私にとっての某文学青年と。(終)
4月まで残り2日。1月から継続して受講していた現代文の通信授業であったが、こちらの都合で授業日程を変更した結果、彼との授業は今日が最後だった。長らく彼の授業を受講してきたが、私はあまり人と打ち解けるのが得意ではなかった。さほど親しくない人と会話する場合、私は聞き手に徹する。彼は非常に饒舌だった。
紅梅が蕾む季節、外では珍しく雪がちらついていた。
私の頬が林檎のように真っ赤だからか、彼は
「暑そうだけど大丈夫?こっちも暖房が暑くて白衣脱ごうと思ってたんだ。」と言った。しかし、これは気温に関係なく起こる、赤面症のためであって。
久しぶりの雪に私は高揚し、
「こっちでは今、雪が降り始めました。」と言った。
「、、梅と雪で風情があっていいね。」
私にとっては大ニュースであったが、彼は自分の話を遮られ、不服そうであった。
彼は例の如く、恋愛経験0の20歳を嘆いたが、
「私も恋愛経験0ですよ?」と返す17歳には全く興味を示さなかった。
自分の話にしか興味がない。それは恋愛が上手いこといかないわけだ。私に関してはまず、クラスの男子とまともな会話すらしたことないからそれ以前の問題だが。
村上春樹の出身大と自慢していた彼。
私が入りたかった大学の学生の彼。
私が専攻したかった学部の彼。
眼鏡で冴えない顔の文学青年。文学への熱は並大抵ではなかった。電子辞書でしか本を読まないような生半可な気持ちの者が志望しなくてよかった。
彼は最後の授業終了30秒前、武者小路実篤の「友情」という本を勧めた。
それを最後に彼の授業を受けることはなかった。
授業の帰り、靴の裏で感じる雪の感触が新しかった。
彼には小説のこと、表現のこと、社会問題のことなど、たくさん学んだ。私はこの先、彼から聞いた話を忘れることはないだろう。しかし彼の顔を思い出すこともまた、ないだろう。
(終)