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#398 「日本雇用創出機構事件」東京地裁(再々掲)

2015年11月11日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第398号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【日本雇用創出機構(以下、N社)事件・東京地裁判決】(2014年9月19日)

▽ <主な争点>
転職支援を行う出向先会社に対する損害賠償請求など

1.事件の概要は?

本件は、N社への出向を命じられ、その約1年後に出向を解かれたXが、同社は出向を受け入れるに当たって、その対象者の意向を確認すべき注意義務等を負うにもかかわらず、これらの注意義務を漫然と怠り、その結果、Xの出向元企業における雇用継続の利益その他の人格的利益を侵害したと主張して、N社に対し、不法行為または債務不履行に基づく損害賠償を求めたもの。

XはF社の従業員であったところ、同社はXに対し「人材ブリッジバンク契約」を締結していたN社に出向を命じた。なお、「人材ブリッジバンク」制度とは、他の企業に転職することを長年在籍していた企業に在籍のまま実現しようとする制度である。

2.前提事実および事件の経過は?

<N社、F社およびXについて>

★ N社は、労働派遣事業、有料職業紹介事業等を目的とする会社であり、平成15年7月に関東雇用創出機構として設立され、23年11月に関西雇用創出機構と合併した。

★ F社は、D社の情報事業が新設分割の方法により会社分割されて設立された会社であり、コンピュータおよびその周辺機器ならびに通信機器の販売、リース、レンタル、保守、点検、修理、機器の据付工事等を目的としている。

★ Xは、D社においてシステムエンジニアとして勤務していたところ、16年4月、F社の設立に伴い、同社の従業員となった者である。

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<本件出向命令、本件訴訟に至った経緯等について>

▼ N社は「人材ブリッジバンク契約」を締結しているF社の依頼により、23年8月、Xを含む数名のF社の従業員に対し、N社における業務内容に関する個別の説明会を行った。

▼ 同年10月1日、F社はXに対し、N社への出向を命じた(以下「本件出向命令」という)。これに対し、Xは「納得も合意もしていないが、業務命令なので、異議をとどめて、現地へ赴く。今後、出向の問題点について、改めて会社の見解を糾させてもらう」と記載した書面をF社に交付した上で同月11日からN社での勤務を開始した。

▼ 24年4月、7月および10月、Xはそれぞれ3ヵ月間の出向期間延長となり、N社での勤務を継続した。

▼ 同年9月、Xは本件請求に係る訴えとF社を被告とする、本件出向命令に基づきN社において転職活動等をする義務のないことの確認および不法行為に基づく損害賠償の各請求に係る訴えとを併合して提起した(以下「本件訴訟」という)。

▼ F社はN社から報告を受けるXの活動状況と、本件訴訟において早期和解の見通しがつかないことを考慮して、25年1月、Xに対し、同月11日付でN社への出向を終了しF社に復職させるとともに同年4月1日までの自宅待機を命じた。

▼ 26年7月、本件訴訟のうちF社についての口頭弁論が分離された。

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<F社の出向に関する規定、N社における人材ブリッジバンク制度について>

★ F社の就業規則40条には転勤、転属および出向について、「会社は業務上の都合によって転勤、転属または出向させることがある」、「転勤、転属または出向を命ぜられた者は原則として2週間以内に赴任しなければならない」との規定がある。また、同社には上記規定に定める従業員の出向に関する事項について定めた「出向規程」が存する。

★ N社における「人材ブリッジバンク」制度とは、企業(主として大手企業)において自己の労働能力の向上を怠り、または取り巻く環境の変化に対応できなくなった従業員がその長年の経験やスキルを活かして他の企業(特に中小企業等)に転職すること(企業間の橋渡し)を長年在籍していた企業に在籍のまま実現しようとする制度である。

3.社員Xの主な言い分は?

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