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#371 「N社事件」東京地裁

2014年10月15日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第371号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【N社事件・東京地裁判決】(2013年3月30日)

▽ <主な争点>
競業会社との取引を理由とする懲戒解雇など

1.事件の概要は?

本件は、XがN社に対し、平成17年12月5日に同月19日をもって退職する旨の退職届を提出したにもかかわらず、同社から同月9日付で懲戒解雇されたことから、これが無効であり、退職届に基づく退職が有効であると主張して、(1)N社の退職金規定に基づく基本退職金1028万円余、役付給付金437万円余、功労加給金42万円および特別加給金492万円余とこれらに対する遅延損害金の支払いを求めるとともに、(2)N社が軽率にXの横領行為を理由とする無効な懲戒解雇をしたり、ドバイ首長国の警察署に対して上記横領行為の件を告訴してXに同国の刑事裁判を受けることを余儀なくさせたり、X・N社間に雇用トラブルがあることを公にするかのような新聞広告を掲載してXの再就職等を困難にしたり、Xが告訴され旅券を取り上げられて出国できないこと等を客先に対して殊更流布したりすることによってXの名誉・信用を毀損したことが不法行為に該当し、また、N社が新たな居住ビザ取得のために必要なビザキャンセル許可を拒否したことによって、Xが居住ビザや旅券を取得することが困難となり、IDカードの取得、アパートの賃貸や銀行口座の開設・預金の引き出し等、日常生活において困難を強いられたことが不法行為に該当すると主張して、これらに基づく不法行為に基づく損害賠償請求をしたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<N社、XおよびK社等について>

★ N社は、特殊工業用ミシン、一般ミシン、製袋機、梱包機、印刷機および断裁機その他諸機械の販売等を業とする会社である。

★ Xは、昭和46年4月、N社に入社し、同社の従業員として勤務していた労働者であり、平成17年12月当時、その役職は海外事業部部長職(ドバイ首長国内におけるN社の現地法人においてDirector職を兼務)、基本給は月額45万5090円、年齢は57歳2ヵ月、勤続年数は34年8ヵ月であった。

★ K社は、昭和16年に創業したC社を前身とする製袋機器等の製造メーカーであり、N社は機械の製造部門と販売部門とを分離するという創業者の方針にしたがい、C社を分社化し昭和30年に設立された会社を前身とする商社であった。

★ N社とK社は当初緊密な関係を保って徐々に事業を拡大してきたが、平成6年頃から対立関係が生じ、平成14年4月、N社側において、両会社間の取引の中止が宣言されるに至った(以下「本件取引中止宣言」という)。

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<Xによる退職届の提出、本件懲戒解雇等について>

▼ XはN社に対し、平成17年12月5日、一身上の都合により、同月19日をもって退職する旨を記載した退職届をファクシミリおよびクーリエ(国際宅配便)により送付した。

▼ N社はXに対し、同月9日、同社の就業規則58条1号、7号、9号、11号、13号、16号に該当するとして、同日付でXを懲戒解雇する旨の意思表示をした(以下「本件懲戒解雇」という)。

★ 上記の旨を記載した解雇通知書における懲戒解雇事由は次の4点である。
(1)競合会社(K社)との取引を隠蔽して行ったこと
(2)N社本社の了解をとらずに無断で個人の会社をN・ドバイの店内に設立したこと
(3)弁護士を雇い、N社の商標権の偽造を策動していること
(4)会社の管理する預金の横領の疑いもあること

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<N社就業規則、Xの退職金等について>

★ N社就業規則には以下のような定めがある。

(懲戒解雇)
第58条 従業員が、次の各号のいずれかに該当する場合は懲戒解雇とする。ただし、情状により軽減することがある。
1.故意または過失により業務上重大な失態があったとき
7.許可なく他に就職しまたは自己の営業を行ったとき
9.会社の秘密を漏らしまたは漏らそうとしたとき
11.業務に関し不正、不当に金品その他を授受したとき
13.会社の所有物を私用に供しまたは窃取したとき
16.その他前各号に準ずる不都合な行為があったとき

★ N社の退職金規定から算定される自己都合退職の場合のXの退職金

(1)基本退職金 1028万5223円
(2)役付退職金  437万6260円

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