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#163 「アイビーエス石井スポーツ事件」大阪地裁(再掲)

2006年11月29日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第163号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【アイビーエス石井スポーツ(以下、IB社)事件・大阪地裁判決】(2005年11月4日)

▽ <主な争点>
集団退職による営業妨害行為を理由とする懲戒解雇の効力

1.事件の概要は?

本件は、2週間足らずの期間に退職願を提出し、IB社を退職したAら4名が同社に対して、退職金の支払い等を求めたもの。これに対し、IB社は集団退社(総勢14名)による営業妨害行為を理由として、退職願提出後にAらを懲戒解雇しており、退職金不支給事由が認められる旨などを主張して争った。

2.前提事実および事件の経過は?

<IB社、AらおよびIC社について>

★ IB社は、スポーツ用品の卸売および小売販売等を業とする会社であり、本店の横浜店以外に大阪、福岡、名古屋に店舗を有し、主にスキー用品、登山用品およびゴルフ用品の販売を行っている。

★ Aら4名は、いずれもIB社大阪支店のスキー用品部に所属する従業員であった。なお、同支店は、スキー用品部、ゴルフ部および登山部の3部門に分かれていた。

★ 15年3月当初、上記スキー用品部には、部長であるH、係長であるAおよびB、主任であるCのほか、Dを含む12名の従業員が所属していた。また、同時期において、IB社全体の従業員数は約110名、大阪支店の従業員は45名程度であった。

★ IC社は、登山やスキー用品の専門店であり、IB社の競合同業者である。

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<Aらの退職および本件懲戒解雇に至った経緯>

★ IB社では12年頃から、毎年夏冬の賞与が支給されず、毎年5万円程度の寸志が支給されるのみであった上、賃金も据え置かれていたため、H部長およびAらは待遇に不満を持っていた。

▼ IC社は遅くとも14年12月には、西日本への出店を計画していたところ、Aらは同月末頃、その計画を知るとともに、H部長がIC社の出店につき勧誘され、転職するつもりでいることを知った。

▼ Aらを含め、IB社大阪支店スキー用品部の従業員は、自分たちもIC社に転職できないか、同社に聞いてもらえないかとH部長に相談した。

▼ 15年2月、Aらは従業員Fに対しても、共にIC社に転職しないかと誘ったところ、決断に迷ったFが同年3月、個人的に慕っていた福岡支店のI店長に相談したことがキッカケとなり、H部長やAらの転職計画が初めてIB社に発覚した。

▼ 同年3月、H部長およびAら総勢14名はIB社に対し、退職願を提出したが、同年4月ないし5月、いずれもIC社に就職した。なお、Aらは退職に当たっての引継ぎを行わなかった。

▼ IB社は同年3月、Aら各人に対し、IB社従業員らと共謀して集団で退社することによって、同社の営業を妨害する目的で退職願を提出したことを理由に懲戒解雇する旨を通知した(以下、「本件懲戒解雇」という)。

▼ IB社大阪支店のスキー用品部の従業員数は多数の従業員が退職したため、従前の16名から5名に減少した。このため、顧客対応が満足にできない状態になるなど、同支店のスキー用品部の営業は困難に陥り、売上げも大幅に減少した。

★ IB社の退職金規程にしたがって算出した退職金の額は、Aについては433万5000円、Bについては443万2542円、Cについては211万4800円、そしてDについては162万7450円である。

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<IB社が本件懲戒解雇の理由として追加主張する顧客情報の持ち出しについて>

★ IB社は10数年の間、K社との共催でKカップ(スキー選手権)の後援をしてきており、Aがその参加者を募集する参加者であった。

▼ 15年9月、IC社は同年3月に開催されたKカップの参加者に対して、16年3月開催のKカップをIC社でサポートする旨のAが差出人として明記されている案内状を送付した。

▼ 16年1月、IC社はAらを差出人として明記した上でダイレクトメール(以下「本件DM」という)を送付したところ、本件DMを受け取ったIB社の顧客2名は自己の個人情報が漏れたものと考え、IC社に苦情を申し入れた。

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<IB社の就業規則および退職金規程について>

★ IB社の就業規則および退職金規程には次のような規定がおかれていた。

[就業規則]
第34条 従業員は常に次の事項を守り、服務に精励しなければならない。

(4)会社の業務上の機密および会社の不利益となる事項を他に洩らさないこと
(5)会社の車両、機械、器具その他の備品を大切にし、原材料、燃料、その他の消耗品の節約に努め、製品および書類は丁寧に取り扱い、その保管を厳にすること

第50条 次の各事由に該当する場合は懲戒解雇に処する。ただし、情状によっては、通常の解雇または減給もしくは出勤停止にとどめることがある。

(5)会社または他人の金品を盗んだとき
(6)故意または重過失により災害または営業上の事故を発生させ、会社に重大な損害を与えたとき

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