#202 「X社事件」東京地裁(再掲)
2008年2月20日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第202号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【X社事件・東京地裁判決】(2007年4月27日)
▽ <主な争点>
業務上知り合った社外の女性に対するストーカー行為を理由とする懲戒処分の効力
1.事件の概要は?
本件は、担当業務において知り合った社外の女性らと私的に連絡を取り合っていたが、トラブルになり、当該女性らに多大な迷惑と不快感を与え、X社の信用を著しく損ねる結果を招いたことを理由とする懲戒休職処分を受けたYがX社のした懲戒休職処分の無効の確認を求めるとともに、同処分後にされた配転命令の効力を争い、懲戒休職処分期間中の賃金等の支払いならびに同処分を社内に公示したことおよび配転命令がいずれも不法行為にあたると主張して、慰謝料等の支払いをX社に対して求めたもの。
2.前提事実および事件の経過は?
<X社およびYについて>
★ X社は、放送法によるテレビジョンの放送事業、放送番組の制作・販売、出版物の発行・販売、文化事業、その他放送に関連する一切の事業を業とする会社である。
★ Y(昭和41年生)は、平成2年4月、X社に従業員として採用され、スポーツ局、営業局営業センター、ソフト事業局ライツ推進部などを経て、16年6月以降、情報ライブラリー部で勤務していた。
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<X社がYに対する懲戒休職処分に至るまでの経緯等>
▼ Yは、16年8月に放送されたX社の番組において、募金業務を担当していたが、番組制作過程において、ボランティアとして参加していたN大学2年に在籍する女性C(当時20歳)と知り合い、同番組終了後もCと連絡をとるようになった。
▼ 同年10月、Yはマスコミ関係に興味を有していたCをX社の本社に呼び、会社施設を案内するなどした後、Cに制作現場の従業員を紹介することを持ちかけ、同年12月、同僚2名とともに、Cとその友人Dほか1名とともに居酒屋で飲食した。
▼ Yはその後もC、Dと連絡を取り合っていたが、そのうちDと17年1月、飲食する約束を半ば強引に取り付けた。そして、YはX社の本社を訪れたDに社内見学をさせた後、港区内の寿司屋およびパブで飲食した後、突然Dが嫌がるにもかかわらず抱きしめるなどの行為をした。
▼ Yの言動を不愉快に感じたDは、以後のYからの連絡を遮断すべく、自らの携帯電話の番号とメールアドレスを変更した上で、Cに対してもYに変更後の電話番号等を教えないよう頼んだ。
▼ Yは、Dが携帯電話の番号等を変更したことを知って憤慨し、Cに対してDの連絡先を教えるよう迫ったが、Cが取り合わなかったところ、その後もCの携帯電話に執拗に連絡を取り続けた。また、YはX社が業務に利用することを目的に設置している職場の端末から、同社がYに貸与したメールアドレスを用いて、Cに対するメールを2回にわたって送信した。
▼ DはYに電話し、自分がYのことを嫌である気持ちを伝え、Cに対する電話を止めるよう要請したが、Yはこれにも激昂し、「電話番号変えたことを謝れ」などと怒鳴った。
▼ Yはその後もCの自宅に電話を繰り返しかけたため、Cと同居している家族までもが恐怖心を抱くようになった。また、YはN大学にX社の社名を名乗って電話をしたこともあった。
▼ このような事態を受け、C、Dは警察への相談も検討したが、Yからどのような仕返しを受けるかわからないという恐怖があったため、知人の会社社長に相談し、同社長が知り合いだったX社の関連会社の専務に対応を要請したため、X社が上記経緯について知るに至った。
▼ X社では、人事局においてYに対する処分を検討した結果、懲戒休職6ヵ月という処分が相当であるとの結論に達し、同年4月、賞罰委員会の決議により懲戒休職6ヵ月という処分に処することを決定した。
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<本件処分および本件配転命令について>
▼ Yは懲戒休職処分について、懲戒委員会設置に関する覚書にしたがい異議申立てをした。これにより、同年5月、X社とYが加入する労働組合とで構成される懲戒委員会が開催された。
▼ X社はYに対し、同月、「担当業務において知り合った社外の人物と私的に連絡を取り合っていたが、同年1月からこの人物とトラブルとなり、この人物らに多大な迷惑と不快感を与えた。私的な問題とは言え、Yの行動はX社の社員としてふさわしくない行動と言わざるを得ず、同社の信用を著しく損ねる結果を招いた。この責任は極めて重大である」との理由で、就業規則5条1項「社員は、放送事業の社会的使命を自覚し、全力をあげて会社の業務に精励し、創意と工夫とにより会社の発展をはからなければならない」および59条7号(社員としてふさわしくない行為があったとき)、10号(故意または重大な過失により、会社に損害を与えたとき)により懲戒休職6ヵ月とする旨の処分をした(以下「本件処分」という)。
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