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#630 「A学園事件」京都地裁

2025年1月22日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第630号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【A学園事件・京都地裁判決】(2023年5月19日)

▽ <主な争点>
学生へのアンケート結果等により行われた非常勤講師への雇止めなど

1.事件の概要は?

本件は、2016年4月にA学園との間で大学の英語科目を担当する非常勤講師としての期間1年間の有期労働契約(本件労働契約)を締結し、その後、2017年4月から2020年4月まで4回にわたって契約更新を重ねてきたXが、勤務状況に全く問題がないにもかかわらず、A学園が2020年12月に次年度は契約を更新しないとの雇止め(本件雇止め)をしたのは労働契約法19条に違反し無効であるとして、労働契約に基づき、同学園に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認ならびに、2021年4月から本判決確定に至るまで毎月25日かぎり15万6000円の賃金およびこれに対する遅延損害金の支払を求めるとともに、本件雇止めは法律で保障された無期労働契約への転換権の行使を阻止するという不当な動機に基づくものであるとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき、A学園に対し、慰謝料100万円およびこれに対する遅延損害金の支払を求めたもの。

これに対し、A学園は、Xが本件労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由がない、本件労働契約が終了することについて客観的合理性および社会的相当性が存する、本件雇止めの理由に何ら問題はなく、まして、無期の労働契約への転換権の行使を阻止するなどという動機に基づくものでもないなどと争っている。

2.前提事実および事件の経過は?

<A学園およびXについて>

★ A学園は、B大学(以下「本件大学」という)やC短期大学などを運営する学校法人である。

★ Xは、2016年4月、A学園との間で契約期間を1年と定め、本件大学において英語コミュニケーションIないしIVという科目を担当する非常勤講師として勤務する労働契約を締結した者である。

★ XとA学園は2017年4月、2018年4月、2019年4月および2020年4月にも契約を更新してきた(以下、2016年4月に締結された契約も併せて「本件労働契約」という)。


<本件留意点ペーパーの内容、本件雇止めの理由等について>

★ 本件大学では英語科教員から英語担当の非常勤講師に対し、2020年3月23日付の「本学必修英語の授業について(お願いごとと連絡)」と題する資料(以下「本件留意点ペーパー」という)が配布されており、そこには「以下のような点にご留意の上、引き続き質の高い教育の実践をよろしくお願いいたします」として、概要以下の記載がある。

[授業について]
教科書を中心に授業をしてください。(略)教科書はほとんどやらずにプリントを中心に授業をされるのは控えてください。
クラスのレベルに応じ、(略)学生のレベルに合わせた授業をお願いします。
本学の学生の多くは、入試で英語を受けずに入学してきております。また、英語が苦手な学生の数も毎年増加しております。そのため、特にレベルの低いクラスでは、高度な英語の授業展開はお控えください。やさしめの英語でお願いいたします。

[成績について]
学生間の英語力の差が著しくなると、特に「秀」「優」に関する基準について学生から疑義が出やすいので、クラスのレベルによって、次のような目安(略)でお願いします。
文部科学省より「成績の厳格な評価」が要請されておりますので、ある程度厳格に成績を評価してください。ただし、クラスのほぼ全員が不合格になるといった授業は逆に教育内容を疑われますので、明確な基準を示し、それに達しない学生は不合格になる可能性があることを繰り返し授業中に告知するなどして、一定の教育的指導を必ず入れた上で、厳格な成績評価を行ってください。

▼ 2020年12月、本件大学事務局の教務部長および教務課長がXと面談した際、教務部長はXに対し次年度(2021年度)の契約更新はしない旨(以下「本件雇止め」という)を伝えた。

★ なお、本件雇止めの理由として、A学園は「学生に対して実施している授業アンケート(以下「本件アンケート」という)の中で、教員評価の設問におけるXへの評価結果がいずれの項目においても、他の教員と比べて大きく下回り、かつ2019年度春・秋学期と2020年度春学期と比べても大きく悪化していること、また、英語の授業の2017年度から2020年度までの不合格率の平均が、Xを除く他の非常勤講師が、概ね0.11~1.34%であったのに対し、Xは6.81~19.27%と高水準にあり、本件大学の学生のレベルを踏まえた上で、適切に英語の授業を実施していないことが明らかであること」を挙げている。

3.非常勤講師Xの主な言い分は?

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