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#374 「新宿労働基準監督署長事件」東京地裁(再々掲)

2014年11月26日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第374号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【新宿労働基準監督署長(以下、S労基署長)事件・東京地裁判決】(2013年11月27日)

▽ <主な争点>
受動喫煙が原因で発症したとする頭痛と業務起因性など

1.事件の概要は?

本件は、Xが職場におけるいわゆる受動喫煙が原因で頭痛を発症するとする受動喫煙症を発症したとして、平成22年1月28日、S労基署長(本件処分行政庁)に対し、労働者災害補償保険法(労災保険法)に基づき、療養補償給付たる療養の費用の支給を申請したのに対し、本件処分行政庁が同年9月9日付で療養補償給付を支給しない旨の処分(本件不支給処分)をしたため、Xが国に対し、本件不支給処分の取消しを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<Xについて>

★ X(昭和38年生の男性)は、昭和61年4月に甲社に入社し、システムエンジニアとして、主に同社の顧客である企業の事業所等に配属された上で、コンピューターのソフトウェアを開発する業務に従事していた者である。なお、Xはこれまでに自ら喫煙をしたことはない。

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<Xが退職するまでの勤務状況、医師による診断等について>

▼ Xは甲社に入社してから平成5年4月までの間、4つの事業所で勤務していたが、喫煙者はいずれも、Xが作業に従事する部屋以外で喫煙をしていた。なお、上記期間中、Xは体調に特段の変化を感じなかった。

▼ Xは平成5年5月から6年4月までの間、甲社の顧客である乙社に配属された。同社は喫煙をする労働者に対し、喫煙所を設けた上で喫煙所以外での喫煙を禁止することなどにより、労働者が室内またはこれに準ずる環境において、他人の煙草の煙を吸わされること(以下「受動喫煙」という)を回避できるようにする分煙措置をとっていなかった。

▼ Xは乙社での配属勤務を終えた後、平成9年10月までの間は分煙措置のとられていない複数の職場で勤務することがあったものの、同年11月以降、甲社を退職する20年1月までの間は分煙措置のとられている職場で就労した。

▼ Xは19年12月、喫煙者が近くに来ると頭が痛くなるとの症状を訴え、東京労災病院を受診したところ、同病院の医師は「Xの傷病は環境要因による頭痛である」と診断した。さらに、Xは同月、日本赤十字社医療センターを受診し、同病院の医師によって、「頭痛、化学物質(タバコ)過敏症、急性再発性受動喫煙症」であると診断された。

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<本件不支給処分と審査請求等について>

▼ Xは22年1月、労災保険法に基づき、本件処分行政庁に対し、甲社での勤務時に分煙措置のとられていない職場でした受動喫煙が原因で化学物質過敏症および急性再発性受動喫煙症(以下「本件疾病」という。具体的な症状は頭痛)を発症したとして、療養補償給付たる療養の費用の支給を申請した。

▼ これに対し、本件処分行政庁は、本件疾病は労働基準法施行規則35条および同別表第1の2第4号9に定める「1から8までに掲げるもののほか、これらの疾病に付随する疾病その他化学物質等にさらされる業務に起因することの明らかな疾病」に該当しないとして、同年9月9日付で本件不支給処分をした。

▼ Xは本件不支給処分を不服とし、同年10月26日付で東京労働者災害補償保険審査官に対し審査請求をしたが、同審査官は23年1月31日付で同審査請求を棄却する旨の決定をした。

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