#245 「三井丸紅液化ガス事件」東京地裁
2009年10月28日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第245号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【三井丸紅液化ガス(以下、M社)事件・東京地裁判決】(2009年3月27日)
▽ <主な争点>
成果主義人事制度の導入と賃金の引き下げ等
1.事件の概要は?
本件は、定年退職したXが在職中にM社に導入された新人事制度により、降格され、賃金を引き下げられた等と主張し、差額賃金の支払い等を同社に対し、求めたもの。
2.前提事実および事件の経過は?
<M社およびXについて>
★ M社は、昭和35年に設立されたブリヂストン液化ガス(以下、B社)が平成3年に三井石油(以下、S社)と合併し、その後、16年12月にガス部門が同社から分社化されて設立された会社である。
★ Xは、昭和44年4月、B社に入社し、以後、同社がS社を経て、M社となるのにしたがって、それぞれの従業員として勤務し、18年5月をもって定年退職した。なお、下記の新人事・賃金制度が導入される直前の13年3月におけるXの職務級は7級職であった。
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<新人事・賃金制度の導入とXの格付け等について>
▼ M社においては、平成13年4月、新々人事・賃金制度が導入された。同制度は、従来の人事・賃金制度の年功色を排除し、業界環境ならびに将来の労働市場流動化等を考慮した、役割・成果を中心とした人事制度への転換を図ることにあると説明された(以下、この人事制度を「新制度」という)。
★ 新制度における役割の枠組を定めた「役割・グレード制度規程」によれば、役割は、各従業員の職務に応じて決定するものとされ、具体的な役割階層区分は、責任領域に応じて、(1)マネジャー3(MGR3),(2)マネジャー2(MGR2)、(3)マネジャー1(MGR1)、(4)プロフェッショナルスタッフ(PSF)、(5)シニアスタッフ(SSF),(6)スタッフ(SF)、(7)ローカルスタッフ(LSF)、(8)ジュニアスタッフ(JSF)、(9)アシスタントスタッフ(AS)の9つに区分された。
★ このうち、SSFの役割要件は、担当範囲に係わる目標・業務の推進および部門SFの指導を行う人材として位置づけるものとされ、担当業務範囲での業績・成績管理、業務活動効率の管理、マーケット情報の管理、関連する組織・人材に係わる調整・支援・指導を役割とするとされた。
★ SFの役割要件は、担当範囲に係わる目標・業務を推進する人材として位置づけるものとされ、担当業務範囲での業績・成果管理、業務活動効率の管理、マーケット情報の管理、関連する組織・人材に係わる報告・連絡・調整を役割とするものとされた。
★ 新制度における評価については、旧制度の能力評価を廃止し、個々の従業員ごとに期初に設定した、果たすべき業績・業務の管理指標である「成績指標」に基づき、期待と結果水準を対比して成果の高低を判断し、その結果を評価として反映させるものとして定められた。
★ 新制度への以降に際しては、「新々人事制度導入に伴う移行処理規程」(以下「移行処理規程」という)第4条【個別「役割・グレード」の付与】により、以下のとおり移行基準が示された。
1.新規程(役割・グレード制度規程)による役割の決定
13年4月1日付における任用役職、所属、担当業務等に基づいて次の各号のとおり決定する。
(3)旧規程に基づく一般職掌の6級職以上であった従業員で、特に指定した役職または前2号に該当しない場合は、「SSF」を原則とし、必要な場合「LSF」とする。
(4)旧規程に基づく一般職掌であった従業員で、前3号に該当しない場合は、「SF」を原則とし、必要な場合「LSF」とする。
2.グレードの決定
第1項第3号および4号に基づき、役割が「SF」または「LSF」になった場合に区分するグレードは、旧規程に基づく一般職掌の職級により、次の各号のとおり決定する。
(1)5級職の場合は、「グレード3」とする。
▼ 新制度導入により、XはSF・グレード3に格付けされた。
★ Xに対する12年度の人事評価表の1次評価欄の下段には、当時関連事業部長であったA(以下、A部長)による「出向先で自身の再就職活動を行う等非常識な行動多く、販社プロパーとの無用な議論多く出向させること自体が問題」との記載がある(以下、これを「Aコメント」という)。
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<新制度の導入に至った経緯等について>
▼ M社は新制度の導入に先立ち、12年8月に「新々人事制度基本骨子」を作成して、組合に意見を求める一方、同年9月から、従業員に対して、全国で新制度についての説明会を開催したり、社内イントラネットに「早期退職優遇制度導入ならびに関係規程・制度に関するお知らせ」や「新々人事制度説明資料」を掲載したりするなどした。
▼ M社においては、13年3月、新制度導入に当たり、役割・グレード制度規程、移行処理規程等を制定し、将来これらを一体として就業規則として位置づけることを企図して、組合に意見を求め、口頭での承諾を得た。
▼ 同月、M社は再度の説明会を開き、説明資料として新々人事制度説明資料を交付し、新制度について改めて説明するとともに、移行処理規程を示した。
▼ 同年5月、M社は上記規程類に関し、同年4月1日から適用することについて、組合に意見を求め、書面で同意を得た。
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