#378 「甲社事件」東京地裁(再掲)
2015年1月21日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第378号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【甲社事件・東京地裁判決】(2014年3月7日)
▽ <主な争点>
従業員の個人情報の漏洩と不法行為など
1.事件の概要は?
本件は、甲社においてパートタイマーの清掃員として稼働していたXが、同社の従業員であり、上司であったAから個人情報を漏洩され、脅迫的な辞職の強要や差別的言動を受け、さらには一方的に解雇されたなどと主張し、不法行為に基づく損害賠償請求として、甲社らに対し、慰謝料400万円の連帯支払いを求めたもの。
Xは東京簡易裁判所に対し、平成25年6月、甲社を相手方とする民事調停の申立てをしたが、同調停は不調に終わり、同社は同年7月、解雇予告手当をXの預金口座に振り込む手続きをし、Xを普通解雇した。
2.前提事実および事件の経過は?
<甲社、XおよびAについて>
★ 甲社は、建物の総合管理の請負や一般清掃業務の請負を業とする会社である。同社は日本K館(東京都江東区所在)の清掃業務を受託しており、同館ではAを含め、概ね9名ほどの従業員が勤務していた。
★ X(昭和46年生)は、平成25年2月、甲社から採用内定を受け、同年3月からK館の清掃作業員として勤務していた者である。
★ Aは、甲社の正社員であり、平成24年からK館において、現場主任として現場を統括する地位にあった者である。
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<甲社によるXの個人情報の漏洩等について>
▼ XはK館での勤務を開始した25年3月4日、他の従業員と会話をしている際、「遠いところ通勤するのは大丈夫か」、「以前エステで働いていたのか」、「手をけがしたと聞いたが大丈夫か」などといった内容の質問を受けた。
▼ Xは甲社から渡された書類を確認していたところ、個人情報取扱同意書の記載内容(個人情報を本人の同意なしに第三者に提供しない)と、Aのみに伝えていた前職等の話が他の従業員から出たこととの間で齟齬があり、問題があるとの認識を持つに至った。
▼ Xは同月5日、個人情報取扱同意書に責任者として記載されていたBに連絡し、問題がある旨の指摘をした。これを受け、Aは同月7日、Xと面会し、従業員にXの話をしたことについて謝罪した。
▼ これに対し、Xは弁護士に相談した上、渡された入社関係書類についても問題が解決してからなどと述べて応じ、個人情報を漏洩したとされる問題について書面で謝罪文書を提出するよう求めた。
▼ 甲社ではXの要望を踏まえ、業務部長のCがその名において、Xに対する同月14日付「お詫び状」(事務所に勤務する他のスタッフにXの個人情報を流出した事態について陳謝する内容の文書)を作成してXに交付した。
▼ Xは同年4月11日、Bらとの面談において、個人情報を漏洩したとされる問題に関し、甲社に対して損害賠償を請求したいとの意向を示した。そこで、BはXに対し、会社として損害賠償に応ずるということまではできかねる旨を話した。しかしながら、Xはあくまで損害賠償を求めたため、BはXに対し、公的機関で手続をとってもらうしかない旨を伝えた。
▼ Xは甲社として経緯を記した書面を交付するよう要求し、AはXに対し、同月19日、「個人情報漏洩の件について」と題する書面を作成し、これをXに交付した。
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<Xの民事調停の申立て、本件解雇等について>
▼ Xは東京簡易裁判所に対し、同年6月、Aが個人情報を漏洩し、仕事を辞めるよう強要したなどとして、甲社を相手方とする民事調停の申立てをしたが、同調停は同年7月、不成立に終わった。
▼ 甲社はXと雇用関係を維持するのは困難であると考え、同月、解雇予告手当として21万0900円をXの預金口座に振り込む手続をし、Xを普通解雇した(以下「本件解雇」という)。
3.元パートタイマーXの主な言い分は?
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