#553 「パタゴニア・インターナショナル・インク事件」東京地裁(再掲)
2022年1月5日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第553号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【パタゴニア・インターナショナル・インク(以下、P社)事件・東京地裁判決】(2020年6月10日)
▽ <主な争点>
能力・適格性不足等を理由とする普通解雇など
1.事件の概要は?
本件は、XがP社に対し、2018年1月24日付でなされた普通解雇は解雇事由に該当する事実がなく、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められないものであり無効であると主張して、雇用契約に基づき、(1)雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、(2)同年3月25日支払分の未払賃金元本104万3283円およびこれに対する遅延損害金、(3)同年4月から本判決確定の日まで弁済期である毎月25日かぎり月額106万6667円の割合による賃金およびこれらに対する遅延損害金、(4)2018年度以降賞与支給日である毎年7月10日かぎり106万6667円、12月10日かぎり213万3334円ならびにこれらに対する遅延損害金の各支払を求め、さらにP社日本支社の元代表者や従業員らからいわゆるハラスメントを受けたことにより精神的苦痛を被ったと主張し、不法行為(民法715条)または債務不履行(安全配慮義務違反)に基づき、(5)慰謝料200万円および弁護士費用20万円の合計220万円などの各支払を求めたもの。
2.前提事実および事件の経過は?
<P社、X、A、BおよびCについて>
★ P社は、衣料品の通信販売、販売および卸売等を目的とし、米国カリフォルニア州に本店を置く外国会社である。
★ Xは、2016年1月、P社との間で「ポジション:日本支社リーガルカウンセル、賃金:月額106万6667円(定期賞与を含んだ年収換算1600万円)」等と定める雇用契約(以下「本件雇用契約」という)を締結し、同年3月に勤務を開始した者である。なお、Xは米国の法科大学院を卒業して1997年に米国ニューヨーク州の弁護士資格を取得し、その後、複数の会社で法務関係の業務に従事していた経験がある。
★ Aは、XがP社に雇用された当時から本件解雇当時まで、日本支社の代表者であり、Xの直属の上司であった者である。
★ Bは、上記当時、P社の従業員であり、ブランディング業務を担当するインターナショナル・マーケティング・ディレクターの役職にあった者である。
★ Cは、上記当時、P社の従業員であり、2016年7月以降、ファイナンス&アカウンティング、IT,ロジスティック部門を担当するファイナンス&オペレーションディレクターの地位にあり、2017年9月から同部門を統括するシニア・ディレクターの地位にあった者である。
--------------------------------------------------------------------------
<本件解雇等について>
★ 本件雇用契約におけるリーガルカウンセルとしての業務内容は、日本支社に関連した法的アドバイス、分析を提供すること、グローバルなアウトドアアパレル企業に影響を与えるようなビジネス契約・法律関連の業務を中心とするが、同時にP社の幅広い環境活動にも十分な法的アドバイスを提供することなどである。
★ P社日本支社には、Xが入社するまでリーガルカウンセルは置かれておらず、Xは同支社で初めてかつ唯一のリーガルカウンセルであった。
▼ 2018年1月23日、P社はXに対し、Xのリーガルカウンセルとしてのパフォーマンスが同社の期待するレベルに達しておらず、また、他の社員と協力し合って仕事をすることができないケースが多く見受けられ、パフォーマンスの改善プログラムを実施したが、改善が見受けられず、今後も改善の見込みが低いと判断して、同月24日かぎり解雇するとの意思表示をした(以下「本件解雇」という)。
--------------------------------------------------------------------------
<P社日本支社の就業規則の定めについて>
★ P社日本支社の就業規則には、次の定めがある。
P社は、下記各号の一に該当する社員を解雇することができる(44条)。
ここから先は
¥ 100
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?