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#509 「熊本労基署長事件」熊本地裁(再掲)

2020年4月1日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第509号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【熊本労基署長(以下、K労基署長)事件・熊本地裁判決】(2019年6月26日)

▽ <主な争点>
くも膜下出血による死亡と業務起因性など

1.事件の概要は?

本件は、X(平成26年12月死亡)の妻であるYが、Xが過重な業務に従事したことにより、くも膜下出血を発症し死亡したとして、K労基署長に対し、労働者災害補償保険法(労災保険法)に基づき遺族補償給付および葬祭料の請求をしたところ、処分行政庁がいずれも不支給とする旨の決定をしたことから、国に対し、これらの処分の取消しを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<XおよびYについて>

★ X(昭和43年生)は、平成18年6月に甲社に入社し、セールスドライバーとして宅配便の配達、集荷業務に従事していた者である。

★ Yは、亡きXの妻である。

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<本件発症、本件処分から本件訴えの提起に至った経緯等について>

▼ Xは乙支店に所属し、セールスドライバーの業務に従事していたところ、26年12月14日午後9時30分頃、同支店の駐車場において、くも膜下出血を発症し(以下「本件発症」という)、翌15日午前2時3分頃、死亡した。

▼ Yは27年3月、Xの死亡の原因が過重な業務に従事したことによるものであるとして、K労基署長に対し、労災保険法に基づく遺族補償年金給付および葬祭料の各支給請求をしたところ、同労基署長は同年8月、Yに対し、Xの死亡は業務上の事由によるものとは認められないとして、遺族補償年金給付および葬祭料をいずれも不支給とする旨の決定をした(以下「本件処分」という)。

▼ Yは本件処分を不服として、同年9月、熊本労働者災害補償保険審査官に対し、審査請求をしたが、同審査官は28年3月、同審査請求を棄却する旨の決定をした。

▼ Yは上記決定を不服として、同年4月、労働保険審査会に対し、再審査請求をしたが、同審査会は29年2月、同再審査請求を棄却する旨の裁決をした。その後、Yは同年4月、本件訴えを提起した。

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<脳・心臓疾患の業務起因性の判断に係る通達、認定基準等について>

★ 労災保険の給付に関し、脳・心臓疾患の業務起因性の判断については、厚生労働省労働基準局長平成13年12月12日基発第1063号・平成22年5月7日改正基0507第3号「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(以下「認定基準」という)が発出されており、行政実務上、この通達を基準とした運用がされている。
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040325-11a.pdf

★ 認定基準を補足するものとして、厚生労働省労働基準局労災補償部保障課長平成13年12月12日基労補発第31号「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準の運用上の留意点等について」(以下「認定基準留意点」という)が発出されている。

★ 脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)は、その発症の基礎となる動脈硬化等による血管病変または動脈瘤、心筋変性等の基礎的病態が長い年月の生活の営みの中で形成され、それが徐々に進行し、増悪するといった自然経過をたどり発症に至るものとされている。

★ 認定基準は、業務による明らかな過重負荷が加わることによって、血管病変等がその自然経過を超えて著しく増悪し、脳・心臓疾患が発症する場合があり、そのような経過をたどり発症した脳・心臓疾患はその発症に当たって、業務が相対的に有力な原因であると判断し、業務に起因することが明らかな疾病として取り扱うとの立場に立って、(1)発症直前から前日までの間に異常な出来事に遭遇したこと、(2)発症に近接した時期において、特に過重な業務に就労したこと、または(3)発症前の長期間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと、以上の(1)(2)または(3)の業務による明らかな過重負荷を受けたことにより発症した脳・心臓疾患は労働基準法施行規則に該当する疾病として取り扱うこととしている。

★ 認定基準は上記(2)の短時間の過重業務の評価期間を発症前概ね1週間とし、上記(3)の長期間の過重業務の評価期間を発症前概ね6ヵ月間とし、上記(2)および(3)の「特に過重な業務」とは、日常業務に比較して特に過重な身体的、精神的負荷を生じさせたと客観的に認められる業務をいうとし、「業務の過重性の具体的な評価に当たっては、以下に掲げる負荷要因について十分検討すること」とした上で、労働時間、不規則な勤務、拘束時間の長い勤務、出張の多い業務、交替制勤務・深夜勤務、作業環境、精神的緊張を伴う業務という負荷要因を挙げている。

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