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#438 「T大学事件」東京地裁(再掲)

2017年6月7日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第438号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【T大学事件・東京地裁判決】(2015年9月25日)

▽ <主な争点>
パワハラを理由とする懲戒(停職)処分など

1.事件の概要は?

本件は、T大学(学校法人)との間で雇用契約を締結し、同大学で准教授または教授を務めていたAらが同僚の教員や事務職員に対し、パワーハラスメント行為もしくはこれを助長する行為、または、これらを隠ぺいする目的で口止め行為をしたこと等を理由に、T大学から停職を内容とする懲戒処分を受けたことから、同処分が無効であるとして、同大学に対し、(1)同処分の無効確認、(2)停職とされていた期間の給与の支払、(3)停職とされたことを理由とする賞与の減額分の支払、(4)不当な懲戒処分を受けたことにより精神的苦痛を受けたとして、不法行為に基づく損害賠償金(慰謝料および弁護士費用)の支払などをそれぞれ求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<T大学、AおよびBについて>

★ T大学は、大学を設置する学校法人であり、同大学基礎工学部の第1学年の学生が教養課程を履修する施設として北海道長万部キャンパスを設けている。

★ Aは、T大学基礎工学部の英語担当の准教授であり。長万部キャンパスに勤務している者である。

★ Bは、平成25年3月末までT大学基礎工学部の英語担当の教授であった者であり、同大学を定年退職するまで長万部キャンパスに勤務していた者である。

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<本件各処分(停職)に至った経緯等について>

▼ T大学のハラスメント防止委員会は、同大学基礎工学部の英語担当の准教授Cらによる申立てに基づいてハラスメント調査委員会を設置し、平成24年3月から8月までの間、Aらを対象とする調査を実施した。

▼ 24年11月、長万部キャンパス担当理事であり、ハラスメント調査委員会の委員長を務めていたDはAらにハラスメント行為があったことを認定した報告書を作成した。

▼ T大学は25年3月1日付でAらに対し、それぞれ以下のとおり、停職を内容とする懲戒処分(以下「本件各処分」という)を行った。

★ Aの停職期間は「25年3月2日から4月30日まで」とし、懲戒理由は「17年頃からC准教授に対し、侮辱的・威圧的な言動、理不尽で執拗な叱責を繰り返した上、暴力的行為を行った結果、精神的苦痛を与えたこと」等であった。

★ Bの停職期間は「25年3月2日から同月31日まで」とし、懲戒理由は「AがC准教授に対して上記の行為をした場面に居合わせながら、これを制止しないまま容認し、Aの行為を助長したこと」等であった。

▼ Aは25年2月、T大学に対し、停職処分の効力の仮の停止と停職期間中の給与の仮払を求める仮処分の申立てをしたところ、東京地裁は同年5月、申立てをいずれも却下する決定をした。

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<T大学の就業規則および懲戒規程の定めについて>

★ T大学の就業規則および懲戒規程には、以下のような内容の定めがある。

(1)職員は職務の遂行に当たっては、T大学が定める諸規則等を守り、上司の業務上の命令に従わなければならない。

(2)職員は他の職員、学生その他T大学および関係する全ての者に対して、優越的地位または継続的関係を不当に利用して、教育研究上または就労就学上における性的内容その他の不適切な言動(ハラスメント)をしてはならない。

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