#117 「東京コムウェル事件」東京地裁
2005年12月21日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第117号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【東京コムウェル(以下、T社)事件・東京地裁判決】(2003年9月19日)
▽ <主な争点>
同業他社への再就職等を理由とする退職金不支給/不法行為に基づく損害賠償請求
1.事件の概要は?
本件は、T社を退職し、その後同業他社であるX社に就職したAら5名がT社に対し、それぞれ退職金の支払いを求めるとともに、退職金を速やかに支払わなかったことが不法行為に当たるとして、損害賠償を求めたもの。
2.前提事実および事件の経過は?
<T社およびAらについて>
★ T社は、商品取引法の適用を受ける上場商品および上場商品指数の売買、取引の取次ぎ等を業とする会社であり、Aら5名はいずれもT社の従業員であった。
★ Aら5名のT社における勤務歴は以下の通りである。
A・・・昭和63年7月入社~平成12年12月退社(勤務年数12年5ヵ月)
B・・・平成7年4月入社~平成13年1月退社(勤務年数5年10ヵ月)
C・・・平成9年10月入社~平成13年3月退社(勤務年数3年5ヵ月)
D・・・昭和58年4月入社~平成13年7月退社(勤務年数18年3ヵ月)
E・・・平成5年6月入社~平成13年7月退社(勤務年数8年1ヵ月)
★ AらはいずれもT社を退職後、T社と同じ商品取引員であるX社に再就職した。
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<T社退職金規程および就業規則について>
★ T社の退職金規程(以下「本件規程」という)は、適用除外および退職金の支給に関し、次の通り定めている。
第3条 就業規則の定めるところにより懲戒解雇された場合は退職金を支給しない。ただし、情状によっては一部を支給することがある。
第8条 退職金は、(中略)退職の日より60日以内に全額通貨で支給する。ただし、自己都合により退職した者で就業規則に抵触すると思われるもので、その調査期間中についてはこのかぎりではない。
★ T社の就業規則には次のような定めがある。
第20条 従業員は退職または解雇された後も在職中に生じた損害の賠償および守秘義務を免れないものとする。
第35条 2.従業員は次の事項を守らなければならない。
(4) 会社の業務上の機密事項および会社の不利益となる事項を他に漏らさないこと
第44条 従業員が次の各号の一に該当するときは、別に定める「懲戒規程」により次条の制裁を行う。
(2) 本規則に抵触するとき
(10) 会社の機密を漏らし、または漏らそうとしたとき
(12) 業務上の指揮命令に違反したとき
(13) 受託契約準則、自主規制規則ならびに関係諸法令に違反したとき
(15) 前各号に準ずる不都合な行為をしたとき
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<本件誓約書およびAらに対する退職金不支給について>
▼ Aらはいずれも入社に際し、退職後6ヵ月間は他社の商品取引員の社員とならないこと等が記載されている誓約書(以下「本件誓約書(1)」という)を提出した。
▼ Dは退社に際し、退職から1年以内はT社が営業する同種の企業に就職しないこと(以下、本件誓約書(1)の誓約事項とあわせて、「同業他社就労禁止規定」という)、および同種企業に就職した場合でも在職中知り得た顧客に対し、営業上の勧誘を行い、T社に損害を与えることは一切行わないと誓約した。
▼ Eは退社に際し、X社等には転職しないこと、これに違反したときは退職金をすべて放棄する旨(以下「本件放棄条項」という)記載されている誓約書(以下「本件誓約書(2)」という)を作成して、T社に差し入れた。なお、Eは本件誓約書(2)を作成するまで、T社から長時間にわたり退職意思の翻意を迫られていた。
★ 商品先物取引業界においては、外務員の同業他社への転職に伴う顧客の流出が経営上重要な問題とされており、T社でもその防止策に苦慮していた。
★ T社は顧客からAら従業員や取引に関する苦情等を申し立てられ、損害賠償を請求され、Dが担当した顧客に対しては300万円の和解金を支払ったことがあった。
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