#402 「品川労働基準監督署長事件」東京地裁(再掲)
2016年1月6日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第402号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【品川労働基準監督署長(以下、S労基署長)事件・東京地裁判決】(2015年1月21日)
▽ <主な争点>
会社主催の納会での急性アルコール中毒死と業務起因性など
1.事件の概要は?
本件は、Xが勤務先であった甲社主催の納会で飲酒し、急性アルコール中毒を発症するなどして死亡したことについて、Y(Xの妻)が業務上の事由によるものであると主張して、S労基署長に対し、労働者災害補償保険法(以下、労災保険法)に基づく遺族補償給付(遺族補償年金)および葬祭料の各給付を請求したところ、同労基署長がいずれも支給しない旨の処分をしたことから、その取消しを求めたもの。
2.前提事実および事件の経過は?
<甲社、XおよびYについて>
★ 甲社は、電子機器用変圧器等の製造を業とする会社である。
★ X(昭和33年生)は、昭和48年4月、期間の定めのない雇用契約を締結して甲社に入社し、以後、同社において、正社員として変圧器製造等の業務に従事していた者である。
★ Yは、Xの妻である。
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<本件納会、Xの酩酊状況および死亡に至った経緯等について>
▼ 甲社においては毎年仕事納めの日に納会を開催し、ほぼ全従業員が参加していたところ、平成23年についても慣例の通り、同年12月28日午前中に社内清掃を行い、午後0時45分頃から社内で納会(以下「本件納会」という)を開催した。
★ 本件納会では、甲社が費用全額を負担し、仕出し弁当、煮物、石狩鍋、漬物、果物等とともに缶ビール12本、日本酒(1.8リットル)1本およびジュース1本が飲食に供され、同社の代表者やXを含む従業員全員等の合計7名が参加し、午後3時頃に終了した。
★ Xは本件納会に出席して缶ビールや日本酒を飲んだところ、当日午後2時30分過ぎ頃、栃木県内にある支店の従業員と電話で年末の挨拶を交わした際には呂律が回っていない状況にあった。
▼ 本件納会が終了した午後3時頃以降、他の従業員らが順次帰宅するのに対し、Xは社内の荷物用エレベーター付近で体を横たえ、若干嘔吐した状態でいびきをかいており、これに気付いた同僚従業員がXの体にジャンパーをかけ、残りの業務を行うなどしていたところ、Xのいびきが聞こえず、嘔吐物の吸引による窒息等のため呼吸をしていない様子がみられたことから、病院に救急搬送された。
▼ Xは救急搬送時において心肺停止状態にあり、病院において心肺蘇生を行った結果、一時的に心拍再開が得られたものの、翌日の23年12月29日午前6時37分、急性アルコール中毒を原因とする蘇生後脳症により死亡した。
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<本件訴えに至った経緯等について>
▼ YはS労基署長に対し、24年3月、Xの死亡が業務上の事由によるものであるとして、労災保険法に基づく遺族補償給付(遺族補償年金)および葬祭料の各支給を請求したが、同労基署長はいずれも同年9月、Xの死亡について業務遂行性および業務起因性の存在を否定し、業務上の事由によるものとは認められないとの理由により、本件各不支給処分をした。
▼ Yは24年10月、東京労働者災害補償保険審査官に対し、審査請求をしたが、同審査官は25年1月、同審査請求を棄却する旨の決定をした。
▼ Yは25年1月、労働保険審査会に対し、再審査請求をしたが、同審査会は同年7月、同再審査請求を棄却する旨の裁決をした。
▼ Yは25年12月、本件各不支給処分の取消しを求めて、本件訴えを提起した。
3.Xの妻Yの主な言い分は?
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