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#62 「ノース・ウエスト航空事件」千葉地裁(再掲)

2004年11月10日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第62号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【ノース・ウエスト航空(以下、NW社)事件・千葉地裁判決】(1993年9月24日)

▽ <主な争点>
勤務中の飲酒行為による解雇

1.事件の概要は?

本件は、NW社が整備士であるHに対し、勤務中に旅客機内でシャンパンを飲んだことなどを理由に長期間の自宅待機を命令し、その後解雇した。これに対して、Hが地位確認、未払賃金および解雇に至るまでの同社の措置は不法行為を構成するとして慰謝料など損害賠償を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<Hについて>

▼ Hは昭和43年6月、NW社に整備士として雇用され、平成3年1月当時は上級整備士として勤務していた者である。同社にはNW社日本支社労働組合(以下「組合」という)があり、Hはその組合員である。

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<本件行為、本件解雇に至った経緯等について>

▼ 平成3年1月7日、成田空港内に駐機中のNW007便の出発直前、Hは喉の渇きを覚えていたことから、同機内のギャレー(調理場)内におかれていたグラスのうち、中身の色からしてジンジャーエール等の炭酸飲料と思えたグラスを手に取り、一回ごく少量をすすった(以下「本件行為」という)。

▼ Hはグラスの中身がアルコールを含んだ飲料であることに気づき、グラスをテーブルに置こうとした。そのとき、機内サービス主任のSがギャレーに入ってきた。SはHに「あなたは勤務中でしょう」と言った。Hが「はい」と答えると、Sは何を飲んでいるか分かっているのかという趣旨の質問をした。Hはアルコールを含んだ飲料であることに気づいていたので「はい」と答え、「どうもすみません」と詫び、機外に出たが、本件行為後も勤務時間終了まで整備作業を継続した。

▼ 同月10日頃、SからNW社の機内サービス本部長等に対し、Hが機内でシャンパンを飲んだ旨の報告が電子メールで送信された。同月14日、NW社の太平洋地区整備本部長BがHに対し、機内でシャンパンを飲んだかどうかを尋ね、Hから一口口にした旨の返事を受けて、一週間の出勤停止を口頭で命じた。

▼ 同月18日、NW社のI整備部長がHに対し、1月中の自宅待機を口頭で命じた(以下「本件自宅待機命令」という)。同月25日、IはHに対し、自主的に退職するか解雇されるかの選択しかない旨を告げた。2月になって、Iと人事本部長のTはそれぞれHに対し、任意退職を勧めた。

▼ 本件自宅待機命令はその後も継続されていたが、Hは同年8月11日から3日間、成田空港において就労した。

▼ NW社は3年8月16日付の書面により、Hを同月18日をもって通常解雇する旨の意思表示をし、上記書面は同日Hに到達した(以下「本件解雇」という)。

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<NW社の就業規則等の定めについて>

★ 本件解雇に関係するNW社の就業規則および労働協約の規定は次の通りである。

[就業規則]
第26条(懲戒)

A項 懲戒は下記の7種類とする。また情状によっては併科とすることがある。
 譴 責    減 給    降 職   
 出勤停止:七日(労働日)以内として、その期間中給与は支払わない。
 昇給延期または停止      解 雇    懲戒解雇

B項 次の事項に該当し、その情状が特に悪い場合には前項の6ないし7の懲戒処分がとられる。その他の場合には具体的な事情に応じ、前項の1ないし5の処分がとられる。
 (省略)
 賭博、飲酒、風紀紊乱等により職場規律をみだした場合
3~6(省略)
 業務上の命令を守らず、またはこれを破り、または戒告を無視した場合
 会社の所有物、備品を破損、亡滅、遺失し、会社の業務に損害を与えた場合
 (省略)

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