#435 「野村證券事件」東京地裁(再掲)
2017年4月19日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第435号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【野村證券(以下、N社)事件・東京地裁判決】(2016年3月31日)
▽ <主な争点>
同業他社への転職を理由とする退職加算金相当額等の支払請求など
1.事件の概要は?
本件は、N社が元従業員のXに対し、退職の際、同業他社に転職した場合は返還する旨の合意をして退職加算金を支給したが、退職後に同業他社に転職したと主張して、上記返還合意に基づき、退職加算金相当額およびこれに対する遅延損害金の支払を求めたもの。
2.前提事実および事件の経過は?
<N社、XおよびT社について>
★ N社は、有価証券の売買およびその媒介等の金融商品取引業を営む会社である。
★ Xは、昭和53年4月、N社との間で雇用契約を締結し、以後、同社において勤務していたが、平成24年7月に退職した者である。
★ T社は、大阪市内に本店を置き、金融商品取引業を営む会社である。なお、N社の完全親会社は平成26年3月31日現在、T社の株式を議決権比率で約30%間接所有している。
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<N社のセカンドライフ支援退職制度(本件制度)等について>
★ N社は平成22年4月、従業員の休職および退職に関する制度であるセカンドライフサポートプランを導入した。同プランはセカンドライフ支援休職制度とセカンドライフ支援退職制度(以下「本件制度」という)からなる。本件制度は50歳以上59歳未満で自己都合により退職する総合職A社員および総合職B社員に対し、会社の承認を条件として、通常の退職慰労金に加えて退職加算金を支給するという制度である。
★ 本件制度の社内向けの説明資料には、同制度の利用申請を承認しない場合の例として、同業他社に転職する場合等が掲げられており、N社の人事ポータルサイトには「ここでいう同業他社とは、当社が行う業務と同様の業務を一部でも行う会社をいいます。具体的な例としては、証券会社、銀行、生損保、資産運用会社等が含まれます。会社の規模や市場シェア、当社との取引関係の有無等は問いません。なお、退職後に同業他社に転職したことが判明した場合には退職加算金を返還していただくことになりますので、同業他社に該当するかどうかについて疑義がある場合には事前にご相談ください」との記載があった。
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<Xによる本件制度の利用申請、本件返還合意等について>
▼ XはN社に対し、24年7月、退職事由を一身上の都合として、本件制度の利用を申請し(以下「本件申請」という)、同社はXに対して本件申請を承認する旨を伝えた。Xが退職届とともに提出した誓約書(以下「本件誓約書」という)には同業他社に転職し、N社から請求された場合には退職加算金相当額を同社に返還する旨の約束(以下「本件返還合意」という)が記載されている。
★ XはN社を退職した当時、58歳であり、勤続15年以上の総合職A社員で基幹職にあった。Xは退職に伴い、通常の退職慰労金として4487万2200円(退職年金3473万3700円および加算一時金1013万8500円)を受給することが可能であったところ、このうちの1568万3000円を一時金として受給し、残額の受給を60歳以降に繰り下げることを選択した。
★ Xは上記一時金1568万3000円に本件制度に基づく退職加算金1008万円(以下「本件退職加算金」という)を加え、源泉所得税額等12万0100円および住宅融資返済等相当額1335万2752円を控除した1229万0148円を受領した。
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<Xの再就職、本件退職加算金の返還請求等について>
▼ XはN社を退職した後、ホームセンターを経営するD社の顧問に就任し、約1年8ヵ月務めた後、26年4月1日付でT社の資産コンサルティング部長に就任した。
▼ N社は同月、Xに対し、本件誓約書に基づいて本件退職加算金1008万円の返還を請求するので、請求金額を指定の銀行口座に振り込むよう求める旨の請求書を送付して、本件退職加算金の返還を催告した。
▼ XはN社に対し、上記請求書には同意しかねること、再考を求めること等を記載した趣意書を送付した。同趣意書にはXがT社に就職するに至った経緯についての記載があった。
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