看板は倒れる前に付け替えよう
『現代思想』誌の最新号2021年10月号(2021年10月1日刊行,青土社,東京, 本体価格1,500円, ISBN:978-4-7917-1420-9 → 版元ページ)について,まとまり日記(yuiami)に「『現代思想』誌「進化論の現在」は看板倒れ」(2021年10月11日)という記事が出た.「この号の中身は『進化論の現在』という題名と釣り合っていない、とくにこの題名で生物学の哲学の成果をほぼ無視するのは問題ではないか」とある.たしかにワタクシがざっと見たかぎりでも〈進化論の周縁〉みたいなタイトルの方が適切だったかもしれない.しかし,それはここでの主たる論点ではない.
著者本人にも直接返事したことだが,『現代思想』誌の特集については編集担当者からの “一本釣り” で寄稿を依頼される.ワタクシも何度か同誌から依頼されて寄稿したことがあるので,この形式は以前からずっと変わっていないのだろう.特集の全体構成は各々の寄稿者には出版されるまでまったく不明だ.そういうスタイルで特集を組むのが『現代思想』誌の長年にわたる伝統なので,良くも悪くも,刊行されてから初めて各自の “一発芸” を見ることになる.今回の特集〈進化論の現在〉へのワタクシの寄稿:三中信宏「体系学の舞台は変転し続ける —— 系統推定の理論化をめぐって」(pp. 13-22)は系統推定論に数学と統計学が与えた影響を考察した論考だったので, “現代思想” っぽくもないし,特集全体から見れば “ハズした” かもしれない.
学生時代から青土社の『現代思想』誌や『ユリイカ』誌を遠目に見てきたワタクシは,いったいどんな人がこういう雑誌に寄稿するのだろうとかねがねフシギに思っていた.まさか,その後,ワタクシが寄稿するとは想像しなかった.念のため,ワタクシの全出力リストを検索してみたところ,『現代思想』誌には以下の寄稿をしていた(年代順 —— 各特集目次は青土社サイトに掲載されているが,1995年以前は別ソースから引用した):
三中信宏 1992. フィリップ・キッチャー[三中信宏訳]野望の跳梁 —— 社会生物学は人間の本質に迫れるか. 特集〈ドーキンス:利己的な遺伝子の戦略〉 http://jizaiya.main.jp/list/magazin/gsconts/92.html 現代思想, 20(5):62-92 (1992.5)
三中信宏 1993. ケヴィン・ケリー[三中信宏訳]深層進化論 —— ポストダーウィニズムの出現.特集〈ダーウィン:進化論の現在〉 https://www.kosho.or.jp/products/detail.php?product_id=220234874 現代思想, 21(2):178-199(1993.2)
三中信宏 1996. 歴史の複雑性と原理の単純性 —— 生物系統学の観点から. 特集〈複雑系〉 http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=2848&status=published 現代思想, 24(13): 170-178. (1996.10)
佐倉統・三中信宏(編著)2009. 進化論ブックガイド.Pp. 286-309:『現代思想』2009年4月臨時増刊号[Vol. 37, no. 5]総特集〈ダーウィン:『種の起源』 の系統樹〉http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=2645&status=published(2009年4月15日刊行,青土社,310 pp.)(2009.4)
三中信宏 2015. 絶滅は進化の影絵である —— 系統発生を可視化する論理について.特集〈絶滅〉 http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=2312&status=published 現代思想・2015年9月号,pp.176-185(2015.8)
三中信宏 2016. 文化系統と文化進化 —— 継承のパターンからプロセスを推論する.特集〈人類の起源と進化〉 http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=2910&status=published 現代思想, 2016年5月号,pp. 178-187(2016.4)
三中信宏 2018. 過去を復元する —— その推論の理念と手法は学問の壁をまたぐ.特集〈考古学の思想〉 http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=3196&status=published 現代思想2018年9月号・特集〈考古学の思想〉青土社, pp. 160-169(2018.9)
小島寛之・三中信宏 2020. [討論]社会と科学のなかの統計学.特集〈統計学/データサイエンス〉 http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=3465&status=published 現代思想2020年9月号・特集〈統計学/データサイエンス〉, pp. 8-21.(2020.9)
三中信宏 2021. 系統学の舞台は変転する —— 進化の可視化と数学をめぐって.特集〈進化論の現在 —— ポスト・ヒューマン時代の人類の地球の未来〉http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=3611&status=published 現代思想2021年10月号, pp. 13-22(2021.10)
このように,ワタクシは『現代思想』誌には前世紀末に翻訳者として登場したが,いったん姿を消し,20年後の2015年以降に寄稿者として掲載される機会が増えていることがわかる.一方,『ユリイカ』誌への寄稿はここ数年のことで,そのリストは下記のとおりだ.
三中信宏 2018. 体系化と視覚化 —— 図鑑に見るヴィジュアル思考の背景.特集〈図鑑の世界〉 http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=3210&status=published ユリイカ2018年10月号・特集〈図鑑の世界〉青土社, pp.70-77(2018.10)
三中信宏×川上和人対談 2018. サイエンスの〈扉〉としての図鑑――あるいは分類と系統の交叉点.ユリイカ2018年10月号・特集〈図鑑の世界〉 http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=3210&status=published 青土社, pp.91-102(2018.10)
三中信宏 2020. 字体と書体と字形の系統樹 —— 進化する文字世界を鳥瞰する.特集〈書体の世界〉 http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=3392&status=published ユリイカ2020年2月号:特集=書体の世界, pp.156-164(2020.2)
三中信宏 2021. 鳥獣戯画の体系学 —— 架空生物の分類と系統.特集〈《鳥獣戯画》の世界〉 http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=3556&status=published ,ユリイカ2021年4月号, pp.227-234(2021.4)
いま過去の寄稿履歴を確認してみて,ワタクシはすでに十分すぎるほど『現代思想』や『ユリイカ』に書いてきたことを再認識した.著者によっては原稿を頼まれればすべて引き受けるという多能の人もおられるようだが,ワタクシはそういうタイプの書き手ではないので,このあたりで年季明けの御役御免にしていただこうかな.
—— 要するに, “次の人” が舞台に上がるべき時代がやってきたということです.とりわけ生物学の哲学者はもっと積極的に『現代思想』に名乗りを上げてください.yuiami さんもぜひどーぞ! 日本語で高座を務め,日本語で檄文を書く人がいま求められています.心当たりのある “次の人” はそろそろご用意を.ほら,出囃子が聞こえてきましたよ.おあとがよろしいようで.