見出し画像

#197 「中山書店事件」東京地裁

2007年12月12日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第197号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【中山書店(以下、N社)事件・東京地裁判決】(2007年3月26日)

▽ <主な争点>
労働者の同意なくされた年俸額の減額の効力

1.事件の概要は?

本件は、N社に雇用されているAら3名が、Aらの同意なく、年俸額を減額することは許されないなどと主張して、すでに合意されている年俸額と実際の支払額との差額を請求するとともに、すでに合意されている年俸額を基礎として算出された時間外手当と実際に支払われた時間外手当との差額をN社に対し、請求したもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<N社およびAら3名について>

★ N社は、出版等を業とする会社である。

★ Aは、昭和49年5月、N社の経理業務を請け負っていたN計数センターに期間の定めなく雇用されたが、関連会社の整理統合などにより、平成6年1月、N社に移籍した。

★ Bは、平成5年10月から派遣社員として期間6ヵ月の契約で、N社において編集業務に従事していたが、その後、有期契約による直接雇用を経て、13年3月、正社員として期間の定めなく雇用され、一貫して編集業務に従事している。

★ Cは、昭和42年3月、N社に入社し、関連会社3社を経て、平成6年1月からN社に在籍するようになった。

--------------------------------------------------------------------------

<N社の就業規則、賃金制度等について>

★ 平成14年8月改正前の旧就業規則、給与規程、賞与規程において定められていた賃金制度では、賃金は月給制とされ、賞与は原則として年2回、6月と12月に支給されていた。

★ 就業規則において、社員の職制は、主任、次長、部長とされているところ、N社はAらを含む社員に対して一般管理職という肩書きを付与するようになったが、この一般管理職はそれまでどおり時間管理をされ、管理の対象となる部下もいなかった。また、同社の社員数は45~50名程度であり、このうち部長、次長、主任および一般管理職に該当しない社員は数名程度しかいなかった。

▼ N社は、13年2月頃から、一般管理職に対して新たに年俸制を導入すること、就業規則および給与規程に定める賃金制度とは別に、個別に年俸契約にすることを表明した。その後、就業規則および給与規程の改正は行われないまま、同年4月頃までに個別面談が行われ、多くのN社正社員が賃金の年俸制(以下「本件年俸制」という)に同意した。

▼ 14年8月、N社は旧就業規則、給与規程、賞与規程を改正し、新給与規程に次のとおりの規定を設けた。

第26条 管理職は別に定める様式により年俸制とする。
(1)期 間・・・9月1日から翌年8月31日
(2)年俸月額を16等分にし、次のように支給する。
   月例給与として、1/16×12回
   賞与として、  2/16×2回
(3)年俸のうち、10%は時間外手当相当分とみなす。
(4)労使双方面談のうえ、原則として7月中に次年度の年俸を決定する。

--------------------------------------------------------------------------

<AとN社との間の年俸額に関する合意・協議等について>

▼ AとN社は、14年7月、同年9月から15年8月までの間の年俸額を820万円(夏季および年末各2ヵ月ずつの一時金を含む)とすることに合意した。

▼ 15年6月、N社はAに対し、同年9月から16年8月までの間の賃金について、年俸額を656万円(前期比164万円減)とする提案をしたが、Aはこれに同意せず、両者間で協議が続けられている。

▼ 16年7月、N社はAに対し、同年9月から17年8月までの間の賃金について、年俸額を686万円(前期比30万円増)とする提案をしたが、Aはこれに同意せず、両者間で協議が続けられている。

--------------------------------------------------------------------------

<BとN社との間の年俸額に関する合意・協議等について>

▼ 14年2月、BとN社は550万円(月例給与の16ヵ月分)を年俸額とすること、他の社員と同様に、毎年7月から8月に年俸額決定のための面談を行うことを合意した。

▼ 15年7月、N社はBに対し、同年9月から16年8月までの間の賃金について、年俸額を520万円(前期比30万円減)とする提案をしたが、Bはこれに同意せず、両者間で協議が続けられている。

▼ 16年7月、N社はBに対し、同年9月から17年8月までの間の賃金について、年俸額を540万円(前期比20万円増)とする提案をしたが、Bはこれに同意せず、両者間で協議が続けられている。

--------------------------------------------------------------------------

<CとN社との間の年俸額に関する合意・協議等について>

▼ CとN社は、13年4月、同月から14年3月までの間の年俸額を702万円(夏季および年末各2ヵ月ずつの一時金を含む)とすることに合意した。

▼ 14年11月、N社はCに対し、同年12月から15年11月までの間の賃金について、年俸額を580万円とすることに合意した。

▼ 15年7月、N社はCに対し、同年9月から16年8月までの間の賃金について、年俸額を580万円とする提案をしたが、Cはこれに同意せず、両者間で協議が続けられている。

ここから先は

2,749字
この記事のみ ¥ 100

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?