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#267 「フィリップ・モリス・ジャパン事件」東京地裁(再掲)

2010年9月1日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第267号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【フィリップ・モリス・ジャパン(以下、P社)事件・東京地裁決定】(2010年2月26日)

▽ <主な争点>
コンプライアンス違反を理由とする諭旨退職と退職の意思表示等

1.事件の概要は?

本件は、就業規則違反があったという理由で諭旨退職の通知を受け、P社に対し退職願を提出して退職の意思表示をしたXが、当該意思表示は諭旨退職事由がないのに人事部長の強迫により強制されたものであるからこれを取り消す、または、Xの錯誤によって誤って表示されたものであるから無効であると主張して、P社に対し、仮の地位確認および賃金の仮払いを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<P社およびX等について>

★ P社は、たばこの販売促進業務等を目的とする会社であり、フィリップモリスセールスプロモーション(旧物産プロモーション、以下「B社」という)を合併した。

★ X(昭和47年生)は、平成12年、B社に入社して、上記合併後P社の正社員となり、21年7月に退職するまで、たばこのルート営業(コンビニエンスストア等に対して、たばこの陳列等の営業をすること)等に従事していた。

★ Xはその当時、P社の首都圏リージョン内、八王子ディストリクト内、厚木ユニットのユニットマネージャーの地位にあり、同ユニットに在籍する7人のテリトリーセールスマネージャー(A、Bほか)の管理監督をしていた。

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<P社の就業規則、職務倫理規定等について>

★ P社の就業規則には次の定めがある。

第4章 服務規律
第1条(服務の基本原則)

 社員は、日本国の法令を遵守し、本規則および会社の諸規程・方針、業務上の指示に従い、誠実に勤務しなければならない。
 社員は会社のAltria Code of Conduct for Compliance and Integrityおよび
関連する諸方針を充分に理解のうえ、これを遵守しなければならない。

第9章 表彰・制裁
第2条(制裁の種類)1項

(e)諭旨退職 退職願の提出を勧告する。これに応じない場合は懲戒解雇とする。原則として退職金は支給しない。

第4条(諭旨退職および懲戒解雇)
社員が次の各号のいずれかに該当するときは、諭旨退職または懲戒解雇に処せられるものとする。
(o)業務上の指揮命令に従わず、または業務の正常な運営を妨害したとき
(r)その他、本規則、Altria Code of Conduct for Compliance and Integrity、その他の会社諸規程・方針に重大な違反を行ったとき

P社のPMI(フィリップモリスインターナショナル)職務倫理規定およびコンプライアンスポリシーに定められている、社員が従うべき重要なポリシーについては、以下のとおりとなります。

 職務倫理規定は正しいコミットメントをあらわすものです。PMIで勤務することは正しい行動をとることを約束することです。職務倫理規定および業務に関連する社内ポリシーの基準を理解し、常に従ってください。これらを遵守しなかった場合、自分自身、同僚、そしてPMIをリスクにさらすことになります。また、ポリシーへの違反は解雇を含む懲戒処分の対象になります。

 私たち一人ひとりが声をあげるべきときにそうしなければ、会社としてインテグリティある行動へのコミットメントを果たしていくことはできません。だからこそ、業務に適用される法的責任および倫理的責任を理解しておくことに加えて、次のような場合には報告する義務があります。

会社の職務を行っている人が法律、PMIコンプライアンスポリシー、あるいはこの職務倫理規定に違反する行為をしている。あるいは行おうとしていると思われる場合
コンプライアンス違反が疑われる行為に気づいた場合、報告することを社員に義務付ける。
コンプライアンスに関わる疑問や問題が生じた場合は、積極的に声を上げること。当社はコンプライアンス上の問題を誠意を持って報告する社員に対し、報復したり、処罰することはない。反対に、善意で報告した社員に対して報復や処罰を与えた社員は懲戒処分の対象となる。また、他の社員に対するいやがらせが目的で虚偽の内容を報告するといった悪意の報告も許されるものではない。

 誠意を持って助言を求め、またコンプライアンスに関わる問題や不正が疑われる行為を報告する社員の行動はこの職務倫理規定に沿ったものであり、正しい行動です。PMIは問題を報告した人に対する報復措置を許容しません。報告行為に関わる人は、懲戒処分の対象となり、場合によっては解雇されます。自分自身または知り合いの誰かが、コンプライアンスまたはインテグリティの問題を報告したことにより報復を受けている疑いがある場合、速やかにコンプライアンス部に連絡してください。

▼ P社は平成20年8月、Xを含む全社員に対し、職務倫理規定および関連資料を配布して、その内容を理解し、かつ、規範に従って行動することを要求・確認した。Xはその頃、職務倫理規定を受領して確認書を提出した。

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<P社に対するコンプライアンス報告等について>

▼ Aは21年6月、P社に対し、Xが体調を崩したAに十分な療養の期間を与えず、深夜にわたる業務を強要し、年次有給休暇の取得を認めなかったという報告をした。

▼ Bは同月、P社に対し、XがBらに対し、所定のコンビニエンスストア以外で使用することを禁じされているパックレール* を使うよう指示したが、Xは関与を認めず、すべての責任をBに負わせようとしたという報告をした。

* パックレールとは、たばこの店頭陳列用のプラスチックケースである。パックレールの数を増やせば、陳列表示されるたばこの種類が増えて顧客の目に入りやすくなり、売上増の効果が見込まれるが、P社においてはコンビニエンスストア各社との契約上、ルート営業社員がパックレールを持ち込むことを禁止している。

▼ また、Bは同年7月、P社に対し、「XがBに対し、Xの上司について虚偽の報告をするよう求めた」という報告をした。

▼ Xは同月、P社に対し、Xが上司からハラスメントと差別を受け、このことを報告した後、首都圏リージョンのゼネラルマネージャーから報復されたという報告をした。なお、P社はこの報告に先立ち、Xに対し、当面の自宅待機命令と他の社員との連絡を禁じる旨の命令を発していた。

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<Xに対する諭旨退職の通告等について>

▼ P社は上記報告に基づき、コンプライアンス委員会において審議し、Xの行為(1.コンプライアンス調査について守秘義務を課されたにもかかわらず、周囲にその内容を漏らしたこと、2.部下に対し、上司について虚偽の報告をするよう求めたこと、3.他の社員との連絡を禁じる旨の命令に違反して、Bらに電話をかけたこと、4.部下に対し、パックレールの使用を指示した事実が発覚したこと)が諭旨退職事由に該当すると判断して、Xを諭旨退職とするという意思決定をした。

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