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#56 「シグナ傷害火災保険事件」東京地裁(再掲)

2004年9月29日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第56号で取り上げた労働判例を紹介します。


■用語の解説

競業避止義務」とは、労働者が使用者の利益に反するような競業(営業上の争いをすること)をしないという義務。たとえば従業員が在職中に知り得ることとなった技術や情報をもって、退職後に元使用者の事業と競合するような事業を始めたり、同業他社に再就職したりするような場合に問題となる。

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■ 【シグナ傷害火災保険(以下、S社)事件・東京地裁判決】(1999年1月22日)

▽ <主な争点>
競業避止契約の成否

1.事件の概要は?

本件は、Hが退職する際、S社との間でした「期間を3年、S社と競業関係に立つ損害保険会社に再就職しないことを条件として、S社がHに対し、1600万円の補償金を支払う」旨の合意(以下「本件競業避止契約」という)に基づいて、HがS社に対し、その履行を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<S社およびHについて>

★ 日本においては当初アメリカ法人であるシグナインシュアランスカンパニー(以下、SIC)日本支店が損害保険業務等の営業を行っていたところ、平成8年4月、SIC日本支店が組織変更され、S社が日本法人として設立された。

★ Hは、昭和38年6月、後にSICに吸収合併されたAFIAに入社して以来、SICおよびS社に勤務してきた者である。その間、Hは平成4年1月、人事本部長に任命され、8年4月にはS社の理事に就任するとともに人事部長を兼任し、従業員の採用、退職、人事配置等の人事全般に従事してきており、8年7月にNがS社の代表者に就任して以降、会社の組織上、Nに直属することになった。

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<Hの退職までの経緯等について>

▼ HはN代表の人員削減方針に疑問を感じたことから、S社を退職することを考え始め、同年11月、同社の副社長であったMに対し、退職の意思を表明するとともに規定の退職金等のほかに年収分程度の特別退職金の支払いを受けることができるかどうかについて打診した。

▼ それに対し、M副社長は「外資系の損害保険会社に再就職しない条件なら可能と考えられること、NにHの打診について話しておくこと」を回答した。M副社長からHの希望を聞いたNは、S社においては異例なことではあったが、競業避止義務を条件としてHに対して補償金を支払うことに同意した。

▼ HがNの部屋に挨拶のため赴いた際、NはHに対し、「期間を3年としてHがS社と競業関係に立つ損害保険会社に再就職しないなら、Hの年収に相当する1600万円の補償金を支払う」旨の提案をした。

▼ それに対し、Hは「3年は長すぎる、再就職を避けるべき範囲を外資系の損害保険会社に限定して欲しい」といった意見を述べたが、Nは「S社の提案は標準的な契約であり、したがって、3年未満に期間を限定することはしないし、また国内外すべての企業を対象とする」旨回答した。Hは検討する時間が欲しいと述べて、そのときは即答を避けた。

▼ その後、HはS社から退職日は8年12月31日とするが、出社は同年11月30日までとすることについて了解を得た。また、Hは同月15日頃、M副社長からの催促に応じてS社に対し、退職届を提出した。その退職届には「退職後3年間を限度に競業行為を行う同業他社に再就職しないことを条件とする貴殿の提案を受け入れます。万一、期間内に該当する企業への再就職の機会があったときは、事前に貴殿に相談の上、承認を得ることを条件とします」と付記した。

▼ HがS社と競業関係に立つL社に入社するのではないかとの噂がS社内で流れていたことから、同年11月21日頃、M副社長はHに対し、「再就職を避けるべき会社をL社に限定し、補償金を増額することをNに提案する」旨述べた。

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