#362 「横浜南労働基準監督署長事件」東京地裁(再掲)
2014年6月4日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第362号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【横浜南労働基準監督署長(以下、Y労基署長)事件・東京地裁判決】(2011年11月7日)
▽ <主な争点>
労災保険法上の労働者にあたるか、療養補償給付等の不支給処分など
1.事件の概要は?
本件は、Xが建物の壁や天井にウレタン等を吹き付ける断熱工事(本件工事)に従事中、転落して負傷したことが業務に起因したものであるとして、Y労基署長に対し、労働者災害補償保険法に基づき療養補償給付および休業補償給付の申請をしたところ、労災保険法上の労働者ではないとの理由で不支給処分(本件各処分)を受けたため、その取消しを求めたもの。
XはW社の代表取締役として、断熱工事を主な業務とする建築請負業を営んでいるところ、本件工事はP社を元請けとし、W社は四次下請としてT社(三次請負)から本件工事を請け負っていた。
2.前提事実および事件の経過は?
<X、W社について>
★ X(昭和31年生)は、平成4年頃にW社(埼玉県所在)を設立し、その代表取締役として、断熱工事を主な業務とする建築請負業を営んでいる者である。
★ W社では、Xが仕事の諾否や金額の調整を行い、同社の従業員がグループに分かれ仕事に従事しており、平成19年6月以降もXのW社での仕事内容に変化はなかった。なお、Xは同社から月額約38万円を受け取っていた。
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<本件災害、本件工事等について>
▼ Xは19年7月23日、埼玉県内のマンション新築工事現場(以下「本件現場」という)において、ウレタン断熱材を吹付け作業中、階段2階開口部から1階床に転落し、中心性頸椎損傷等の傷害を負った(以下「本件災害」という)。
★ 本件現場での断熱材吹付工事(以下「本件工事」という)は、P社を元請けとし、一次下請がK社、二次下請がM社、三次下請がT社であり、W社は四次下請として、T社から本件工事を請け負っていた。
★ XとT社の代表取締役Aは知り合いであり、本件災害発生の約10年前からW社とT社とは工事の請負を相互に融通し合う関係にあった。
★ W社がT社に請負代金を請求する場合、月ごとに請求書を出すことになっていたが、W社の請負代金債権はT社から負っている500万円近くの借入債務と相殺され、実際の入金はなかった。T社はW社に対する支払いを出金伝票で管理していた。
★ 19年6月頃、XはAに対し、W社の資金繰りが悪化しXの収入が見込めなくなったことから、Xを個人としてT社に雇ってほしいと申し入れ、同年7月、Aはこれを了承していた。XとAはT社がXを日雇いのような形態で雇うこと、Xに1日2万円を支払うことを口頭で合意した。なお、支払金額以外の条件については特段合意していなかった。
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<本件各処分に至った経緯等について>
▼ Xは自身がT社の労働者であり、本件災害の負傷は業務上の事由によるものであるとして、19年8月、川口労働基準監督署に対し、労災保険法に基づく療養の給付を請求し、同労基署で支給決定がなされたが、その後、本件工事の元請事業場はP社であり、Xは四次下請事業場の代表取締役であることが判明し、20年2月、同請求は川口労基署からP社の住所地を管轄するY労基署に移送された。
▼ Xは同年4月、Y労基署長に対し、労災保険法に基づく休業補償給付を請求した。なお。本件災害に関し、T社は19年8月、Xが同社の労働者であるとして、労働者死傷病報告書を所沢労働基準監督署に提出し、同報告書は20年2月、Y労基署に移送された。
▼ P社は同年3月、Xに対し、Xは事業者であるため、同社が事業主として加入している労災保険の対象にはならず、労災保険給付請求の証明ができない旨通知し、Y労基署に対し、同様の報告をした。
▼ Y労基署はXに対して、療養補償給付については20年8月25日付で、休業補償給付については同月27日付で、いずれも支給しない旨の処分(以下「本件各処分」という)をした。
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