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#475 「医療法人 K会事件」山口地裁萩支部

2018年11月28日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第475号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【医療法人 K会事件・山口地裁萩支部判決】(2017年3月24日)

▽ <主な争点>
修学費用返還制度と労働基準法16条など

1.事件の概要は?

本件は、医療法人であるK会がかつて雇用していたXに対し、(1)准看護学校在学中の修学資金等として、平成17年4月から19年3月まで合計146万2793円を期限の定めなく貸し付け(以下「本件貸付1」という)、さらに(2)看護学校在学中の修学資金等として、同年4月から22年3月まで合計108万円を期限の定めなく貸し付けた(以下「本件貸付2」という)として、金銭消費貸借契約に基づき、本件貸付1の残元金145万7793円および本件貸付2の元金108万円の合計253万7793円およびこれに対する遅延損害金の支払を求めるとともに、Y(Xの父)に対し、本件貸付の貸金債務を連帯保証したとして、保証契約に基づき、上記と同額の支払を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<K会、XおよびYについて>

★ K会は、病院(以下「本件病院」という)を開設運営している医療法人である。本件病院は病床数180床の精神科を中心とする病院である。

★ Xは、平成17年4月、K会に雇用され、19年3月までは看護補助として、同年4月から22年3月までは准看護師として、同年4月からは正看護師として本件病院において勤務し、26年8月に退職した者である。

★ Yは、Xの父である。

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<K会における修学資金貸付規定について>

★ K会は同会の医療施設において業務に従事しようとする者を対象として無利息で修学資金を貸し付ける旨の修学資金貸付規定(以下「本件貸付規定」という)を設けており、同規定には以下のような条項がある。

(貸付け)
第2条 修学資金は、貸付けの決定から卒業する日の属する月まで貸付けるものとする。

(返還の債務の免除)
第5条 修学資金貸付けを受けた者がその課程を卒業し、引続き法人の医療施設において勤務する期間が通算して理学療法士・作業療法士・診療放射線技師・臨床検査技師・看護師6年以上、准看護師・介護福祉士4年以上であるときは、貸付金の全額について免除する。

(返還)
第6条 修学資金は、次の各号の一に該当するときは当該各号の事由が生じた時点において、貸付修学資金の全額を返還しなければならない。ただし、病気その他やむを得ない理由により、法人の承諾を得て中途退学又は退職するときは、法人は貸付修学資金の返還を減免又は猶予することがある。
(1)修学年限を中途退学するとき
(2)免許を取得した後、その業務に従事しなかったとき、また、勤務すべき期間内に退職するとき

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<本件貸付、Xの退職、本件訴えに至った経緯等について>

▼ XはK会に雇用される前の17年3月に甲学院の入学試験に合格し、同年4月、K会で看護補助として勤務しながら同学院に通学していた。

▼ Xは18年11月、推薦枠で乙学校第二看護学科に合格し、19年2月、准看護師試験に合格し、同年3月、甲学院を卒業した。Xは同年4月からK会において准看護師として勤務しながら乙学校に通学し、在学中に看護師試験に合格し、22年3月、同学校を卒業した。

★ XらはいずれもXを申請者、Yを連帯保証人とする、「金額毎月5万4770円(学費1万8500円、通学交通費6270円、生活費3万円)、期間を17年4月1日から19年3月31日まで」とする修学資金貸付願(本件貸付1)、および、「金額毎月3万円(生活費)、期間を19年4月1日から22年3月31日まで」とする修学資金貸付願(本件貸付2)を作成し、K会に提出していた。

▼ 26年7月、Xは当時の看護部長に退職届を提出し、事務長に契約について尋ねたところ、本件貸付規定と修学資金貸付金合計238万9480円と記載された紙等の写しを受け取り、初めて同規定の内容を具体的に把握した。

▼ 事務長はXに対し、准看護学校と看護学校の両方の修学金を受けているから、正看護師の資格を取ってから合計10年勤務しないと免除にはならないなどと述べたが、Xの退職の意思は変わらず、同年8月に退職した。

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