#82 「ネスレ日本事件」水戸地裁龍ヶ崎市支部(再掲)
2005年4月6日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第82号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【ネスレ日本(以下、N社)事件・水戸地裁龍ヶ崎支部決定】(2000年8月7日)
▽ <主な争点>
強迫による労働契約合意解約
1.事件の概要は?
本件は、N社の従業員であったXが労働契約合意解約の不成立、無効、取消しを主張して、第一審判決言い渡しまでの間、労働契約上の従業員たる地位にあることを仮に定めることおよび賃金等の支払いを求めたもの。
2.前提事実および事件の経過は?
<N社およびXについて>
★ N社は食品メーカーであるネスレSA(スイス国法人)の日本法人である。
★ Xは平成12年5月当時、茨城県にあるN社のK工場に勤務する従業員であった者である。
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<Xが退職願を提出するに至った経緯等について>
▼ Xは昭和40年4月にF社に入社し、北海道にある同社のH工場に勤務していたが、F社がN社に買収されたのに伴い、N社に直接雇用された。その後、昭和60年にH工場が閉鎖されたため、K工場に異動した。
★ N社は平成12年5月当時、「昭和60年7月にH工場内で事務室が破壊された器物損壊事件(以下「H工場事件」という)および平成5年10月にK工場内で製造課長代理であったYが暴行を受けて負傷したと主張する事件(以下「Y暴力事件」という)にXが実行犯として関わった」と主張しており、これに対し、Xは「いずれの事件にも関与していない」と否定していた。
▼ 12年5月17日午前、K工場のZ工場長はN社本社から「N社はY暴力事件でXを処分することを検討中である」などとする連絡を受けた。Z工場長らは同日午後、会議室にXを呼び出し、次のような話をした。
(a)N社本社はY暴力事件に関し、Xの処分について検討中である。N社としては(不起訴になったとは言え)暴力事件を不問に付すわけにはいかない。Xの場合、H工場事件等もあるため、処分は避けられないかもしれない。
(b)そこで、個人的なアドバイスとして、Xが自分自身で考えて行動してみてはどうか。処分されるのと自分自身で考えて行動するのとでは大きな違いが出る。
(c)N社から処分が出て、Xに不服があった場合、長い争いになるかもしれないが、それはお互いに決してプラスではない。処分が決定された後ではZ工場長に何もできないので、これを一つのチャンスと考えて自発的に行動してほしい。
▼ Xはこれに対し、「退職するのはやりきれないが、もうトシだし、裁判をやる気もない」などと述べ、自己都合退職の場合に受けられる給付についての質問や要望をしたほか、未消化の有給休暇の買上げ等についての要望を伝えた。
▼ これに対し、N社がXの要望事項を叶えるのは確実であるとの見通しを述べたことから、 XはZ工場長宛に12年5月17日付の退職願を提出した。これに対し、Z工場長はXに同日付をもって退職となる旨を記載した通知書を交付した。
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<N社とXのその後の状況等について>
★ N社は「Xが12年5月17日にN社を合意退職した」と主張して、Xに対し、翌日以降の労働契約上の地位を否定して賃金等を支払わないでいる。
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