、損害賠償金307万1030円およびこれに対する遅延損害金の支払を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<E社およびXについて>

★ E社は、一般乗用旅客自動車運送事業等を業とする会社である。

★ Xは、2017年5月、E社との間で、「雇用期間:定めなし、賃金:完全歩合給、所定労働時間:午前7時から午後6時まで、休日:4週間に5日」という内容の雇用契約を締結し、A営業所のタクシー乗務員として勤務を始めた者である。なお、上記の所定労働時間および休日による勤務を「定常日勤昼勤務」という。


<本件配転命令に伴う被保険者資格の喪失に至った経緯等について>

▼ Xは2017年7月19日、業務上の交通事故により、頸椎捻挫および腰椎打撲の傷害を負い、同日から2018年2月28日まで休業した。その間、Xは労災保険法に基づく休業補償給付等を受給していた。

▼ Xは業務外の腰痛により、2018年3月1日以降休業し、同日から5月31日までの間、健康保険法に基づく傷病手当金を受給していた。

★ その間に、E社が2017年10月19日付でXに発令した勤務形態等を変更する配転命令(以下「本件配転命令」という)によって、Xは定常日勤昼勤務から定時制昼勤務(月所定勤務日数15日以下)となり、Xの所定勤務日数は大幅に削減されることとなった。

▼ 本件配転命令によりXが2017年11月1日に健康保険および厚生年金保険の被保険者の資格を喪失したとして、E社は2018年8月7日に日本年金機構に対し、健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届を提出した。

▼ 日本年金機構は同年8月22日付でE社に対し、Xが2017年11月1日に健康保険および厚生年金保険の被保険者の資格を喪失したことを確認する旨の処分(以下「本件資格喪失確認処分」という)をした。


<本件労働審判、調停の成立等について>

▼ Xは2018年10月12日付でE社に不当に解雇されたとして、雇用契約上の地位にあることの確認を求めるとともに、同社が一定の時期から傷病手当金の申請手続きを行わなかったこと等が不法行為に該当するとして、労働審判手続を申し立てた(以下「本件労働審判」という)。

▼ 同年11月27日の本件労働審判期日において、「XとE社との雇用契約が現在に至るまで継続していることを相互に確認する」等を内容とする調停(以下「本件調停」という)が成立した。

ここから先は

2,914字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?