#523 「博報堂事件」福岡地裁(再々掲)
2020年10月28日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第523号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【博報堂(以下、H社)事件・福岡地裁判決】(2020年3月17日)
▽ <主な争点>
有期雇用契約における5年の更新上限年数の設定に基づく雇止めなど
1.事件の概要は?
本件は、XがH社との間で昭和63年4月から1年ごとの有期雇用契約を締結し、これを29回にわたって更新、継続してきたところ、X・H社間の有期雇用契約は労働契約法19条1号または2号に該当し、同社がXに対し、平成30年3月31日の雇用期間満了をもって雇止め(以下「本件雇止め」という)したことは客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないから、従前の有期雇用契約が更新によって継続している旨主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、本件雇止め後の賃金として、30年4月から毎月25万円およびこれらに対する遅延損害金の支払、本件雇止め後の賞与として、30年6月から年2回各25万円ならびにこれらに対する遅延損害金の支払をそれぞれ求めたもの。
2.前提事実および事件の経過は?
<H社およびXについて>
★ H社は、広告(新聞、雑誌、ラジオ、テレビその他の広告)、屋外広告物等の設計監理、施工等を目的として設立された会社であり、九州支社を置いている。
★ Xは、昭和63年4月、H社の九州支社に入社して以降、1年ごとの有期雇用契約(以下「本件雇用契約」という)を締結し、これを29回にわたって更新、継続してきた者である。
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<最長5年ルール、本件雇止めに至った経緯等について>
★ Xは平成元年より九州支社の計画管理部において経理業務を中心に従事していた。入社してから、平成25年までの間は毎年4月1日前後にH社から契約書を渡され、それに署名押印をするだけで本件雇用契約が更新されていた。
▼ H社は20年4月、契約社員就業規則14条を改訂し、「会社は雇用契約を更新するにあたり、更新により雇用契約期間が最初の雇用契約開始から通算して5年を超える場合、原則として雇用契約を更新しない」旨の条項(以下「最長5年ルール」という)を設けた。
★ H社は最長5年ルールが盛り込まれた時点において、すでに5年を超えて雇用されていた従業員については同ルールを適用しないこととしていたため、Xはその適用対象外になっており、ルールについて説明をしていなかった。
▼ 平成24年の労働契約法の改正(以下「24年改正法」という)により、同一の使用者との間で有期労働契約が更新されて通算契約期間が5年を超える労働者が期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者がその申込みを承諾したものとみなされ(この申込みを行う権利を以下「無期転換申込権」という)、期間の定めのない労働契約が成立することになった(労働契約法18条)。同改正法は25年4月1日に施行された。
▼ 24年改正法の施行を受け、H社はXを含む最長5年ルールの適用除外になっていた従業員に対しても、25年4月起算点として、最長5年の上限を設ける取扱いをすることにした。
▼ Xは最長5年ルールの適用について面談で説明を受けた上で、25年4月1日付で「契約社員就業規則第14条第2項に基づき、継続して契約を更新した場合であっても、30年3月31日以降は契約を更新しないものとする」旨が記載された雇用契約書をH社と取り交わし、26年ないし28年の更新時にも同内容の契約書に署名押印した。
▼ 25年5月、XはH社が作成した「事務職契約社員の評価について」と題する書面を交付された。同書面には「6年目以降の契約については、本人が希望し、かつそれまでの間(最低3年間)の業務実績により会社が適当と判断した場合に更新する」、「6年目以降の契約については、それまでの間(最低3年間)の業務実績に基づいて更新の有無を判断する」旨が記載されていた。このような評価方法の導入を受けて、業務遂行の目指すべき方向性を所属長と共有するための目標管理シートが作成されるようになった。
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